『マリの話』監督インタビュー【前編】
vol. 13 2023-11-24 0
いつも応援ありがとうございます。監督の高野徹です。
『マリの話』公開までいよいよあと2週間、クラウドファンディング期間は残り1週間となりました。日々、たくさんの応援、そして映画への期待のお声をいただいています。力づけられております!
12月8日(金)からの上映に向けて、監督インタビューをしていただきました。インタビュアーは吉野大地さん(元・ラジオ関西「シネマキネマ」ディレクター)。
いち早く、支援者の皆さんにお読みいただきたく、こちらのアップデートにて発表させていただきます!
本日は【前編】の掲載です。
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『マリの話』高野徹 監督インタビュー【前編】(取材・文/吉野大地)
──『マリの話』は4つのエピソードから成り立っています。この構成にされた理由を教えてください。
この映画の出発点は、昨年パリで撮った3本の短編映画です。そのうち1本(森の短編と呼んでいます)はこれまでにない手ごたえを感じる仕上がりで、ただあとの2本がなかなかうまくいきませんでした。森の短編だけで独立した映画にする案も考えましたが、この1本だけで観客が楽しんでくれるだろうかという懸念があった。3本合わさることでお互いに状況や設定などを補完し合う設計にしていたからです。それなら、森の短編を楽しんでもらうための前日譚のような話を追加撮影して、それを繋げるのがいいんじゃないかと思い、現在の4章構成の映画にしようと考え始めました。
──夢の女性に恋するピエール瀧さん演じる杉田が映画監督である設定は、どこから生まれたのでしょう?
森の短編を組み込んだ映画として構想したときに、ホン・サンス監督の作品から借りられるアイデアはないかと思って諸作を見直しました。今回もっとも参考になったのは『映画館の恋』(2005)でした。前半が映画内映画で、後半はそれを見た人たちの話ですね。そこから森の短編を映画内映画にするなら、登場人物は映画監督がいいだろうと思い浮かびました。瀧さんに脚本をお渡しすると、杉田の人物像を細かく考えてくださって、新しいキャラクターが生まれていきました。
──劇中の現実パートと非現実と思しきパートでは杉田のキャラクターがやや異なる印象を受けます。その差は演出されたのでしょうか?
瀧さんからは脚本について幾つか質問を受けました。そのひとつが、杉田が女性を見つけて「マリさん」と声をかけるシーンで、「ここで名前を知っているのはおかしいんじゃない?」と。そこで「だから都合のよいことが次々と起きるんです」と状況設定を説明しました(笑)。そこから先は演出や説明することはなく、瀧さんがうまく演じ分けてくださいました。
──成田さんとはパリで出会われたそうですね。追加撮影したマリのキャラクターに関する具体的な相談はされましたか?
成田さんの演技にも自分の想像を超える謎の部分がありますね。パリで撮った成田さんが出演する短編(本作の映画内映画)では、清純だったのが男性経験を経て転落してゆくキャラクターでした。それとはまったく異なる女性を日本で撮ることになって「驚かれるかな?」と思ったら、そういうこともなく、自然に受け入れてくださったように思います。
──フミコ役の松田弘子さんも含めて、演出面で特に心がけたことや、それによって生まれた変化を教えてください。
成田さんとはパリで撮影して、遠慮せずに話せる関係を結べていたため、あれこれとお互いに試してみることが出来ました。とりあえずやってみて失敗しても、成田さんなら許してくれる感覚があったので、いろいろと実験的なことが出来たと思います。
瀧さんと松田さんに対しては、おふたりが演じるうえでいかに違和感をなくしてもらうか、そこを大事にしました。リハーサルで脚本の読み合わせをして、修正が必要なポイントをすり合わせる時間をもらいました。そこでの作業が最大の演出だったかもしれません。
主におこなったのはセリフの微調整です。瀧さんは杉田の人物像を確立されていたので、「彼ならこう言わないでしょう」という提案や、俳優の立場からの意見をもらいました。不確かな脚本でしたが、杉田の筋の通った人物像が、観客をこの映画に迎え入れる拠り所となった気がしています。
松田さんは俳優活動の一方で言語に関わることもやっておられて、翻訳者・歌人でもあられます。言葉に対してとても敏感な方です。脚本に書いていた女性のセリフ──いわゆる女性語──に対して修正のリクエストを多くもらいました。たとえば「あなた筋がいいわね」というセリフの「わね」といった女性語を、「あなた筋がいいね」に修正するなど、記号的な女性の言葉を排していくやり取りがありました。その作業によって、フミコというキャラクターがより「紋切り型」から離れられた感覚があります。
また撮影時の松田さんは坐骨神経痛で、それでも出演してくださり、歩くシーンを撮る際は松葉杖が必要でした。劇中で特に説明もなく杖を使っているのは、そうした理由からです。杖を使う歩行がマリと出会うきっかけになり、脚本でもその部分を変えました。
【後編】に続きます。