マハタラキ、朝の「叫び」:亀井岳
vol. 20 2017-09-22 0
劇映画の撮影は、長引けばその分、経費がかさばっていくので、どうしても合理的に最短距離で行なうことになる。そうなると、現場周辺にある面白そうなところに好奇心のままに行くことは難しい。もちろん、これは仕事であるので仕方のないところであるが、前作の『ギターマダガスカル』とは、この辺りの制作方法も違っている。
そんな撮影の毎日ではあるが、それでもマダガスカルの地方のリアリティは押し寄せてくる。例えば、二つ目の撮影基地があったマハタラキ。まだ暗い朝、けたたましい悲鳴で飛び起きる。撮影監督の小野ちゃんは、ちょっと見てくるわと飛び出していく。帰ってきてそれは、豚が、と殺される最後の叫びだったことがわかった。
地方の小さな町には電気がない。電気がないということは私たちが日本で使っているいろんな家電もない。もちろん冷蔵庫もない。ビールはぬるい。最初はその程度に思っていたが、冷蔵庫がないということは、その日食べるものは基本的には朝に仕入れて、その日のうちに食べることになる。その日その地域で食べられる豚はその朝しめられるということだ。
われわれのロケ地は、マダガスカル南東部で行なわれたのだが、この地域は山があり、海も川もあって十分な水がある。そのため、海や川の魚、エビやカニ、そして旬の果物や野菜も簡単に手に入る。それらは人々がカゴに入れて売り歩いているので、見せてもらうだけでもなかなかに楽しい。大きな川ガニや巨大な鰻などはけっこう脂がのっていてうまかった。
そんな楽しみをみつけたのだが、明け方の暗いうちにまたしても豚の悲鳴を聞くことになる。それはそうだろう、豚肉がなくなれば食べるために、またしめるのだ。ただ、その場所が、私たちの寝ている小屋のすぐ近くの路上であるのということで、これに関してはまったく慣れることはなかった。
※画像にキレイに捌かれた豚が含まれています。苦手な方はスクロールしないでください。