稽古場ルポ by アンファンテリブル・ユニオン 岩塚
vol. 20 2015-09-02 0
残り3日、カルチケ×15
いよいよ締切まで残り3日になってしまいました。
目標には手が届きそうにない距離にいますが、それでも本番へ向けては確かな手応えが日々増しております。
本日はそんな稽古場から、アンファンテリブル・ユニオンのヤングチームを代表して岩塚くんからの稽古場ルポをアップさせていただきます。
まずは岩塚くんのご紹介。
岩塚 光希(いわつか・こうき)
17歳、現役高校生男子。名古屋在住。東海学園高校演劇部公演にて前川麻子の戯曲「センチメンタル・アマレット・ポジティブ」を上演したことが縁になり、佃典彦主宰のB級遊撃隊「朝顔」公演を観劇時に前川・佃・吉村と出会った。稽古場付きにあたっては夏休みを利用して単身上京、卒業後は東京で進学の予定。
【稽古場付きによる稽古場ルポ】
演劇部を引退した僕は、ある日Twitterで「なんか外部での活動がしたいなぁ」と呟くと、前川麻子さんから「今度の芝居の稽古場付きをしませんか?」とメッセージが届きました。
...稽古場付きってなんだ?
というわけで、どんなことをするのかイマイチ分からないまま、夏休みを利用して名古屋から東京までやって参りました。
8月15日。ドキドキしながら、まずは前川さんとの面談。どうやら稽古場付きとは、基本的に見学をするお仕事のようでした。何か仕事があればその都度任せられる。あとは掃除だったりプロンプだったり。とにかくいろんなことをするみたいです。
僕の他にも、ヤングチームと呼ばれる同じくらいの年代の仲間も居るみたい。早速ヤングチームとも合流。
みなさん何かしら演劇をやっていたり、前川さんと繋がりがある人達のようでした。最初は緊張していた僕を明るく迎え入れてくれた前川さんとヤングチームのお陰で、次第に解けていきました。これなら頑張れそう!
次の日から早速稽古が始まりました。
都内某スタジオにて、初顔合わせ。
自己紹介の後、作・演出の佃さんを交えて舞台美術の打ち合わせ。一方役者のみなさんは衣装についての会議が始まりました。ヤングチームの中で、着付けの勉強をしている人もいるみたいです。初めて見る本格的な舞台の打ち合わせは、僕にとっては分からないことばかり...。現場で覚えていこう。
休憩後、早速読み合わせが始まりました。と、前川さんから「ト書き読んで」と指示が来ました。突然プロの役者の方々の読み合わせに参加させていただくことに!僕は緊張でガチガチでしたが、役者さんは静かに読みを始めました。まだ演じるというよりは本当に読んでいるといったふうでしたが、ときどき感情的に声が出たり。前川さん、寺十さん、吉村さんがそれぞれどの役を演じるのか。読んでみることで分かりやすくなり、脚本の繋がりが見えてきました。佃さんは横の椅子でジッと聞いています。この時点でどんな演出を考えているのだろう。早くも立ちが楽しみになってきました。
次の日は読み合わせの後、脚本の佃さんから作品の意図についての話です。なぜ舞台はいきなり近未来から始まるのか。なぜ名古屋なのか。佃さんが「阿部定事件」をどう捉え、老人介護施設「荘寿苑」での出来事を描いたのか。佃さんの考えを聞き、役者さんも脚本を解釈していきます。
登場人物がみんな名古屋人なんだということも、名古屋に住んでいない役者さん達は頭に入れて演じなければなりません。
次の日は佃さん、演出助手の小形さん、美術・舞台監督の森下さん、ヤングチームの平田くんと、本番で上演する小屋である中野あくとれに下見しに行きました。平台を並べて人を立たせてみたりして、佃さんが客席から眺めます。平台の位置が確定すると舞台端からの距離を測ります。稽古場でこれを再現するためです。稽古場で必要な借用物も確認します。また、本番を想定して役者の待機場所なども確認しました。
こういった舞台の裏を初めて見た僕は、こんなふうになっているのか!と驚くことばかり。
稽古は、一通り読み終えると、「解釈稽古」というものに移りました。脚本を読む上で、佃さんが疑問を投げかけ、役者さんと一緒に考えます。このセリフは、誰に対して?どんな心情で?なぜ言った?役者さんが「こうだと思う」と返すと、佃さんは「じゃあそうしよう」と。こうして役者と演出家が考えを共有することで、今後どんなふうに演じるべきか見えてきます。一つ一つの細かい疑問に対して、本当に細かく丁寧に考えていることに驚きました。
解釈稽古が終われば、立ち稽古...の前に、一つの稽古をしました。前川さんの命名により、「ベクトル稽古」と呼ばれます。椅子を使った読み稽古です。
初めに登場する老婆役の寺十さんが適当な場所に椅子を置いて座ります。そして次に登場する吉蔵役の前川さんは、吉蔵のその時の気持ちを考え、老婆とどんな関係を築きたいか、どれくらいの距離感でいたいかを考えて、位置を決めて座ります。この椅子の位置は、互いの関係上で状況が大きく変わったと思ったら、役者自ら動かします。
役者さんは頭を使ってよく考えながらセリフを読まなければなりません。とても難しい稽古ですが、これにより、相手のセリフを自分はどう受け止めたのか、役者の考えを他の役者と演出に伝えることができます。見ていると面白い稽古ですが、やっている役者さん達は悩んでいる様子でした。
何日かの稽古休みのあと、稽古場は水天宮ピットに移りました。バミリテープで舞台を作り、平台を置いて、いよいよ立ち稽古に入ります。
役者さん達の演技はどんな場面でも力強さがあります。静かな場面ではセリフや表情に引き込まれ、逆に喧嘩の場面ではお互い顔が真っ赤になるほどです。それでも、ときどきわざとセリフを変えてみたりアドリブをするような自由な一面も。しかし台本を片手に小道具を持ったり動きを加えるので、本当に大変そうです。暴れる場面などでは、台本が巻き込まれぐしゃぐしゃになってしまいます。
立ち位置や段取りを確認しつつ、佃さんは役者に指示を出します。傘で突くといった、役者が役者を痛めつけるアクションでは役者が怪我しないように、かつ嘘っぽく見えないようにするかを考えて演出していきます。また、発想も面白く、吉蔵の血を赤い糸で表現するといった発想にも驚きました。「こうしてほしい」と、佃さん自ら舞台に上がり代わりに演じることもありました。
衣装も次第に決まっていきます。衣装が加わると役がだんだん見えてきます。特にカツラと着物を着た寺十さんは本当に怪しい老婆に見えます。老婆と吉蔵、定なんかは着物をたくさん着込んでいます。暑そうです。衣装が決まると、吉村さんも白ブリーフ一丁という衣装で稽古しています。寒そうです。
しかし基本的に着物が多いので、劇中の着替えは大変です。演技にも脱ぐ・着るというアクションが多いので、ヤングチームの女の子達も脱ぎ着しやすいように縫ったりします。
稽古場付きとして参加させていただき、演劇のことをたくさん勉強させていただきました。また、稽古場という現場で、社会で必要なことや、マナーも学ばせていただきました。現場で必要とされるには指示を待っているだけではなく、自分からあらゆることに率先的に動くことが大事なのだと気付きました。
名古屋でまだ高校に通わなければならないので、残念ながら今後の稽古を見ることはできません。
これからどのように変わっていくのか。
本番が楽しみです!