『波伝谷に生きる人びと』を観る前に~観客の感想から発展して映画のこと~
vol. 36 2015-02-28 0
こんばんは。プロジェクトマネージャーの野村です。諸事情によりアップデート更新が大幅に遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m
さて、『波伝谷に生きる人びと』はこれまで宮城県を中心に全国各地で30回程上映されていますが、その都度お客さんに評価と感想についてアンケートを実施しています。その反応はまさに十人十色で評価も着眼点も1人1人違っています。その感想を読んでいると『波伝谷に生きる人びと』はこういう見方もできるのかと教えられることもあります。現在ツイッターでは1日1回その感想を選りすぐってご紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
そして今日は、そのアンケートに関連して、このアップデート記事ではご紹介していない過去の「劇場公開までの道のり」の記事から「#8~観客の感想から発展して映画のこと~」(2014.12.26掲載)を再掲します。どうぞご一読ください。
********************
これまで県内外で30回ほどの上映会が開かれた『波伝谷に生きる人びと』ですが(改めて数えたらけっこう上映されてるのですね)、ここで映画を観てくださった方からの感想なども紹介したいと思います。
...
いろいろな感想がある中で、監督である僕がとくに気に入ってしまったのは以下の二つ。
・日常の生活のありがたさや、温もり、わずらわしさ・・・いろいろ感じたけど、最後まで観た時、人間同士の愛しさを感じた。ちょっと不思議な感覚でした。(50代女性)
・「絆としがらみ」「失われていくものと残っていくもの」「守っていくものと変わっていくもの」・・・「光と陰」というか人の営みが丁寧に映し出されていて、人間と同じで地域も完璧ではなく成長していくんだなと思え、人々や地域の魅力を感じました。(30代女性)
う~ん、プロの方が書いてくれたような素敵なコメントですね。つい何度も読み返してしまいますね。というのも、この感想を書いてくださったお二人の方は、僕が映画で伝えたかったことをけっこう的確に読み取ってくださったと思うのです。
少し振り返ると、震災後、「絆」とかなんちゃらといったスローガンのもとに、東北の素晴らしさが称揚されることがけっこうあったと思います。もちろん、その素晴らしさを否定するつもりはないのですが、それがあまりに美化されてしまうことには僕の中でちょっとした抵抗がありました。そしてその反発心は、実は『波伝谷に生きる人びと』を編集する上での一つの指針にもなっています。
何故なら、人がある種の憧憬を抱きながらユートピアのごとくイメージする地域の絆というのは、実際にはめんどくさいことだらけだからです。結びつきが強いがゆえのしがらみだったり、わずらわしさだったり。一生懸命伝統を守っているようで、実は当事者にとっては負担でしかなかったり、単なるマンネリズムだったり。そこには光があれば陰もあって、決して美しいイメージだけでは語れません。
でも人が地域の中で生きるっていうことは、そもそもその両方を抱えながら生きていくということだと僕は思うのです。一人の人間の中にいろいろな社会があって、その多様な関係性に絡め取られながら、ときに埋没したり、自己実現したり。変えようにも変えられない現実に葛藤したり、あきらめたり、自分なりに納得したり。
自分たちが一口に言う「地域」とは、実はこうした生々しくて人間くさいものなのではないかと僕は思います。そこには喜びや苦悩といった相矛盾した感情が同時に存在するけれど、だからこそ人はその土地に愛着を持つことができる。複雑ではあるけれど、そこにさまざまな「縁」が開かれているからこそ、人が人として成長できる。そしてこうした人間関係を育むためのシステムやルールは、長い時間をかけて地域が築き上げてきたものなのかもしれません。
だからこそ、先にあげた二つの感想は僕にとって嬉しいものでした。僕が『波伝谷に生きる人びと』で描きたかったもの(の一つ)は、実はこうしたことなのです。波伝谷という一つの小さな世界の中で、一人一人の人生がせめぎあい、影響を与え合いながら、それぞれの時間を生きている。そんな滑稽ながらも愛おしい人びとが織り成す群像劇。それを分かりやすいスローガンに収束させることだけは絶対にしたくない。なかなか言葉でまとめられないくらいがちょうどいい。強いて言うならば「生活そのもの」というか「人の営み」。
というわけで、今回はこの2つの感想を紹介させていただきましたが、映画を観てどんなことを感じるかはみなさん次第です。是非映画をご覧になって、「こんな見方もできるよ」と新しい視点を提示していただけたら嬉しいです。それだけこの映画の中にはいろいろなものが詰まっています。
そして多くの観客に見ていただくためにも、どうかみなさま劇場公開の資金作りにご協力いただけますと幸いです。詳しくは前回の記事をご確認ください。今後もよろしくお願いいたします。(我妻)
********************