『波伝谷に生きる人びと』を観る前に~映画に寄せるメッセージ①~
vol. 37 2015-02-28 0
こんばんは。プロジェクトマネージャーの野村です。
昨年の夏、宮城県沿岸部を中心とする11会場で『波伝谷に生きる人びと』を上映する宮城県沿岸部縦断上映会が行われました。上映会そのもののご紹介は、プロジェクト記事をはじめ、フェイスブックや公式サイトにもありますのでそちらに譲りますが、その縦断上映会のため監督の下に4人の有志が集まり上映実行委員会を組織して運営を担いました。
今日からは、その上映実行委員会のメンバーが映画を紹介するために寄せたメッセージを4回シリーズでご紹介します。年齢も職業もバラバラで、ただ『波伝谷に生きる人びと』に惹かれたという共通点の実行委員が語る、それぞれにとっての『波伝谷に生きる人びと』をお読みいただければと思います。
フェイスブック掲載順で紹介していくことにしましたら、トップバッターはなんと私からです。普段書いていることと重複気味かもしれませんが、よろしければご一読ください。
なお文末に掲載されたフェイスブック記事へのリンクをつけておきました、記事では監督のコメントもありますので、興味がありましたら合わせてお読みください。
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ドキュメンタリー映画『波伝谷に生きる人びと』との出会いは今年の5月のことだが、我妻監督との出会いはかれこれ10年ほど前になる。
大学の民俗学研究会というサークルで1年先輩だった我妻さんと知り合い、そこで3件の民俗調査をご一緒させてもらった。それらの調査はそれぞれ調査報告書としてまとめられているが、そのうちの1冊には『鍛冶屋の町の守り神―南鍛冶町三宝荒神社の2年間―』という映画のシナリオが付属する。その映画は、ある神社の祭礼とその祭礼に関わる町の人びとを追いかけた105分の作品であり、その調査を通して、人の営みを映像に撮る我妻さんをわずかながらも間近で見させてもらった。
我妻さんは、一緒に調査をしていて気づくとそこの住民のように入り込んでいることがある。人から招かれ、行事に加わり、最後は「この後もつきあえ」となる。誠実に対象へと向かう姿勢が、人びとに受け入れられるのかもしれない。
『波伝谷に生きる人びと』はそんな我妻さんだからこそ撮影できたのだと私は思う。登場する人物は、カメラに向かっているという緊張もてらいもなく、その飾らない素の言葉には自然体のままの力強さがある。みんな我妻さんに「あんただからいうが」という感じに本音をぶちまけているようだ。
そこには地域のこと、家族のこと、自分のことが過去、現在、未来と縦横無尽に語られ、地域を構成する時間や空間や人間が地元の人の語る言葉のままで表現されている。その1つ1つの語りの魅力や奥深さを丁寧に撮影したこの映画のために、私は上映実行委員を引き受けた。
映画の中に描かれる、かつて地域の政治を司った契約講を構成する旧家と新興の家の社会的、経済的格差と、その格差が漁業の発展を促しながらも海が貧困化する矛盾。産業構造の変化による陸の生業の衰退と弱体化する契約講、その結果としての住民の新たな連帯…このストーリーにあるのは、地域の歴史である以上に日本の近現代史の1場面でもある。
稀有な漁村の1事例などというものにとどまらず、地域や程度の差こそあれ、どこの土地にもあるはずの歴史的な変遷を、波伝谷を通して描き出している。そこで浮き彫りにされる少子高齢化や過疎化など地域の共同体や家の担い手の問題は、どこの地域にも共通する課題ではないか。
そうした背景をもつ契約講の衰退がもたらした地域の新たな連帯は、集落に存在したさまざまな格差が解消され、家々の関係がこれまでと違ったフラットなものとなりつつあることも同時に示している。契約講の家しか担えなかった獅子舞のお囃子が、後継者育成を目的に若い世代なら誰でも行えるのはその最たるものだ。
それでも契約講は、新興の家に協力を仰ぎつつも従来の枠組みの中で存続するところが難しいのだが、伝統的な共同体が変化していく過程は、このようなゆるやかなものでなければうまくはいかないだろう。そしてその変化の途上で震災が発生し、その先にどんな可能性があったのかは残念ながらもはや分からない。
けれど、その営みの変化の中で、1つ1つの課題に向き合い、考え、行動しようとする人びとの姿勢や言葉には、地域や共同体というものを考える大切なものがあるのではないかと私は思う。
我々のような若い世代は、もはや田舎でさえ特別の関心でも払わなければこうした地域や共同体を意識せずに暮らせるような社会にいたりする。けれど、波伝谷の人びとが直面し試行錯誤する課題は、決して今だけの課題ではないはずだ。
波伝谷の人びとが伝統的な暮らしの中で少しずつ変っていこうとしていたように、そして今は復興の過渡期を過ごしながら新しいコミュニティを作ろうとしているように、我々も地域や共同体という課題に取り組む日が来る。
だから、若い人にこそこの映画を見て何かを感じてもらいたい。ひとまずそこから何かを得られなくても、それぞれ魅力的な話を語ってくれる登場人物の中には、きっと惹かれる人が見つかるだろうと思うからだ。
ぜひ1度、映像の中の波伝谷の人に会って、その話に耳を傾けてみてはいかがだろうか。
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※なお、この文章はフェイスブックに掲載したものを公式サイトに再掲するにあたり加筆修正したものを掲載しました。初出の文章は下記にあります。
フェイスブック記事URL:https://www.facebook.com/hadenyaniikiruhitobito/ph...