目に見えない“魂” を震わせ、揺さぶる。
vol. 5 2016-05-22 0
私は、沢山いる和太鼓奏者の一人に過ぎません。
ただ、他の人と大きく違うであろう点は、
和太鼓の響きが、「人間の可能性を拓く」と信じてきたことです。
私は、これまでずっと、「見えない力とつながる祈り」として、和太鼓を演奏してきました。
今日、和太鼓の舞台は日本だけでなく、多くの国々で行われています。
その多くは、和太鼓のエンターテインメント性を重視したものであり、
または、世界に通じる「音楽」に高めよう、というものです。
確かに、それも必要なことです。
しかし、私の考える和太鼓の本質は、人間の「眠れる力」=「魂」を呼び覚ますことです。
これは、エンターテインメントや音楽性のみを目的とした舞台では、不可能です。
目に見える楽しさ、面白さだけでなく、目に見えない、人間の“魂” を震わせ、揺さぶることが、
和太鼓の最も大切な役割です。 そして、それこそが“日本の響き”の骨髄です。
和太鼓は、まごう方なく世界最高の「祈りの楽器」なのです。
「見えない世界との交感が、魂の力を発動させる」というと、
少々、奇異に感じられるかもしれません。
実際、私のこの考えは理解しづらく、和太鼓の世界でも異端であり、
それゆえ、苦しさを感じることもあります。
先日、岡倉天心という明治時代の人の活動を知り、思わず落涙してしまいました。
天心は、「見えない世界」を尊ぶ日本の精神文化を、日本人自身が捨ててしまう事を危惧し、
英語で「茶の本」と名付けた茶道の紹介本を書いて、世界に発信したのです。
西洋的な文化に追随する日本人達は、天心の言うことに耳を貸しませんでしたが、
「自己中心の世紀に、真の芸術はない」と信じた天心は自然と響き合う
日本古来の精神の素晴らしさを、まず世界に知ってもらおうと考えたのだそうです。
また、内村鑑三や新渡戸稲造なども、同様に、「このままでは、大切なものを日本人が失ってしまう」と、世界に向けてその精神を伝えています。
私は、その気概に打たれ、深く共鳴しました。
もちろん私自身は、欠点が誰よりも多い人間ですから、
偉大な先人達の思想を、どこまで理解できているかは分かりません。
それでも、
「真実は真実として、普遍的なものは世界に必ず通じる。」
そのように信じる気持ちは、共有していると思います。
・・・次のアップデートに続きます。