のび。さんからのコメント&自薦作品10編
vol. 3 2024-12-16 0
こんにちは!
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ご支援ありがとうございます!
今日は書き手の紹介の2回目として、のび。さんのコメントと自薦作品をお届けします。
創作物があるから生きていられる、だれかのシェルターになる作品を書きたいという思い、そして素敵な10編の作品を読んでいただけたら幸いです!
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のび。さんからのコメント
「どうして創作をしているんですか?」
と、聞かれたので
「だって毎日辛いことばっかりじゃないですか?」
と、答えたらその場にいた人がみんなぽかんとした顔をしていました。
こんにちは。のびです。東北の片隅で小説を書いたりエッセイを書いたり短歌をつくったりしています。
その時は慌てて「ほにゃららら」と取り繕ったけれど本当のことです。
過去を見れば後悔ばかりで、未来を見れば不安しかなくて、じゃあ現実の生活はといえば苦しいばかりでままならず、良いこともあったはずなのに何も覚えていなくて、頭の中に蘇るのは悪いことばかり。長く生きれば生きるほど生きづらさを(ここ、リズミカルで良いですね)感じることが多くなりました。
まさかここまで思ったように生きられないとは!!
それでもなんとかやってこられたのは、この世のありとあらゆる創作物のおかげです。
小説、漫画、アニメ、ゲーム、映画、テレビ、絵画、器、カプセルトイ、民芸品などなどなどなど……。そういった創作物の「面白さ」に助けられながらなんとか元気にやっています。自分が「面白い」と思えるものが、この世に存在するという事実が本当に救いになっています。冗談ではなく本当のことです。辛いことばかりの毎日の中で、あらゆる創作物は私にとって避難所、シェルターの役割を担っています。その無数のシェルターに助けられながらなんとか生きてきた私は、気が付くと自分でも創作をするようになりました。
毎日辛いことばっかりです。
でもその恨み辛みをそのまま小説にするのかというとそうではなくて。
だってシェルターなので。
自分が「面白い!」と心から思えるものを、シェルターを作るように、手を抜かず、こだわりながら、希望を込めて創作をしています。辛いことや嫌なことや苦しいことが全くない世界を描く、というわけでもなく、辛いことや嫌なことや苦しいことがありあり(ありあり!)の世界でも、確かに生きる価値はあるのだと、自分自身が思えるようなそんな物語を祈るようにつくっています。そんな物語をつくっていると、不思議なことに現実でも変化(自分の140字小説の作品集が出版されるみたいなこと)が起きたりして、わずかですけれど人生に希望を持つことが増えました。
そんなふうに物語を書いているので「自分の書いた作品で誰かを救いたい!」なんておこがましいことだと思いつつも、それでも誰かの気休めに、ほんの一瞬の気休めにでもなれたらといいなと思ってしまいます。自分が誰かの創作活動で助けられてきたように。恩返しなんていうとまた大袈裟になってしまうし、アマチュアでもプロでもない、野良の、いい年した、口ばっかりの、人生を上手く生きていかれない自分が言えることでもないんですけれど、そんな物語をがんばって書いていきたいと強く思っています。自分のためにも。誰かのためにも。
どうか、ことばのふねのつくる本があなたのシェルターになりますように。
のび。さんの自薦作品10編
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船の到着が遅れているので家に戻ることにした。薄暗い家では妻が疲れた顔で座っていた。そこへ息子がやってきてドカッと座ると、ビールをグラスに注ぎ、体を震わせ泣き始めた。死んだ私にできることは何もなかったが、家族のそばに座り、彼らの幸福を願った。船はわざと遅れてくるのだと後から聞いた。
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芝さんは誤解されている。一八〇センチの長身で驚くほど猫背で額に大きな傷がある。その顔を見た子どもは泣き出し、犬は吠え、猫は逃げ出す。芝さんは毎週日曜の深夜にインターネットラジオで本を朗読する。その優しくて力強い声は人を救う。でも誰も芝さんのことは知らない。芝さんは誤解されている。
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知恵の実と呼ばれるその貴重な果物を、現地の人々はみんな酒に漬け込んでしまう。聞けば、そのまま食べると頭が良くなり過ぎてしまうからだと言う。出来の良い知恵の実酒は、主に葬式で盛大に振舞われる。皆で少しだけ馬鹿になり、明るく死者を弔い、そして来たるべき喪失の痛みに備えるのだ。
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無職のお化けに会ったことがある。駅前の蕎麦屋でだ。「周りが定職に就けとうるさいのです」とお化けが言うので、私も無職だから気持ちが分かると言うとお化けは酒をおごってくれた。それから何度かその店へ行ったが、再びお化けに会うことはなかった。職に就いたのかもしれない。未だ私は無職である。
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晴天。風、波、良し。これから観光船「おと」が出港する。港は見送りの人でいっぱいだ。最後の乗客である船長がタラップを降り、整列した乗組員と共に敬礼をした。引退後の余生は船自身が決める。それがこの海のルールだった。汽笛の音。今初めて「おと」は自らのための航海に出た。どうか、よい旅を。
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引っ越してきた町にスーパーマーケットの幽霊がいる。元は五〇年営業していたスーパーで、生前というか築前の姿のまま空き地にぼんやりと建っている。築前は、地元の住民にとても愛されていたそうだ。当然、買い物も何もできないのだが、懐かしそうな顔でそのスーパーを訪れている人をよく見かける。
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眠れない夜だった。寝返りを繰り返し、もうだめだとベランダに出た。日中の暑さが夜まで尾を引いていて、行ったこともないのにジャングルみたいだと思った。それなら闇の中に見える光は野生動物の眼だろうか。呼びかけるように夜の街に手を振る。静寂の中、確かに何かが手を振り返すのを感じた。
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とても心が弱っていた時期のことだ。家のすぐそばに急に広場が現れたことがあった。広場はいつも無人で、小さなベンチがあった。そこに座ってじっとしていると不思議と心が落ち着いた。私が元気になると同時に広場は消えた。きっと今も誰かに寄り添っているのだろう。穏やかで優しい野良の広場。
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自宅の黒電話が鳴ったので、受話器を取ると聞こえてきたのは「私」の声であった。この世にはいくつもの世界が並んでいて、ときどき混線するのだと言う。「元気か」と聞かれ私は元気だと答えた。嘘であった。元気かと聞くと「元気だ」と返ってきた。嘘だと分かった。電話は切れた。子どもの頃の話だ。
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人に裏切られて大泣きした夜、きつねうどんが食べたくなって、作った。食は灯だと思う。暗闇の荒野のような毎日をその小さな光に向かって歩いている。うどんを食べたその瞬間、美味しいと言ってしまいそうになって、こらえた。私の中の感情をその一言で終わらせたくなかった。生きてやる、と思った。
のび。さんのプロフィール
1987年福島生まれ。趣味は創作と逃避。2010年福島県文学賞小説部門 文学賞。2022年から星々主催の140字小説コンテストに参加。2023年第3期星々大賞受賞。2023年NHK全国短歌大会特選。2023年福島県文学賞短歌部門 文学賞。
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短歌を毎日書き、140字小説集と短歌の本を作って販売しています。
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