衣裳について
vol. 25 2022-08-22 0
今日は、衣裳の製作を担当した崎村に話を聞いてきました。
私は元々、衣裳さんでも、スタイリストさんでもないのですが、今回は衣裳に特化して依頼を受けました。「ごん」のときにも衣裳は制作していましたが、八代さんから言われたのは「衣裳じゃない、服じゃない、構造物を作りたい」というオーダーでした。
八代さんもイメージしたことをいろいろ伝えてくれるんですが、例えが遠すぎて例えじゃない・・・(笑)おそらく八代さんも、どう伝えていいのか分からないイメージのまま、五里霧中というか、七転び八起きというか、人形もない状況の中、手探りでスタートしました。
以前、川本喜八郎さんの人形の修繕をお手伝いしたことがあって、何百体もの人形が全て1点物のオートクチュールを着ているという非常に贅沢な作りでした。
1体の人形のために何人もの人が動き、息を呑むほどの美しさで見えない部分も細部にこだわって作られていました。たとえば襦袢とかね。本当に美的センスが凄かったんです。
全ての人形がキャラクターにあった衣裳を着ており、衣裳が人形にフィットしていたのが私にインプットされて、今回も作りながら当時のことを思い出していました。
川本さんの人形も戦いモノが多かったので、死と隣り合わせのキャラクターなんですね。
甚五郎も命を狙われている身。ただのボロじゃない、魅せるものでなければと思いましたね。
さっきも言いましたが、八代さんから「衣裳じゃない、服じゃない、構造物を作りたい」と言われ、それは何なのだろうか?と考えながら、話し合いながら進めていったんですが、衣裳のヒントになったのが、昔の帆船の木と帆布の扱い方や、発明されたばかりの頃の飛行機の木枠に布を張る構造、あと、楽器の鼓(つづみ)の皮の紐の作りなどを参考にしました。ここで、八代さんが想像する襟の部分の衣裳にマッチすることが出来た気がします。
襟の部分は木枠でできているんですが、八代さんはそこをからくりのように見せたかったと思うんです。木彫の人形を布で覆うのではなく、木の構造物を目指していたんじゃないかと思っています。ただの襟では八代さんの思い描くからくり性が出ない。襟がキーポイントだったので、そこをどう作るか、どう見せるかというのが一番ハードルが高かったです。
人形もまだないのに、衣裳じゃない構造物をと言われ、全てが手探りすぎて、めちゃくちゃプレッシャーでした。責任重大でしょう?(笑)私は元々ファッションに特化した人ではないので、本当に大変でした。本当は八代さんの思い描くことをもっと汲んであげたいと思ってますが、難しくて、汲めているかどうかわからないですね(笑)
それから、甚五郎の襟は安土桃山時代の信長のものと言われる羽織なども参考にしました。デザインの途中で、たまたま手元にあった白と黒の紙を襟の形にして、あくまで参考までにと当てて八代さんに見せたところ「いいねー、これいいじゃん!」と、素材感とか全然違うけど良いと言ってくれたので、甚五郎の襟はアシンメトリーになっています。まぁ、偶然の賜物っていうのも結構ありますよ。(笑)
あと、八代さんの部屋にあった資料本で、真っ赤なアフリカの民族衣装は犬丸の手下の衣裳を作るのに参考にしましたね。あの色の使い方とか。
アニメーションは総合芸術だと思うので、言われたことをそのまんまやるよりは好きにやらせてもらいながら、高いハードルも越えて、まるで飴と鞭のような感じでやっています。そうすることによって、いろんな角度で表情が作れるようになります。実際、甚五郎が動いたときに、衣裳のシルエットの美しさが現れたとき、やっと頂上が見えたというか、視界が開けたと言うか。そんな喜びがありました。川本喜八郎さんの人形たちへの職人魂をみていたからこそ、キャラクター×衣裳のマッチング的なことを考えながら制作できたと思っています。