ホームレス状態の人々を永続的にゼロにする~HFのキーパーソンは語る①森川すいめい
vol. 1 2016-08-03 0
ハウジングファーストを東京で実現するためには、医療関係者、社会福祉関係者、不動産業者など様々な立場の人たちの連携が欠かせません。
一般社団法人つくろい東京ファンドが参加する「ハウジングファースト東京プロジェクト」は、都内でハウジングファーストを実現するために、6つの団体で構成しているコンソーシアムです。このプロジェクトのキーパーソンに、ハウジングファーストの理念やプロジェクトを進めていく上で大切にしていることをうかがいます。
第一弾は、池袋地域でホームレス支援を続けてきた精神科医の森川すいめいさんです。
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ホームレス状態の人々を永続的にゼロにする
森川すいめい
1973年、池袋生まれ。精神科医。鍼灸師。
2003年、ホームレス支援のNGO 団体「TENOHASI(てのはし)」を立ち上げ事務局長就任。東京・池袋で炊き出しや医療相談などを実施。同年、ホームレス状態の人の精神疾患有病率調査を日本で初めて行う。09年、認定NPO法人「世界の医療団」東京プロジェクト代表医師に就任。陽和病院勤務を経て、みどりの杜クリニックにて勤務。アジアアフリカを中心に、バックパッカーとして世界40か国以上を旅した。
「ホームレス」支援というと、路上生活状態、つまり「ハウスレス」の状態に注目されるために、衣食住や仕事を提供することが重要だと考えられがちです。しかし私たちは単純な屋根のない状態を問題とするだけではなく、「ホーム/HOME」つまり、心から安心できる場、落ち着ける場がないという「ホームレス状態」に注目します。
現実を見ていくと、路上生活はあくまでひとつの生活の状態に過ぎず、それに至るには複雑な事情や社会構造に根本的な原因があるとわかってきます。単に衣食住の支援をすることだけでは本当の支援にはなりません。もちろん、衣食住や就労支援といった「対症療法」によって路上生活から脱した人たちはいます。
その一方で、単なる対症療法では路上生活から脱することが困難な人たちがいます。背景には、経済効率中心の世界、より金を持つ人ほど機会を得やすい社会、人と人のつながりが乏しくなった地域、偏見差別、暴力、孤立、障がい、福祉支援の不足など、現代の社会構造によって生み出された生きづらさがあります。10代の人、女性、心身の障がいをもった人たちや、80歳を超えた高齢者がいます。
そのような状況にある多くの人は、たとえ路上生活から脱したとしても抱えている困難は変わらないため、再び路上生活の状態に戻ってしまいます。この生きづらさに対しての行政そして民間団体による支援は極めて乏しく、よりサポートや理解が必要な人ほど路上生活から脱することができない現実があります。
私たちが実施した調査では、ほとんどすべての人が、路上生活から脱したいと回答しました。しかし路上生活に留まり続ける人たちが多くいます。その理由の多くが、路上生活から脱しても、再び路上生活に戻るだけだと不安に思い諦めていることにありました。彼ら彼女らの本当のニーズは、単純な「ハウスレス」状態の解消ではなく、生きていく場としての「ホーム」安心できる場やつながりの維持、暮らしの力の回復でした。
路上生活の状態にある人の路上生活に至った生きづらさへのケアを行うことによって、その人が再び路上生活状態に至らないための力を得ることです。同時に、この実践を社会に伝えることで、同じような事情でホームレス状態になる人が一人でも減ることです。
以上のことから、我々は、このプロジェクトを次のように定義しています。
ホームレス状態の人の数が、現在及び未来において永続的にゼロとなるよう、支援を実行し、課題を分析し、社会に提案し続ける。
私たちは、現場に医療と福祉を届け、法律家や病院とも協働し、シェルター事業を行い、訪問看護ステーションの開設に関わり、路上生活から脱した後の生活支援を行い、孤立を防止する居場所作りをすることによって、活動を開始してより200名近くの人に対して路上生活から脱する支援を行うことができました。今後はこれらの活動をさらに強化し、使命実現のための新たな支援システムを構築できるよう計画を立て、実行していきます。
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