<パブリシスト矢部紗耶香さんに聞いた>『榎田貿易堂』パンフを読み解く(後編)
vol. 9 2018-10-19 0
前回『榎田貿易堂』(18)のパンフレットの前半ページ、表紙の選び方からコラム執筆者の理由を聞きました。今回は、矢部さんが同じく編集した『サラバ静寂』(18)のパンフレットも踏まえて、さらにパンフレットの世界に深く踏み込んで聞いて来ました。
メイン劇場でどうパンフレットが売れるかは考えています。
宣伝マンとしてパンフレットを作っている強みはあると思います
(矢部紗耶香)
――【p14−17】飯塚監督×渋川清彦×伊藤沙莉の鼎談も面白かったです。
映画を撮り終わって本編を観たからこそ言えることがたくさんあると思います。今作みたいに仲の睦まじい現場じゃなく、撮影時に気まずい雰囲気が流れた作品でも、対談と称して後から振り返ることでわだかまりが解けるときもあるんです。こういう瞬間に携われるのが一番好きです。
今作ではやれなかったのですが、『サラバ静寂』(18)のパンフレットを編集した際は監督×役者の1対1対談をやりました。専門のインタビュアーを付けずに宇賀那監督が聞きたいことを掘り下げることでより密な話が聞けたりするかなと思って。監督にはかなり稼働いただきましたが(笑)。私の作る作品は作り手と役者と観客の距離が近いものが多いので、お願いしやすかったです。
――観客との距離も近いのですね
メイン劇場でどう売るのかはよく考えます。『榎田貿易堂』のメイン劇場は新宿武蔵野館なので、映画好きな方々が、作品を観たあと読み物として深く読んでいただけるのかなと想像して少し文字を多くしようと思いましたし。『サラバ静寂』はユーロスペースでしたので観た後のお客様がすぐ手に取れるように出口で売ったらいいのではと思いました。爆音のライブハウスに近い感覚を味わえる映画でしたので、余韻を忘れないようにと意識した売り方をしました。また、これは私の好みかもしれませんがZINEのようにサイズが小さいものをよく作ります。特に冬はコートなどでかさばるので女性のバッグが小さいんですよ(笑)。
――【p18-19】大変勉強になります(笑)。次はキャストアンケートですね。
皆さんお忙しくて、メールインタビューになってしまったので逆に同じ質問にしました。「故郷についてどう思われますか」などすこし大きく投げたような形でどういう答えが戻ってくるのか気になりましたし(笑)。そしたら、「故郷」と言うものに対して本作を掘り下げていただける役者さんもいれば、自分の「故郷」について書いている人もいて。その人のプライベートが見えるものがあがってきたので面白かったです。
――【p20-21】ロケ地マップがあると映画の世界が広がって感じますねこれは実際に渋川市に住んでいる渋川市役所商工観光部の齋藤大輔さんに書いていただきました。作品を切掛けに渋川市に訪れる方が増えたら良いなと思い、写真も撮影中の渋川の美しい風景を掲載しました。
――【p22−23】コメントの量の掲載数が大変多いですね。
この映画はキャスト、スタッフ、配給、宣伝だけでなく、マスコミ試写で先に観ていただけた人からの熱もあったので、その熱をパンフレットにもうまくとじ込めたいなと思っていました。結局コメントとできるかぎりすべて掲載しました(笑)。でも、その熱の中心に渋川さんがいるという完璧な構図なんですよ。
――【p24ー25】最後は、クレジットときて裏表紙ですね。
クレジットはキャスト、スタッフたちの思い出ですし、私自身、クレジットに乗るのが昔からの夢だったので載せるようにしています。この載せる文化を続けることで映画の世界に入りたいという人たちが増えるんじゃないのかなと思っています。私も、はじめてクレジットに載った渡辺亮平監督の『かしこい狗は、吠えずに笑う』は、今でも忘れられない作品です。裏表紙は渋川さんの後ろ姿です、表紙と反復してみてほしいです。
――ありがとうございました。それでは今後「作り手」としてどのようなパンフレットを作りたいと考えていますか?
写真と文字量のバランスは毎回悩みます。載せたいもの、お客さんに紹介したいものがいっぱいあるのに、文字ばっかりは良くないし、全ては載せることができないんですよ。でも最近気付いたんです、だったら2冊作ればいいんじゃないかなって。『サラバ静寂』の際、宣伝の仕事として多くの媒体さんに取材をして頂きましたが、全ての媒体でできるだけ違う内容にしようと調整しました。ちょうど公開と近いタイミングで刊行された雑誌「DISSCUSS」さんでもキャスト4名をひとりひとりご取材いただいたので、パンフレットと一緒に販売していました。「パンフレットと一緒に読むと、更に深い話が読めますよ」みたいな(笑)。これからもどういうパンフレットというよりは、もっと多くの作品、監督、スタッフに接して、少しでも届け伝えていけるかを考えていきたいです。
――最後に、今回の『パンフは宇宙だ』イベントで一番興味をもっている企画はどれでしょうか
個人的には特別企画ではありますが石塚プロデューサーのお話が興味あります(笑)。私、パンフレットだけじゃなくプレスも好きで収集しているんです(笑)。その中で特に好きなのが『日々ロック』(14)のプレスなんです。カタチもですが、取り出した中身もレコード盤型の作りになっているんですけど、プロデューサーからの熱量が相当込められているんですよ。熱を持つ人はやはり面白いです。だから、今回の銭湯に対する偏愛も期待しています(笑)。
【プロフィール】
矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・企画・宣伝・取材・マネジメントなど。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、野外映画イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。
Twitter:@y_b_s_y
映画『サラバ静寂』 公式
http://www.saraba-seijaku.com/
(取材・文/岩田)