金子文子 短歌 ④
vol. 36 2024-11-21 0
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盆蜻蛉(とんぼ)すいと掠めし獄の窓に
自由を想いぬ
夏の日ざかり
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免役や若き女囚が結ひ上げし
銀杏返しの
今日は乱れず
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浴みする女囚の乳のふくらみに
瞳そらしぬ
なやましさ覚えて
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瀧白く松みどりなる木曾の山の
姿ちらつく
獄のまぼろし
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狂ひたる若き女囚の蔭に隠れ
歌ふて見しが
咽喉は嗄れ居り
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我が心狂ひて欲しなどふと思ふ
声あげて歌
うたうて見たさに
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初夏やぎぼしさやかに花咲けば
緑の色の
頓に褪せ行く
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手に採りて見れば真白き骨(こつ)なりき
眼にちらつきし
紅の花
*
うつむきて股の下より他人(ひと)を見ぬ
世の有様を
倒(さか)に見たくて
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よろめきつ又よろめきつ庭に立てば
秋空高し
獄の昼過ぎ
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返り咲き庭の山吹三ッ五ッ
佇みて思ふ
己が運命(さだめ)を
*
(表記の異同がある場合は、1976年黒色戦線社刊『金子文子歌集』に倣いました)
◉参照文献:金子文子ウェブ記念館 全歌集 其の一