<V8J絶叫上映企画チーム 小池さんに聞いた>日本の劇場鑑賞と映画パンフレット
vol. 14 2018-11-01 0
日本に映画パンフレットがあることが幸せだなって
近年、盛り上がりを見せる絶叫上映と応援上映。その中でも一際目立つのがV8J絶叫上映企画チームだ。今回はそのメンバーの一人である小池さんに話を聞いた。自身の映画鑑賞と映画パンフレットのエピソードからイベント上映を手掛けているからこそ見える日本の映画経済について話を聞いた。
ーー最初に買った映画パンフを覚えてますか?
『パルプ・フィクション』(1994)だったと思います。映画を観始めたのが1996年、18歳のときで、高校を中退して二年くらい浪人してたときでした。中退して急にやることが無くなって、ただ地元には映画館が無かったのでレンタルビデオ屋で借りて映画を観てました。
今でも影響を受けているんですが当時、平安堂というレンタルチェーンがあって。そこでフリーペーパーが配布されていたんですけど毎回マニアックな映画のレビューが載っていて、それを読むのが楽しくて毎週通ってました。
平安堂では映画のポスターやパンフが中古で売っていて、ビデオを観てついでにパンフを買っていました。『パルプ・フィクション』のパンフはそこで手に入れて、あと『レオン』(1996)『トレインスポッティング』(1996)なんかもそこで買いました。その時は劇場で映画を観るというよりビデオ文化でした。
二浪して京都の大学に進学してからようやく映画館が近くにあるという環境になりました。当時は『ファイト・クラブ』(1999)や『マトリックス』(1999)などが公開していた時代です。あの時はインターネットで手軽に情報を得る環境になる直前くらいの時期で、映画秘宝もまだ創刊したばかり、映画の情報を取るとなるとパンフが大事でした。大学に通っていたのが1999年から2003年だったのでちょうど大学卒業ごろにインターネットが普及したと思います。
--ネットが普及してからパンフを買う頻度に変化はありましか?
2004年頃からミクシーが普及、よく使っていたのでそこで情報を取る分、買うことが減ったような気はします。ただ、ミクシーはある程度コレクション自慢の要素があって、僕はDVDコレクターだったので「レアなDVD持っている」だとか、吐き出し口としてネットを利用していました。そんな中、パンフも「これ買ったよ」と情報交換したくて買い続けてましたね。
ーー先日『死霊館のシスター』(2018)のパンフに寄稿されていましたが、パンフに執筆するのは初めてだったんでしょうか?
初めてでした。『死霊館のシスター』のパンフって色々な学者さん、評論家さんの文章があって、シリーズの総決算となる内容で本当すごかったんです。そんな中、僕のコラムは息抜きの一つとして読んでもらえれば嬉しいなと思っています。
ーー映画公式の媒体であるパンフに自身の文章が載るというのは、どういう体験なんでしょうか?
今、執筆をする人の幅が増えていると思います。それは多岐にわたってという意味で、タレント以外のツイッター上で影響力のある方々も含めてです。そういう方々が採用されている流れの中で、自分もありなのかなと思いながら書きました。
ーー「流れ」というのはキーワードですね。映画パンフは公開時に売られるわけで。その時代に流行していたモノや考えを知るための資料にもなる。例えば、将来『死霊館のシスター』のパンフを手に取る人がいたら、小池さんのコラムを読んで絶叫上映が盛り上がり始めたタイミングがいつだったか、その状況を知ることができますよね。
ツイッターやフェイスブックをはじめとするSNS、インターネットって自分の欲しい情報を選んで見るもので。それって自分自身が編集したもの、自分に都合のよい情報だけを見てる状況なんです。それはあんまり良くないなと思っていて。だからこそ、パンフのような他人が編集したものを見ることって楽しいと思うんです。
ーー『死霊館のシスター』のパンフ内に書かれた絶叫上映のコラム一つとっても、絶叫上映を知らなかった人にとっては新しい発見になりますよね。
書き手と読み手の出会いとしてパンフの意味があるんだと思います。今回は絶叫上映のコラムがあった、でも他の作品ではまた別のコンセプトで書き手が選定されてパンフが作られていく。作品毎にパンフのコンセプトが違って面白いという点もパンフの良さですよね。あと、パンフについて一つ思っていることがあって。映画パンフレット文化ってすごい、日本の環境すごいって思うんです。他の国ではパンフレットってないみたいで。日本の映画文化ってすごいと思うんです。
ーー詳しくお聞きしたいです。
こんなにも多くミニシアター系やワールド映画、各国の映画が字幕付きで丁寧に公開されているのは日本だけです。たとえば2017年は日本で1200作品が公開されていますが、映画大国と言われるアメリカは700作品程度。日本はインド・韓国に次いで上映本数は3位くらいらしいです。しかも、そこにはパンフレットという日本独自の文化がある。この状況を世界規模で考えるとすごいこと。パンフから紐解くと日本の映画鑑賞の環境がいかに充実しているかということに気付くんです。
だから洋画の公開が本国より遅いとか、原題と異なる意味の邦題について配給会社を批判するのもいいんですが、もっと良い点を認め合えたらいいなって思ってます。絶叫上映に限らずファンのやりたいこと、求めていることと配給の思惑をオープンに話しあうが機会がもっと他にもあっていいんじゃないかなと。
ーー独自という点では映画パンフは冊子や本のような形態をとっているのに、本屋では売っていないというのが不思議ですよね。映画に関連する独自の商品というか。
パンフはグッズ扱いと聞いたことがあります。劇場で売り切ることを前提とした商品。映画自体の公開が終わると販売も終わるので増刷も滅多にない。昔は作品の公開が4週間、ミニシアターだと2カ月で長期スパンの公開が多かったと思うんですが、今やシネコンの上映ラインナップは毎週更新されています。弱い映画、弱い配給会社の作品は一週間で打ち切られてしまうこともあります。そうするとパンフが売りづらくなったり、作られなくなったりする。
そこには映画の公開本数が増えているという背景があって。10年前は1年に600作品だったのが、今や1200作品近く公開されています。公開本数が倍になって、作られているパンフは倍になったのか?たぶん、そうはなっていないです。全体の興行収入は大きく変わっていないので、未来のことを考えたとき、このままだとパンフが作られない作品が増えていくのではという懸念があります。
映画経済全体の問題として公開本数を減らした方がいいのか。ただそうすると多様性が失われることもあって。それを考えるとパンフの現状を考えることは大事、映画業界がどういう状況かを考える指標の一つにもなると思うんです。
ーー映画の経済という視点でパンフを考えるというのはとても興味深いです。
アップリンクやイメージ・フォーラムなど公開規模は小さくてもパンフに力を入れている素晴らしい劇場があります。ただ素晴らしいパンフだからこそ、買った人が読んで終わりだと勿体ない気がしていて。なんでも繋がりをつくっていけばいいというのは好きではないんですが、WEB全盛の現代においてパンフをきっかけにWEBへ何かしらアプローチできれば面白いのではと思います。
ーー絶叫上映といった新しいタイプの上映にアプローチしてきた小池さんならではの視点だと感じます。
V8Jの人間として三年間、活動してきてとにかくお客さんの目線と実際に起きていることのギャップが気になっていました。お客さんからすると映画は配給会社のもの、良いことも悪いことも配給会社のこととして話題になることがあります。しかし、こと洋画の上映においては、とにかく劇場が大切だということを実感しました。観客がお金を払っている相手は劇場ですしね。
配給会社が営業をしても劇場が快諾してくれなければ全国で同時公開ができません。宣伝においても公開している地域に宣伝やTVスポットを投下するからこそ意味があるわけです。だから全て劇場ありきなんです。邦題の選定やポスターのデザインなども配給が劇場のためにやっていることで、必ずしも鑑賞者のためだけにやっていることではないんです。3年で延べ90本の絶叫、応援上映のイベントをやりました。その中で配給会社は、多作化の中で観客よりも劇場に従う必要があるという印象を受けたんです。
そして劇場で販売しているパンフについて考えたとき、洋画のパンフレットの多くは日本の大手の映画会社が作っていることに気が付きます。なぜ劇場を持つ大手の映画会社がパンフも作っているのか。考えてみると、力関係が見えてくるような気もします。
ーーいくつかのミニシアターが自社内でパンフをつくっている理由も分かってきます。
ミニシアター系でも劇場を持っている配給会社は自社でつくらざるを得ないんですよね。1800円という鑑賞料金の配分について考えていくと、パンフが映画配給という事業の中のどの部分からどう予算化されてつくられるか、中身についても考えるようになります。パンフの値段設定は安いものだと700円、高いものだと1200円くらい。仕様が凝っているから1200円なのか、買う人が少ないから1200円なのか。もともと興行収入や映画の構造について考えることが好きだったので、劇場でのイベント上映に取り組むようになってから、色々と腑に落ちることが出てきました。
例えば、日本でマーベル作品の公開が遅いのは(公開本数が多くて劇場が込み合っていて)仕方ないといったことも、全世界で日本だけ遅いというのはファンにとって問題かもしれません。ただ、映画のパンフレットが日本でしか手に入らなかったり、劇場公開される作品が多かったり、日本で映画を鑑賞する環境は良いものなんじゃないかとも思います。
ーー公開が遅いというネガティブな点がありつつも、今の日本の映画観賞にはポジティブなことがたくさんありますね。
今年は良いことがあったと思っていて、それは『バーフバリ 王の凱旋』(2017)と『カメラを止めるな!』の異例の大ヒット。昔もミニシアターであれば一年中公開しているロングランのヒット作品はありました。だた、この20年でシネコンのスクリーン数が10倍に増え、この2作品がシネコンを中心にロングランヒットしている、そこが異例なんです。
ミニシアターでロングランするのとシネコンでロングランするのでは、全然意味が違います。今や最短一週間で上映が打ち切られてしまうシネコンにおいてロングランすることが如何に異例なのかということです。
シネコンの数、興行収入などは日本製作者連盟のサイトなどをネットで調べれば知ることができて面白いんです。そして、映画や、ひいてはパンフの話をしていくと結局は世の中の景気の話になる。単純に景気の良し悪しに興行収入は比例していきます。貧しいときに逆境で良い映画を作る方もいますが、観客は貧しい経済状況でなかなか映画を観ない。映画はやっぱり余裕がないと観れないと思うんです。
日本の映画が数字の面で良かった頃は戦後の復興期、それと1980年代のバブル期だと思います。その二つが大きな山。特に洋画は景気が良かった頃に本当に盛り上がっていました。いまは海外、アメリカの景気がやや良くて相対的に日本の景気が悪い状態が続いているので日本で洋画は優遇されないと感じています。
だんだんパンフの話から逸れてきてしまいましたが…。ここまで話してきたことで、一番伝えたいことは日本に映画パンフレットがあることが幸せだなってことです。あって当然のものじゃないって思います。
(取材・文=加藤孔紀)
【プロフィール】V8J 絶叫上映企画チーム 小池さん
2015年『マッドマックス 怒りのデス・ロード』絶叫上映を皮切りに活動を開始したファン有志による参加型上映企画運営チーム。これまでに100回以上のイベントを配給会社・劇場とともに企画・運営し、観客自身がより自由に、能動的に映画を楽しめる場を調え、提供している。映画は静かに観るのが好き。