映画配給日記 Vol.9
vol. 12 2023-11-20 0
いつも応援、ありがとうございます。監督の高野です。
この日記を楽しんで読んでくれている...という稀有な方がいることを知り、自分の尻を叩いて、書き続けています。応援していただくことで、頑張れることがある。今回、大いに学ばせていただきました。
『マリの話』上映まで3週間を切り、いろいろなことが押し寄せてきましたが、皆様からの応援に力をいただき、何としてもやり切ります!
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11月7日(火)
宣伝美術デザイナーのNさんより、予告編で使用するためのテロップデータが届く。自分で仮に付けていたテロップと差し替えてみると、予告編がグググッと洗練された気がした。まさに、魂は細部に宿る。さっそく宣伝のIさんに見てもらうため予告編を送信。テロップの大きさや配置について、修正のアドバイスをもらう。収録を依頼していたナレーション音声も届き、仮ナレーションと差し替えて、ついに予告編完成! ひとつ肩の荷が下りた。
11月8日(水)
朝、重そうなダンボール箱が2箱届く。受け取る時、まだ寝ぼけていたので「重いですよ? 離しますよ?」と宅配業者の方に3回くらい念を押された。無事に受け取り、もしかしてチラシ?と思って開封すると、チラシだった!500部の束が10束で、合計5000部。納期前倒しで届けていただき、ありがとうございます。手に取るとB5サイズってこんなに大きかったっけ?と戸惑ったが、ちゃんとB5サイズだった。出演者Nさんの横顔が大きく、そして美しく見える。
夕方。諸々の作業を切り上げ、チラシ1000部を持って、各映画館にチラシ設置の依頼をしにゆく。まずは渋谷の映画館をまわることにする。1軒目は二つ返事で受け取っていただき、2軒目は映画館の方針で受け取りNG。3軒目、ちょっと萎縮してしまい、お願いしながら声がかすれてしまったが、快く受け取っていただいた。ありがたい…!その後も何軒かで受け取っていただき、あっという間にチラシ1000部がなくなった。
レイトショーの時間に間に合ったので、デヴィッド・フィンチャー『ザ・キラー』を見る。ハラハラしながら楽しめる映画で、先日見た『ゴジラ -1.0』とか、こういう映画だけを見て人生を過ごせたら、人生楽しいだろうな...というバカみたいな感想。とにかく、とても楽しんだ。
10月に『マリの話』試写を見てくださった新聞社の記者Wさんより、取材のご提案をメールでいただく。ありがたいと思い、即返信。
11月9日(木)
朝。今度は平べったいダンボールと筒状のダンボール箱が届く。B1そしてB2のポスターも届いた!
宣伝Iさんより、メディアに送るプレスリリースの原稿が届く。ここのところ制作していたポスタービジュアル、予告編、そして濱口竜介監督から寄稿いただいた応援コメントをいよいよ発表する。何点か原稿の修正依頼を出して、Iさんに対応してもらう。
夕方から、再びチラシ設置のお願いのため、映画館行脚。まずは『マリの話』上映館のシモキタ - エキマエ - シネマK2を訪ねる。劇場スタッフの方にご挨拶し、チラシとポスターをお渡しすると、「え、手で持ってきたんですか?」と驚かれた。そうです、バスと電車を乗り継いで、人力で運んできました……。
いつもはメールでのやりとりが主だが、こうしてお話してみると、劇場にも働いている人がいて、人によって劇場は動いているんだなと当たり前のことに気付かされる。K2の皆様、はじめての劇場上映なのでご迷惑をおかけすることもあると思いますが、よろしくお願いします…!
場所を新宿に移し、チラシ設置のお願いを再開。
今回、『マリの話』の劇場上映をしていただけないか、いちばん最初にお声がけした劇場Kを訪ねる。番組編成担当のI さんは好意的に『マリの話』を見てくださったが、様々な上映の条件が折り合わず、いったん他の劇場にも当たってみては?とご提案いただいた。『マリの話』ができる限りよい条件で観客と出会う方法を真剣に考えてくださり、ものすごくありがたいと思った。下北沢K2での上映が決まった際にご連絡すると、Iさんは大いに喜んでくださり、救われた思いがした。
その時のお礼を直接、お伝えしたかった。
劇場受付でお伺いしてみると、あいにく、Iさんは外出中とのこと。ご挨拶したかったが、アポなしで来た自分が悪い。受付の方にチラシをお渡しして帰ろうとすると、ちょうどエレベーターの扉が開き、Iさんが戻られた。「わあ、Iさん!」。なんだか映画みたいだと思った。チラシができたことをご報告すると、「よかったね〜。濱口監督のコメントもあるじゃん!」とキラキラした目で喜んでくださり、なんだか今までの活動が報われたような気がした。
K2の劇場スタッフの方にも感じたばかりだが、劇場とは人なんだなあ、としみじみ思った。次こそは、Iさんの映画館でも上映していただきたい……!
11月10日(金)
映画館行脚3日目。目黒、恵比寿、池袋、新宿、阿佐ヶ谷、東中野と移動し、チラシ設置のお願いにまわった。
新宿の劇場では、7年前に自作の短編『二十代の夏』を上映してもらったイベントでお世話になったOさんが映画館スタッフとして勤務されていらっしゃり、声をかけてくださった。7年も前のことなのに覚えていてくださり、なんてありがたいんだろう……。昨日・今日で、この配給活動のハイライトが来たような、心動かされる出来事が重なった。これからも監督としての活動を続けられるよう、頑張りたいなと強く思った。
夜。大学院同期のKくんが監督した映画を見るため、東中野の劇場へ。試写で既に1回見せてもらってはいたが、12日にトークゲストとして呼んでもらったので予習のため再見。1度目ではわからなかった「良さ」を発見したような興奮を覚えた。
試写で見た時、宣伝で謳われている「男女の別れの物語」には正直乗れなかった。たしかに「男女の別れの物語」が語られてはいるが、もっと別の良さがある映画なのではないか、でもそれが何かはわからない。そんな印象で、1回目に見た時はあまりピンとこなかった。しかし今回、もっとフラットな状態で映画を見直してみたら、見逃していた「良さ」が素直に頭に入ってきた。
宣伝というのは映画を観客に届けるためのプロセスのひとつだが、ものすごく重要な仕事なんだなと実感した。例えば、観客の興味を引くウケそうな宣伝文句で、とにかく劇場に足を運んでもらっても、必ずしも観客の満足度には繋がらず、映画自体も広がりを生まない。それは映画にとっても、観客にとっても不幸なことだ。(Kくんの映画がそう、というわけではない)
宣伝とは「どういう映画か」というコンセプトを、作品に対して誠実に向き合い言語化して、かつ、しっかり観客も動員しないといけない。それを実現することは、ものすごく離れ業な気がしてくる。
事前に宣伝・マーケティングから逆算してつくる予算の大きな作品など、宣伝と作品がうまく合致することもあるのだろう。しかし、ぼくが作っているような、海のものとも山のものともわからない、一体どんな映画ができるのか全く不明な状態からはじめ、思いもしない映画が出来上がる…そんな映画の作り方をしていると、そりゃ宣伝をどうしたらよいか宣伝するとき悩むよね、と今感じている難しさに必然性を覚えた。
上映終了後、監督Kくんやトークゲストの批評家Sさんを囲んでわいわいと語り明かす。映画について話すのは楽しい!