制作日誌<企画編>⑥
vol. 6 2025-05-12 0
久米島の魅力の一つに島民たちの懐の深さというのがある。それが観光資源だと言っても決していい過ぎではないだろう。
町役場への訪問を終えた夜、私と共同プロデューサーの平田理とで、理の幼馴染の友人2人が待つ居酒屋へと出かけた。慣れないプレゼンに履き慣れない革靴。湿気を帯びた暑さの中をこれまた普段は着ないスーツで過ごしていたため、妙な疲労感で酒を飲まずともすでに頭は酩酊状態に近い。そんな20時前。シマバルようじの暖簾をくぐり、友人のHとTが待つ個室に着くと、ふたりは笑顔で出迎えてくれる。
HとTと会うのはその日で確か3回目だった。しかし二人はどこからともなく、懐かしさと優しさと心強さを醸し出して迎えてくれる。別に深い話を朝まで語らいあったことがあるわけでもなく、過去に殴り合いの喧嘩をしたわけでもなく、思い出を共有してるわけでもなんでもないのに、この二人が繰り出す居心地の良さは一体何なのだろうか。同窓会とか、旧友と久しぶりに会った時にしか感じたことのない感覚。ここって地元だっけ?と錯覚しそうにすらなる。
そこでまた思い出すあのキャッチコピー「実家よりもあったかい、ゼロになれる島」。役場の対応も然り、この二人の接し方、もてなし方もまた地元のような実家のような、肩肘張らずに安心してくつろげるような雰囲気がある。島に行くとついつい飲み過ぎてしまうのもそのせいである。ということにしておこう。
「ところで」とHが言う。「音楽は誰がやるの?」
その時点では特には決まっていなかった。シナリオを書く際にインスピレーションを得るために何千回も聞いた曲があるにはあるが、サントラのことまではまだ頭が及んでいなかった。「何も考えてない」と正直に言うと、Hは「〇〇(某有名アーティスト)だったら、島内の音楽イベントとかを仕切ってる後輩のMが連絡できるから聞いてみるといいさ。ちょうどM、あっちのテーブルで飲んでるし、ちょっと呼んでくる」
そこからわずか数日後には、そのアーティストとの交渉が始まるわけですが、公表はまた後日のお楽しみとして、外に出れば仲間が増えるのもまた島の面白さ。(Mはその後、映画実行委員会のメンバーにもなってくれた) 出会いが増えていくのも映画制作の醍醐味の一つでもありますが、その後も島を訪れるたびに新しい出会いが連なり、島のみんなで映画を作るというのも、ただのコピーでもなんでもなく、次第に現実味を帯びてくるのでした。
みなさま引き続き応援・拡散どうぞよろしくお願いします!
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