へいたさんからのコメント&自薦作品10編
vol. 2 2024-12-12 0
こんにちは、ほしおさなえです。
クラウドファンディング完了まであと51日!
ご支援いただいた皆さま、ありがとうございます!
現在、刊行に向けて本づくりの作業の方も着々と進んでいます。
書き手の皆さんは本に載せる作品60編をセレクト中です。
収録数を60編にしたのは1編ずつをじっくり読んでいただきたいと考えたからですが書き手の3人はすでに多くの作品を書かれているので、60編に絞るのはなかなかたいへんかと思います。
また、個人作品集では作品の並べ方も重要です。
1編ずつの作品を書くのとはまた別の形で、皆さんそれぞれ自分の作品と向き合っています。
今週から書き手の皆さんからのコメントと自薦作品10編を紹介していきます。
ほんとうに素敵な作品ばかりなので、ぜひ読んでみてください。
そして、気になった作品がありましたらご支援や拡散をお願いいたします!
第1回はへいたさんです。
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へいたさんからのコメント
小さい頃から他人といるのが苦手で、たくさんの人と接すると大抵夜に熱を出します。知人などに言わせると、気の使いすぎなのだそうです。その場にいる人全員とコミュニケーションを取ろうとするのがいけないのだとか。
元気のなさそうな人を見ると、つい、何か面白いことを話そうとしてしまいます。最近の失敗談だとか街で見たへんてこなものだとか。なにもなければどこからかお菓子を調達してきます。要するに、とりあえず笑わせようとするわけです。
自作の140字小説全体を改めて見直してみると、かなりの部分が小話のようなものになっていて、思わず苦笑いしてしまいます。正直にいうと、いつでも、何を書いている時でも、目にした人にちょっといいものが残って欲しいと思ってしまうんです。「ちょっといいもの」ってなんだ、と聞かれるとうまく答えられないのですが、とにかくなにか「ちょっといいもの」ではあります。自分で言うのもなんですが、私はそういうものを見つけるのが上手だと思います。というのも、世渡り下手で、おっちょこちょいで、毎日全然うまく行かなくてひんひん泣いてばかりいるので、誰よりも自分がそういうものを必要としているからです。
動物たちが出てきたり、強引にハッピーエンドを捩じ込んだり、非現実的な話がかなりあります。書いた自分は知っていますが、これらは全て本当の話です。私は実は嘘をつくのが非常に下手な人間です。小さい頃からいい加減なことを言うととことん突き詰められて育ったからだと思われます。もういい大人なのに、「あの時、あの人に言ったことは正確ではなかったかもしれない」という後悔で眠れなくなったりするぐらいです。それは創作物を書く時でもそうで、SNSで書いただけなのに、「あれは嘘だな……」と思うとすぐに眠れなくなります。つくり話に嘘も本当もない気がするけど、それでもやっぱり、自分の中にはあるように思います。
どの話にも、あまり立派な単語や表現は出てきません。多分、私の書くものの一番の特徴だと思います。華やかな言葉や空中遊泳のような比喩にこっそり憧れていますが、自分では書けないように思います。
例えば父や、例えば母や、友人、職場の人、街ですれ違う人。
田舎に育った自分には、まわりのほとんどの人が本や活字とは縁遠い人たちでした。
私自身は本の虫に近い子供でしたが、それはどちらかというと「変わり者」で、「本が好きだね」「賢いね」という大人たちの言葉は必ずしも褒め言葉ではないということに気がついていました。大人になってからはもっと顕著です。何かを説明して、そのような答えをもらうときは「あなたの話の意味がわからなかったよ」と言う意味である時が少なからずあります。
わかること、ましてやわかりやすいことが必ずしもいいことではないと思います。でも、多分、私が話したかった人、笑わせてきたかった人はそういう周りの、自分にとっての普通の人たちなのだと思います。そういう人たちに、自分の見つけたちょっといいものを届けたくて、報告したくて、もがもがもがいて来たのが私の140字小説たちです。どこかの誰かに届いてくれたら、とても嬉しいです。
へいたさんの自薦作品10編
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「ぴい」と鳴らせば「ぴい」と応える。子供の頃は草笛を鳴らすだけでみんなと通じ合えた。大きくなった指で葉っぱをつまんで唇にのせる。「ぴい」と鳴らしても故郷の川辺に応える友人は誰もいない。皆、大きくなったのだ。吹いた葉っぱで舟を編んだ。川に流す。「元気かい」。いつか誰かに届くといい。
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透明なハガキに透明なインクで手紙を書いた。ぺたり。切手も勿論透明だ。ポストにいれるとコトンと乾いた音。返事が来るのを待ち侘びる。ある日カタンと音がして何処からか透明なハガキが届いた。透明だから差出人も分からない。けれどきっと私とおんなじ寂しがり屋だ。返事を書いた。透明なハガキで。
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ナマケモノが隣の森の友達に会いに行くことにしました。大事な用があったのです。住処の木を降りるだけで半日。隣の森まで一週間。目的地に着く頃には用事をすっかり忘れていました。「着いたよ」ナマケモノが言います「着いたね」友達も言いました。それから二人で同じ木で眠りました。いい夜でした。
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放送委員になれば放送室に入れる。密かな憧れだった。初めて入った時溜息が漏れた。狭い室内にマイクとプレイヤー、そして壁いっぱいのレコード盤。曲を選ぶ度、冒険みたいに胸が高鳴る。宇宙飛行士が三人写ったジャケットがあった。月面着陸とある。中を見ると空だ。彼らも冒険に出ているらしかった。
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熊本を訪れたとき山道に大きな牛がいた。赤牛だ。パンフレットで見た。放牧されている。私を見ても微動だにしない。近寄ると量感でずしりとくる。私の上半身程もある頭でこっちを見る。昨夜旅館で食べた肉を思い出す。こんなに大きい生き物を私は食べたんだ。牛は草を食んでいる。一礼して通り過ぎる。
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オホーツク海、北太平洋、ベーリング海、アラスカ湾。広い海を回遊した鮭がわざわざたった一本の故郷の川を目指す理由は、よく分からないのだという。不思議だ。懐かしい家族が待つ訳じゃないのに。「合理的じゃない」窓の外を眺めながら呟いた。アナウンスが流れる。列車がついた。故郷への墓参りの。
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港町の高校が廃校になった。漁村は寂れる一方だ。最後の卒業生が門をくぐり、桜がそれを見送った。海風が校舎に吹き荒ぶ。桜の木も放置されて枯れてしまった。春に花びらが散って皆驚いた。近づいてみるとやはり枯れている。「幽霊?」と誰かが言って、それでおしまいになった。魂の名残が散っていた。
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夏休みの間学校の図書室の隣の部屋が開く。小さな部屋だ。中には壁いっぱいの宝物。校長先生秘蔵の豆本、理科の先生がアフリカで集めた動物の毛、古文の先生の絵巻物、留学生の母国の辞書。あとはポツンと椅子が1つ。「夏の空想部室」。ドアにはそう書かれていて夏休みの終わりと共に消える。扉ごと。
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散髪する日は近くの天ぷら屋に行く。月に一度のご馳走だ。天丼は上と並(赤だし付き)、それに定食。上天丼には海老が追加、定食には小鉢付き。海老天二本は胃にもたれるし、小鉢はなくてもお腹いっぱい。隣でおばあちゃんが定食を前にビールを飲んでる。赤だしをすする。ご馳走も、並程度の私の毎日。
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寂しがりやの道がありました。「僕の行き先はどこだろう」うねうねぐねぐね探します。森を抜けて教会を過ぎて、小さな噴水が見えました。「誰かここに来ないかな」寂しがりやの噴水でした。道が噴水の周りをぐるりと囲むと、小さな広場になりました。皆が歩いてやってきて、誰も寂しくなくなりました。
へいたさんのプロフィール
1981年愛知県生まれ。コロナ禍にSNSに投稿開始。2021年ショートショートnote杯モノ・マガジン賞受賞。2022年名古屋の魅力推進事業「コトノハなごや」佳作。同年140字小説コンテスト第2期星々大賞受賞。2024年第二回ひなた短編文学賞佳作。
https://note.com/heita3rd/
https://x.com/heita4th
日ごろはnoteを中心に活動しながら、即売会などのイベントにも参加。140字小説のほか、ショートショートの作品集も出しています。