呉の市街地では、若手による新しい動きが始まっている
vol. 22 2020-07-03 0
音戸イロリバHOUSEのリノベーションを担当した地元の建築デザイナー中本氏は、店舗が得意だ。中心市街地にすでに多くの実績がある。建物の歴史や地域の歴史をいかし、それを個性に昇華している。ピッカピカにリノベーションし過ぎないところが、好きなところだ。
中本氏が関わったリノベーションでは、建物の時間を元に戻すイメージだったという。床と天井を解体し、建物のもともとの躯体をあらわにすることで、昔の風情を引き出し、さらに現オーナーの想いを加えて、新しさを生み出している。
「最近は、中心市街地の中通り2丁目界隈が人気となっています。」と中本氏は言う。
中通り2丁目界隈にリノベーションによる新しい店舗が急激に増えた背景には、地域の変化も影響している。かつては商店街組合があったというが、今は新しい地域の結びつきが生まれているようだ。
中本氏の手掛けた案件のうち、中通り2丁目界隈の作品から2つを紹介しよう。
かつてこの界隈は街灯が少なく、夜間がぶっそうなほど暗かった。そこに風穴を開けたのが、中本氏が手掛けた2016年に竣工の「MIYANISHI 271」というヘアーサロンだった。このショップのショーウィンドウのように大きな窓が、屋内のライトによって夜間の通りを明るく照らしたのだ。
もともとは空き店舗だったので壁にシャッターが付いたままだったが、中本氏は、シャッターや壁の看板を取り払い、レンガビルが持つ美しさを引き出そうと考えた。
そして実際に看板を解体していたところ、ビルの角地に隠れていた窓が出現。急きょ、そこを入口に改修することに変更した。
「解体工事から、リノベーションが始まっている」と同氏は言う。建物の状況によって柔軟な対応が求められるためだ。
次に紹介するのが、「CITY LIGHTS」というファッションのセレクトショップだ。中通り2丁目の角地に立つ白い建物で、施主で同店のオーナーでもある下野氏は中本氏が学生時代からの幼馴染だという。
施主の希望したコンセプトは「景色を残す」ということ。市街地の再開発によって少年時代に親しんだ建物が失われている。その記憶を部分的に残せないかと考えた。
例えば、CITY LIGHTSの外観に使われている青いタイルは、呉市の公共建築物のものだ。中本氏は建物が取り壊しになると聞きつけ、事前に許諾をとった後、施主と共に解体現場に急行し、タイル面をそぎ落としてもらって、譲り受けた。引き取ってきた中には壁面ポストも含まれていて、これを注意深くクリーニングしていくと、「海員会館」という文字が浮かび上がってきた。戦前・戦後と呉の中心には船があり、その船員のための「海員会館」は、まさに歴史の生き証人だ。