「火づくり」制作レポート(2019年3月号)
vol. 29 2019-03-09 0
皆さん、こんにちは。「火づくり」の監督の松浦です。
3月になりました。
少しずつ、気候の変化に春の兆しを感じております。
皆様は、いかがお過ごしでしょうか?
1月と2月は、受注のお仕事でバタバタでした。
SNSにも書き込みましましたが、「妖怪人間ベム」のリメイクになる
「BEM」というテレビシリーズ作品にご縁があり、参加しておりまして、
3月の頭まで、担当話数の絵コンテ作業で缶詰でした。
夏からOAの予定なので、是非、ご覧になってください!
「火づくり」の方も、メインスタッフと着々と制作を進めています。
今日の夜、メインスタッフの定例会議です。
(みんな、いつもありがとう)
今回は、去年の12月に1回目として書きました「ちょっとした読み物」として、
多少読み応えのあるニュースレターにしようと思います。
今回は「キャラクターデザイン」について、お話ししたいと思います。
●「火づくり」のキャラクターデザインについて
少し前ですが、 tampen.jpというサイトで、キャラクターデザインについてのコラムを
掲載させてもらいました。
アニメーション用のキャラクターデザインと、作画監督を担当してくれている
中村ユミさんのコメントも載っていますので、ご覧になっていない方は、
是非、チェックしてみてください!
tampen.jpでのコラムは、作業が始まった際の経緯などをお話ししましたが、
今回はもう少し俯瞰した感じで、考えていることを話してみようと思います。
まず、日本国内のテレビや劇場で視聴できるアニメーション作品の多くは、
プロダクションスタイル(原画、動画、仕上げ、というワークフローが前提の作り方)が
主流となっていて、漫画・ゲーム・小説などが原作になっている場合が多いです。
いずれにせよ、とにかく「線」と「色」が多い(笑)
この事については、メリットとデメリットがあります。
メリットの第一位は、視聴覚体験としてよりリッチな映像にしやすい事。
情報量を上げやすい、とも言えます。
デメリットの第一位は、作業の負担が大きい事。
制作コストが高い、って事ですね。人の手間としても、お金的にも。。。
以前、演出で参加していたテレビシリーズは、劇場作品並みに、キャラクターの
線が多く、ラッシュチェック(カット毎の映像チェック)の時も、「線パカ」と言って、
線の「描き忘れ」や、「描き間違い」が多発していました。
それ自体はどうしても起こってしまう事ですし、反対意見を述べるつもりは
ないのですけれど、自分がオリジナルで作品を作る立場になった時、
「ここにはスタッフの労力を割くべきではないな」と思っていました。
キャラクターの描線が複雑化することは、先ほど述べたように、「リッチな映像」
という指向性を持ちやすいです。
止め一枚の絵でも、鑑賞に耐えることができますし、何より見た目が豪華(笑)
あるいは原作の漫画やゲーム作品がある場合は、それらを踏襲・リスペクトする
必要があるので、そういった事情からも軽視できない要因です。
以上の経験から、「火づくり」のキャラクターデザイン、ひいては、
作画コストについて考えた時、「極力、線を少なくしよう」という指針が
自分の中で、明確にありました。
「自制作コストを下げたい」という考えもありましたが、描線を複雑化することだけが、
アニメーションの絵の価値を高めるのではない、と思っているからです。
ここが自分としては、一番大切に考えている点です。
アニメーションには、映像としての「時間」があり、「セリフ」「音楽」「効果音」
といった音の次元の要素があり、キャラクターの絵以外にも、背景やCGや特殊効果など、
作画以外で世界観を支える要素がたくさんあるからです。
(総合芸術と言われる所以ですね)
なので、「シンプルな線のキャラクターでも物語は描けるし、作品の価値を高めて
いけるはずだ」という信念のもと、作業を進めていった次第です(笑)
「髪の毛を描かない」というのも、同じ考えから採用しています。
実は、世界観の裏設定として、彼らが髪の毛を出さない理由があるのですが、
それはまた別の機会に(笑)
そして、キャラクターデザインの中で一番重要とも言えるビジュアル要素である
「眼の描き方」についても、黒一色で表現することを徹底しました。
日々の仕事で携わるアニメーションは、とにかく「眼の描き方」が複雑なんです(笑)
眉毛、睫毛、黒目、白目、瞳孔、ハイライト、瞼の影、照り返し、、、ナドナド、、、
そこに労力を割いて、出来上がる絵は、もちろん素晴らしいし、キラキラした眼の
キャラは見ていて楽しい気分になるので、個人的は大好きです。
ですが、「アニメーションの絵は、それだけじゃないはずだ」という想いが
ずっとあったので、「火づくり」は敢えて業界のトレンドに逆行するような考えを貫きました。
元ネタは大友克洋さんの「大砲の街」という短編作品です。
あのザラザラしたタッチの絵が大好きで、大学在学中の作品は真似した絵で
作品を作っていました。
「火づくり」も、当然「大砲の街」の系譜に当たる絵になりますが、
あのザラザラした描線は、上記に述べたこととは別の意味のコストがかかってしまうので、
僕なりに考えて、作戦を練り直しました。
仕上げさんの作業の段階で、キャラクターの影部分にマスクを作成し、
そこに撮影でタッチ線を合成しています。
すでに公開している「DryDryTry」のMVなどは、その手法で制作を行いました。
タッチ線を入れる方向はカットやキャラごとに調整するようにしていますが、
この部分については、撮影スタッフがコツコツ作業を進めてくれています。
(いつもありがとう!)
・・・という感じで、このような事をつらつら考え、今のビジュアル表現になっています。
まだまだ1カット1カットの中に込めている思いやいきさつを話し出すと切りがないので
今日はこの辺で、失礼します。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
今後とも短編アニメーション「火づくり」を、どうぞよろしくお願い致します!
「火づくり」監督 松浦直紀