トークレポートをお届けします。
vol. 41 2014-12-10 0
公開記念トークショーも早や最終週に突入。本日のゲストは舩橋監督が当初から対談を熱望され、実際に本作の舞台裏を書いた書籍では、巻末の対談相手もして頂いた金子勝先生(慶応義塾大学経済学部教授)。話題は、経済学が専門の金子先生にたいして、やはり賠償などのお話からはじまり、週末に控えた衆議院選挙まで。途中、お客様からの質問も自由に受け付ける形でトークは進み、予定時間をオーバーする盛り上がりを見せた。
井戸川前双葉町町長とは震災前から面識がありましたよ(金子)
舩橋:金子先生、早速ですが映画のご感想は?
金子:現実の報道と映画に描かれていることのギャップが大きいですよね。ちなみに井戸川前町長とは震災前から面識がありまして。当時は井戸川さん、水道屋さんで町長の泡沫候補でしたよ。原発にも全面的に賛成というのでなくてね。当選した後、ちょうど7号機と8号機の建設の話があり、莫大な補助金がおりるという最中も彼は「本当にいつまでも原発に頼っていていいのだろうか?」と悩んでいました。それを考えると今は隔世の感がありますね。事故の後も、何度か公演に来てくれ、と頼まれたことがありますよ。忙しくてなかなかいけなかったけれども。そういえば、彼の「仮の町」建設の話も、あんまり報道されなかったけれども、この映画ではそういう報道されていないところが沢山出てきますよね。次の伊澤町長も、原発に積極的なのかとおもえば、映画ではぜんぜん違っているしね。そういう複雑な現状を淡々と記録してくれたということで、とても貴重な映像だなと思いましたね。
舩橋:そうです。特に双葉町のほうは事情が複雑に絡み合っていますよね。たとえば、あの梅田のおばあちゃんの旦那さん。空き家になった家に帰るあのおばあちゃんの旦那さんですけれども、実は原発に絶対反対だった人でして。岩本忠夫という社会党の反原発運動の急先鋒だった人と一緒に活動していたような方です。それこそ、当時、三里塚の成田空港建設反対運動にまで加わった事があるような人ですよ。岩本さんが県議になった時、既に第1原発1号機は運転を始めていたのですね。地元は潤い、反対運動は広がりを欠いた。その後3回県議選に出たが当選できず、スタンスが変わっていきました。そして、最終的には57歳のときに原発推進に転向。保守の票も集めて当選したという歴史があって。これって、双葉町の歴史そのものだなとおもいました。
金子:六ヶ所でも、浪江でもそういう歴史がありますよね。私が一番悲しかったのは、加須の避難所が2万円も多くもらっている、と仮設の住民が詰め寄るシーンです。同じ避難民の中でも分断されて分裂している。まさに絵に描いたような国や東電のやり方がなんともいえない感じでしたね。
建てれば必ず(町が)しがみついてくることが分かっている。そういうところを選んで原発を建てている(金子)
会場からの質問:なぜ、加須の避難所は2万円高いのですか?
舩橋:加須は共同生活でプライバシーがないから、という理由ですね。プレハブでも個室になる仮設とは違うと。精神的な賠償というのが東電の説明です。
舩橋:ぼくはこの映画で「何が金目で、何が金目でないのか?」それを描いたつもりです。たとえば、コロッケを売っていた地元の商店街の話や、16代・600年以上続いた家を失った、ほうれん草農家の方とか。原発事故に関する情報が比較的少ない西のほうでこの映画を見せると、「ああ、そんな問題があったのですか」とびっくりされる事が多いですよ。
金子:西は放射能の関係から食品も影響もないので、実感はないかもしれないですね。福島に関して言うと、やはり土地の評価が凄く安かったですね。ですから、賠償額もやっぱり安くなってしまう。ただ、都会の人間とは違って、生まれ育った土地を離れられない人間というのはいます。仕事も家族も全部そこにあるわけだから、都会みたいに、ほいほいと家を移るようなことはできないです。ちなみに、ぼくはこの映画を見ていて思い出したことがあるのは、水俣を描いた映画です。ナレーションもなく、無理矢理盛り上げようとしている音楽もない。淡々と響いてきて、事実であるということだけがリアリティを伴って強く感じられました。舩橋さん、この映画のこうした作りは誰のアイディアですか?
舩橋:もちろん自分です。原子力という訳の分からないものを相手にしている以上、事実と分かった事だけを描くことしかできないなと思っていました。ですから、被写体には双葉の避難所だけを最初から定点観測で選んでいましたし。そもそも、人間には原子力は理解できないとおもいます。これまで、導入されたときから、平和利用だからとか、石油にかわるエネルギーとしてとか、地球温暖化をふせぐクリーンなエネルギーとか、足りない電気のためとか。そうしたものを相手にするのに、30年後も観られるものにするために、出来事はできるだけありのまま、生のままに捉えたいと考えたのです。
金子:自分はそこまで堪え性がないから、すぐに本を書いてしまう(笑)
舩橋:まさに原子力行政の矛盾というのは、戦後日本の高度経済成長の矛盾がすべて凝縮されているようにもおもいました。そして相変わらず、日本はアベノミクスのように、右肩上がりの経済政策を信じているように見えます。
福島の問題を放置することは、日本の問題を放置することですね(金子)
金子:スハルト独裁政権のときに、日本がODAを出してインドネシア経済は繁栄していたのと同じですね。内部でどんな問題があろうが、いったん既得権益になってしまうと、その岩盤を打ち壊すのは大変ですよ。エネルギー問題にしてみれば、いまは世界的に分散型で、それぞれの地域でやっていくほうが主流になってきているとおもいます。遠く福島から送電線でひっぱってくるのではなく。本当は、伊方のように「原発をやらなくては持ちません」なんて宣っているところは、「あんたのところだけでしょう、もたないのは」と思いますよ。そんなことをしていると、いずれ日本自体がもたなくなってしまう。みんなシステムのどうしようもなさは薄々感じているのに、ますますおかしな部分が肥大化してしまっている。
舩橋:まさに選挙も控えていますが、本当に難しそうですよね。変えるのは。野党の方と話す機会があったのですが、大変ですよ。ベテランも若手もみんな余裕がなくて。
金子:国民のリテラシーが著しく低くなっているのかもしれませんね。中間貯蔵施設にしても、無理な計画が平気で報道されている。算数の世界ですよ。きちんと計算してみれば、あの放射能汚染土が詰め込まれたバックを処理するなんて不可能です。どうして平気で報道できるか不思議です。子供の学力不足を言う前に、大人の学力を心配するのが先じゃないかとおもいますね。双葉町や事故被害をもろに受けた町村が最終処分場になるのは、分かりきっていますよ。誰が引き受けるのでしょうか。伊澤町長も、映画の最後で話していますけれども、分かっているはずですよ。
(中略)
舩橋:いまの世の中の感じは金子先生にはどう思われますか?
金子:福島の問題を放置することは、日本の問題を放置することですね。今回の選挙であまりに野党が大敗して、実質的に議会運営がなりたたなくなると、思い出すのはやはり大恐慌前のドイツですね。安倍さんはそこまでポピュリストではないとおもいますけれども。今は熱狂なきファシズム化が進んでいる、そんな時期だなと思います。
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【今後の予定】
・12月11日(木)13:00の回上映後
鎌田慧さん(ルポライター)×舩橋淳監督
・12月12日(金)13:00の回上映後
鎌仲ひとみさん(映画監督)×舩橋淳監督