<パブリシスト矢部紗耶香さんに聞いた>『榎田貿易堂』パンフを読み解く(前編)
vol. 8 2018-10-18 0
編集者はどういう思いを込めてパンフレットを作っているのか?
デザイン、表紙の質、コラム選定、構成等様々な意図があると思う。
今回は、映画、ドラマ問わず多くの作品で宣伝に参加し(パブリシスト)、宣伝した作品のパンフレット編集にも携わっている矢部紗耶香さんにパンフレット作りについて2回にわたって伺った。
宣伝というより届けていく仕事です。
だから、スタッフさんのプロフィールがどうしても長くなっちゃいます(笑)
(矢部紗耶香)
ーー宣伝をやっている人がパンフレット製作されているのですね。
それは会社によって違うと思います。私は、もともと映画会社の二次利用の部署で働いていて、その後、フリーランスで宣伝の仕事をしているのでパンフレットというよりマスコミ用に配るパンフレットの簡易版の“プレス”をよく作っていました。フリーランスになったタイミングで編集・ライターの仕事もはじめたのでパンフレットの作成も積極的に参加しています。現在は、これまでお世話になったかたから宣伝のお願いをされることがあったり、自分から携わる作品を選定して決めていますが、どちらかというとメジャーな作品と言うよりはインディペンデント系、役者さんと監督さんと売り手の距離が近い作品に携わることが多いので、密でやりがいがある分、人手も少ないので自分で作ることが多いです(笑)。
ーーその中で、最近パンフレット編集されたのが『榎田貿易堂 』(18)だったんですね。
この作品は、宣伝段階から参加させていただいたのですが、飯塚健監督と渋川清彦さんの地元を思う気持ちが大変強く、また、私自身も地方出身ということもあってぜひ協力させてくださいという思いで参加しました。だからパンフレットも監督や役者さんの思いをできるだけ汲み取ろうとして作っていきました。
ーーそれでは、実際にパンフレットを見せていただきましょう。【表紙】は実際の映画ポスターと雰囲気が違いますね。
渋川清彦さんの男前な横顔です(笑)。この表紙、観た方はお気づきだと思いますが、ラストシーン近くのショットです。この作品の歯がゆさというか、思いをうまく表現した表情ということで宣伝プロデューサーとデザイナー総意でこれにしようと決まりました。少しうるんだ目をした渋川さんが何を見つめているのか。あとから語りますが、裏表紙にその先に見つめるものがわかります。
ーー【表2-1】イントロ、ストーリーのレイアウトが大変可愛いですね。
吹き出しのイントロ案はデザイナーの細谷麻美さんの力量です。細谷さんも監督や渋川さんと同じ群馬出身ということもあり、切り抜き、吹き出しといった細かいデザインを多くしていただいて。ページの端っこから覗き見ている伊藤沙莉さんの写真とかちっちゃいんですけどいい味出してるんですよ。
ーー【p2-3】人物相関図があると作品を振り返る意味でもいいですよね。
そうなんですよ。この作品って登場人物も多いですし、関係性が深みを持つドラマなので、私自身、一度で相関図を作って冷静に話を振り返りたいなと思いました。肩書とかがわかりにくいキャストは宣伝部で相談しました。こうやってまとめると、関係性がわかったうえで映画をもう一度見たいなって気分になりますよね。お客さんもそう思ってくれると嬉しいのですが(笑)。あと、ネタバレになる関係性をどうぼかしたりとかは細心の注意を払いました。
ーー【p4−9】キャスト、スタッフプロフィールは一人ひとり長いですね。
これは宣伝仕事の癖かもしれません。キャストさん、スタッフさんがこの映画を通じて少しでも知れ渡ってほしいといつも思っています。宣伝というより映画に関わっている全ての人や物事を届けていく仕事です。キャストさんはこの作品を観てもっとほかの出演している作品に触れてほしいなとできるだけ長くしちゃいます。あとスタッフさんってフィルモグラフィみたいに携わった作品をまとめているサイトはあるのですが、師弟関係があったり、どういう監督作品によく携わっているかってパンフレットにしかなかなか載っていない情報なのでそういうのを探して記載するのが好きなんです(笑)。あと、このパンフレットでいうとスタッフクレジットに載っているメイキング写真はお気に入りです。製作陣の撮影風景を1枚の写真姿を収めた奇跡の写真です。編集者としては、お客さんにも、飯塚組の熱量が少しでも伝わってほしいという気持ちです。
ーー【p10−13】次はコラムです。西森路代さん、くれい響さんに執筆をお願いする選定理由はあったのですか?
この作品に限ったことではありませんが、作品の雰囲気をみて誰に執筆をお願いするかは毎回一番頭を使うところですし、どんな言葉が返ってくるかわからないワクワク感がある一番楽しみなところです(笑)。西森さんに関しては、育ちやバックボーンに興味をもってお願いしました。地方出身の女性で、しかも監督や渋川さんたちと年齢も近いので、この作品に共感をしていただけるのかなと思いました。あと、私自身も地方出身で、いろいろ思うところがありましたので、その感情を西森さんならうまく言葉にしてくれるのかなと思いました。実際、西森さんはこの作品を大変気に入ってくださったので、素晴らしい原稿が上がってきました。直すことなくそのまま掲載しました。
くれい響さんは飯塚監督を『SUMMER NUDE サマーヌード』(02)の頃から追かけていて、仲が良いことも知っていたのでお願いしました。なので、あがってきた原稿も飯塚監督のフィルモグラフィーから紐解く本作評になっていて大変面白かったです。商業作品としても活躍されている 飯塚監督が10数年ぶりのオリジナルで、ふたたび自分の原点に戻った本作の歩みを描いた評はなんか泣けますね。
後半ページではキャスト対談のコツ、サイズ、劇場によるパンフレット作りなどを掲載します。10月19日(金)アップ予定です。
矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・企画・宣伝・取材・マネジメントなど。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、野外映画イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。
Twitter:@y_b_s_y
映画『榎田貿易堂』 https://enokida-bouekido.com/
(取材・文/岩田)