『波伝谷に生きる人びと』の舞台を知る⑪~養殖漁業の1年~
vol. 32 2015-02-23 0
こんばんは。プロジェクトマネージャーの野村です。
『波伝谷に生きる人びと』の舞台を知るシリーズは、今日で総括して終わるところでしたが、急遽「海のなりわい」で紹介しきれなかった養殖漁業の1年についてお話してみようかと思います。
カキやワカメやホヤのそれぞれの旬とともに養殖漁業の1年について知っていただければ、身近にある食卓の食材も少し違って見えるかもしれません。宮城にはおいしい地酒もありますので、新鮮な三陸の海の幸とともにご賞味してみてはいかがでしょうか。
波伝谷の主要産業である養殖漁業は、各家3種目までと制限されていることは「海のなりわい」でご紹介しました。いくつかある品目のうち波伝谷を含む志津川湾ではカキ、ワカメ、ホヤが主要な品目になりますが、これらは1年のうち水揚げする旬があり、それぞれ出荷作業は多忙を極めます。今日は、そんな「海のなりわい」で紹介しきれなかった養殖漁業の1年をご紹介してみたいと思います。
1年で最も忙しい時期としては、9月下旬からの養殖カキの殻剥き作業があります。特に価格が高値で推移する10月上旬までは、共同のカキ剥き場は深夜から作業をし、午後は昼寝をして夕方から別の作業を行うこともあるといいます。このピークが過ぎても2月頃まで出荷作業は続き、カキ剥き場は早朝4時から開場するそうです。
カキが落ち着く2月以降は養殖ワカメの出荷時期となり、おおむねワカメは塩蔵にしますが、近年メカブの人気もあることから部位の選別作業が加わります。これが春先まで続き、4月頃からはホヤの出荷がはじまり生食用の他、共同で蒸しホヤにして出荷します。ホヤの出荷作業は8月頃まで続き、9月には牡蠣が再び出荷の時期を迎えますから、間断なく作業に追われることになります。この他に11月から2月まではアワビ、5月頃から8月頃まではウニと、期間中の指定日に採集が許可される開口が行われ、こうした合間に養殖具の手入れ、種の植え付けといった作業をこなさなければならないため、いわゆる漁閑期はないようです。
これら養殖は、いずれも種付けをして、海に吊るしてから収穫できるまでカキは2~3年、ホヤは4~5年、ワカメは半年~といったように成育期間が必要です。養殖漁業が盛んになるにつれて海の養分が失われ、以前と比べて徐々にその期間が長くなりつつあるようです。その分、われわれの食卓に来るまでには、長い年月と手間ひまをかけて届けられていることが分かります。
(参考資料『波伝谷の民俗ー宮城県南三陸沿岸の村落における暮らしの諸相ー』)