『サクリファイス』オリジナルサウンドトラックに寄せて(大津沙良/壷井濯)
vol. 9 2020-03-31 0
映画『サクリファイス』を応援してくださる皆様へ
いつも、この物語と共に歩んでくださり本当にありがとうございます。
本作のクラウドファンディングにご協力くださった皆様へのリターン特典の一つとして、本日より大津沙良さん作曲による〈映画『サクリファイス』オリジナルサウンドトラック〉のデータ配信がスタートします。対象者の皆様には、夕方5時頃メールにてURLが送信されますので、そちらよりダウンロード頂ければと思います。収録曲は以下になります。
♯01 「サクリファイス」
♯02 「無言歌/薄明」
♯03 「微睡の行方」
♯04 「イーシャ/崩れゆく物語」
♯05 「燃えろよ燃えろ」
♯06 「小譚歌」
作曲(M-1〜M-6)/大津沙良
twitter:@O2sansosan
e-mail:saraohtsu.music@gmail.com
歌唱(M-5,6),作詞(M-6)/ぐみ(fromパスワードの人)
録音(M-6)/三菱鉄郎(カタカナ)
twitter:@udera
全曲がこのサウンドトラックのために再編成・再録されたものとなります。
大津さんによるもう一つの『サクリファイス』の物語に、是非、耳を傾けてみてください。
併せて、大津沙良さんと監督の壷井濯による文章〈『サクリファイス』オリジナルサウンドトラックに寄せて〉を下記に公開致します。是非、ご一読頂けますと幸いです。
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この度は、ご支援をいただきありがとうございました。改めて多くの方に曲を聴いていただけること、素晴らしい気持ちです。文章を書くことが得意ではないために曲を作っているようなものなので、どんなものができあがるのか不安な気持ちですが、サクリファイスという作品と音楽に寄せて、綴っていこうと思います。
壷井さんから「映画の音楽を作ってくれませんか」というお話をいただいたのは、遡ること2年半前、2017年の9月でした。全く予想しないお誘いにとても驚きましたが、お声がけいただいたのがこれ以上ないほど嬉しくて、二つ返事で「やります!」と言った後に、でも映画の音楽って今まで作ったことがなくて……しかも映画についても全然詳しくなくて……大丈夫でしょうか……とお話したのを覚えています。
『サクリファイス』の曲を作り始めたときは、まだ映像はなく、演じる役者さん達の顔もわからず、脚本の第一稿だけが在りました。私はそれを何度も読みながら、監督の肌にもっとも近いところにある、ある種生のものだな、と感じていました。この曲たちを書いているとき、普段よりもあまり「曲を書いている」という感覚がせず、シーンや人物の色を想像し、それにふさわしい音階を当てはめていく、答え合わせのような作業をしていました。その人物らしい楽器や、そのシーンを象徴するフレーズを探して当てはめました。このような書き方をするのは初めてでした。壷井さんが脚本に散りばめた色を集めるのは、知っている街の知らない路地を進んでいくような感覚でした。曲をどこにどのように使うかは、全て壷井さんにお任せしました。音が入った映像を初めて見た時、メインテーマが流れた瞬間鳥肌が立ちました。甚く感動しました。なんだか緊張して、口の中がカラカラになりました。
今回初めて映像を離れた場所で皆様に曲を聴いていただく機会ができ、裸の曲たちを見られるようで、怖くも楽しみな気持ちです。皆様の感じるまま、映像を思い出しながらお楽しみいただければ幸いです。
最後に、『サクリファイス』の大きなテーマとなっている、東日本大震災について。私は震災そのものを経験していません。当時、長崎にいました。当時自主的に情報を得ることが困難な状況に置かれており、ほぼ情報が入ってこない漠然とした恐怖を抱えながら、数日後東京に帰りました。それから、一種の罪悪感のようなものを感じていました。報道を見てつらい気持ちになっても、私は決して当事者にはなれないと思いました。私は「絆」という言葉を使ってはいけない、使えない、と思いました。
歌をぐみに書いてもらった『小譚歌』という曲は、「続くこと」をテーマにのひとつにして書きました。他の曲にも、同様の意味を込めたものがいくつかあります。
劇中でソラが話した言葉が、ずっと私の中で響いています。
向き合う機会をくださった壷井さんに、心から感謝しています。
そして改めて、裸の曲たちを見てくださる皆様、本当にありがとうございます。曲を聴いていただくことで、もう一度『サクリファイス』を観たい、と思っていただけたら、とても嬉しいです。
大津沙良(音楽)
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映画『サクリファイス』は、大学のゼミで「3.11をテーマに脚本を書いてくる」という課題が出たところからスタートした作品で、本作の音楽を担当してくれた大津沙良さん(つっぺさん)もその時そこに居た。僕は大学に友だちの居ない所謂〝ぼっち〟だったので、その時はまだつっぺさんとも言葉を交わしたことはなかったけど、彼女が与えられた課題に対し「3.11とピアノ」の物語を書いてきたこと、そしてそれを読んでこの人は本当に音楽が好きなのだなと思ったことをよく覚えている。僕が休学を繰り返している内につっぺさんは卒業となり、もう喋る機会もないだろうと思っていたある日、彼女から「私が所属しているバンドのMVを撮ってもらえませんか?」という連絡が来た。僕の作品を時々観てくれていたのだと言う。嬉しかった。打ち合わせのために会いに行くと、つっぺさんの隣に、着物を着た金髪の綺麗な女の人が座っていた。それがバンド〈パスワードの人〉のヴォーカルのぐみさんだった。つっぺさんと、ぐみさん。後に自分の長編デビュー作の主題歌をこの二人につくってもらうことになるなんて、その時はまだ知らなかった。
MVを撮ることになった。ロケ地は静岡県富士市の海で、『サクリファイス』にもたくさん出てくる。ロケハンをしている時、もうすぐ悲しいことが起きることを僕は知っていて、それなのに海も空も何もかもが綺麗で、胸が張り裂けそうだった。絵コンテを書いた。その綺麗な景色の中で、つっぺさんがピアノを弾き、ぐみさんが歌い踊る絵コンテ。悲しいことが起きた。つっぺさんに電話をして、撮影を延期させて貰えないか相談した。バンドの予定が全て狂ってしまうので、文句を言われても仕方がないと思ったけど、つっぺさんはただこちらを気遣う言葉をくれた。勝手な言い分かもしれないけど、あの時のことを少しでも分かち合えたことは、『サクリファイス』の音楽をつくって貰う上ですごく大切なことだったのではないかと思っている。MVを撮った。大切な作品になった。何よりつっぺさんの楽曲と、ぐみさんの歌声の大ファンになった。
大学に復学して、スカラシップに選ばれて、『サクリファイス』の脚本を映画化することになった。音楽をつっぺさんにお願いした。負担をかけてしまうことは分かっていたけど、書き下ろしの主題歌もお願いした。いつか長編を撮る時はそうしたいとずっと思っていた。歌と作詞はぐみさんが良いですと言った。図々しくも。撮影から二ヶ月後には学内発表というものがあって、編集を待っていては間に合わないので、脚本だけを頼りに制作を始めて貰った。つっぺさんのご両親が経営されている喫茶店〈宵待月〉をお借りしてのシーンの撮影の日、できたばかりの一曲目を聴かせてもらった(M-2無言歌/薄明)。聴き始めてすぐ、ヒロインの翠をイメージした曲だと分かった。過酷な運命を背負いながら、それでも大切な人に会うために地獄のような世界を疾走する少女の姿が浮かんだ。このまま続けてくださいとお願いした。撮影が終わって、編集で心がくじけそうになる時も、音楽が届く度に持ち直した。この音楽ならこういう風な編集にしようと、引っ張られて変える時も多々あった。特にオープニング(M-1サクリファイス)とエンディング(M-2小譚歌)の役割は大きく、放っておくとドロドロに溶け出してしまいそうな危うい物語を、そっと包み込んでくれる優しい掌のようであったと思っている。エンディングで写真家の松下知之さんの波の写真(あの綺麗な静岡の海の写真だ)を使うことを思いついたのも、つっぺさんの音楽を聴いてからだ。
先にも述べたが、脚本だけを頼りにつくって貰った曲が多いので、本当は一つの完成された楽曲であったにも関わらずこちらが勝手に切り貼りしてしまったり、使わない箇所が出てきたりして申し訳ない気持ちもありつつの、だからこそ今回、サウンドトラックとして一曲通して聴いて貰える機会ができてとても嬉しい。これは、つっぺさんによるもう一つの『サクリファイス』だと思っている。本編を思い出しながら聴いて貰うのも嬉しいが、登場人物の過去とか未来とか、そういう描かれていない部分が僕には浮かんだ。全ての楽曲をこのために再編成・再録してくれている。『小譚歌』もぐみさんがわざわざ歌い直してくださった。歌詞などについては、ぐみさんによる素晴らしい文章が劇場パンフレットに紡がれているので、野暮な言及は避けるが、一つだけ。僕はこの歌を単なるエンディング主題歌ではなく、本編の一部−−−−聞き逃してはならない重要な台詞、見逃してはならない誰かの表情のように思っている。そのように想える楽曲を作ってくださり、お二人には本当に感謝しかない。
映画が完成して、つっぺさんに感想を聞いたら、「(音楽が)聴いててちょっと恥ずかしくなっちゃいますね。特にラストとか、あまりにも壮大で……」と笑ったのがすごく印象的だった。それは、僕自身がこの映画に抱く感想と同じだからだ。悪い意味ではなく、観ててちょっと恥ずかしくなってしまう時がある。そのことを鼻で笑う人も居るかもしれない。でも、それだけ本当の思いをやきつけたからだと思っている。「壮大」なものに挑むことから逃げなかった。格好つけて、斜に構えていたって何も始まらない。不器用だとしても、僕ら確かに世界に対して言葉と音楽を持ち、決意を表明して見せたのだ。そのことを誇りに思っている。
壷井濯(監督)