日常の中にある循環
vol. 18 2018-07-06 0
かまパン・野菜パン係の山田友美(やまだゆみ)です。
関西での修行時代、国産小麦や野菜をふんだんに使ったパン作りを経験しました。
経験を積んでいく中で、「よい素材を使うこと」「素材選びに理由があること」「つくり手が素材を活かす技術を持つこと」の大切さを知りました。もちろんそれがおいしさにつながるということも。
修行ののち帰郷した香川の地元では、「スーパーやコンビニに陳列された、どこにでもある、同じ味のするパン」がほとんどを占めていました。周りから話を聞くと、子どもにアレルギーがあって乳製品や卵を多く使用している市販のパンは食べさせられず、保育園のパンの日のために、わざわざ遠方からお取り寄せする家庭もあるとのこと。
都会より新鮮な野菜を手に入れることが難しくなく、小麦の栽培も盛んなこの土地で、どうして地元の農産物を使ったパンが食べられないのだろう。違和感は増すばかり。
周りから話を聞いたり、現状を目の当たりにして沸き上がってきたのが「つくり手を身近に感じられるパン作りがしたい」「パンのほんとうの美味しさを子どもたちに知ってほしい」という想いでした。
独立したいという気持ちもありながら踏み込めずにいた時に、フードハブの取り組みを知り、自分の想いと重なる理念があると感じました。
初めて神山を訪れた時。料理を食べて衝撃的だったのは、お米がとびきり美味しかったことと、ひとつひとつの野菜の味が濃かったこと。豊かな自然のなかで真摯に野菜を作っている農家さんがいて、旬の野菜の美味しさを最大限に引き出す料理人がいる。
在来の小麦を使って種を起こし、パンを焼いているパン職人がいる。「素材を美味しく育てる人がいて、大事に使う人がいる。私もそこで働くメンバーの一人になりたい」と思い、神山に移住することを決めました。
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神山に来て、ちょうど1年が経ちました。
今までの人生の中で、一番濃い1年でもあったように思えます。
毎日厨房の窓から朝日が昇るのを見ながら仕事を始めると、次々にメンバーが揃って来ます。
私たちの次は農業チーム。朝採れたみずみずしい野菜を生のまま味見させてくれます。神山の地元農家さんも朝一番で収穫した野菜を持って来てくれます。納品ついでに野菜の説明をしてくれたり、「こんな野菜もあるけん使ってみんでー?」と声をかけてくださいます。
食堂のメンバーも集まってランチの準備が始まる頃、パン屋のオープンと同時に食パンを買いに来てくださる地元の方。「ここの食パンがクセになってしもて他のが食べれんのんよ」と言ってくださる方も最近は増えて来たように思います。いつもプチパンを10個買ってくれる地元のおかあさん。ベーコンエピが焼けるのを狙って来てくださる男性…常連さんの好きなパンもだんだん分かってきました。
お昼頃、神山の野菜を使ったパンが焼きあがります。
「うちの子がこの人参のパンすきでさぁ、すごい勢いで食べるんだよー」
「さつまいも、今まで食べなかったのにパンに混ざってるといっぱい食べてくれまし た!」
親子連れできてくださる地元の方の嬉しい声が届きます。
野菜を納品してくれた農家さんが、ご自身で育てられた野菜を使ったパンのファンになってくれることも。
仕事がひと段落した頃。賄いの時間もメンバー間の大切なコミュニケーションの場です。農業チームに収穫の進捗や野菜について聞きながら、野菜パンの評判を伝えたり、食堂チームのメンバーにはおかずの味付けを聞いてインスピレーションを得ることもしばしばです。みんなで同じ食卓を囲みながら、同じ料理を食べながら、それぞれが違った立場で意見を交換できる貴重な場であり、くだらない話をしてリフレッシュする大事な時間です。
また、次の朝が来て、農業チームや地域の方が野菜を育ててくれた素材を使って私たちはパンを作り、料理を作ります。
お客様が「美味しい」と言ってくれたことを、すぐに育てた人に伝えられる環境がそこにあって、それがつながっていきます。循環は確かに生まれ、繰り返されています。
こういう小さな循環が、日本のあちこちで生まれる未来であるように。
パン職人としての立場でこの活動を伝え、つなげていきたいと思います。