焚き火と黒い鳥
vol. 9 2020-04-26 0
会いたい人に会いたい。
会いたい人に会えないのは、辛い。
外出をひかえ、人との接触をひかえることが
医療崩壊をふせぐことになるのだから、出かけたい気持ちを抑える。
外出をひかえるかわりに
会いたい、ということを、ちょっと考えてみる。
+
その人に会いたくなるきっかけ、というのがある。
どこかで目に耳にした情報、なにか知るきっかけがあったのだろう。
思い込み、直感、縁、なんとなく。
その時驚くほどの行動力が発揮されることもある。
あるいは、
会いたい特定の誰か、というのではなく、
誰かに会いたくて、というのもあるかもしれない。
催しものや、公園、図書館、店などに出かけることが多いだろうか。
けれど、正直なところ、社交が苦手だ。
人づてに誰かが紹介してくれる、ならまだしも
まったく知らない人ばかりのところに行くのは気がひける。
そんなときは、焚き火がいい。
一瞬たりとも、おなじ姿ではない火を見ていればいい。
はぜる火の音に耳を澄ましていればいい。
今日は、焚き火で焼き鳥にしよう。
小さな木切れを重ね、ぱたぱたと団扇であおぐ。
夕暮れが地面に落ちる頃、
闇にまぎれて、火と焼き鳥のにおいにつつまれていく。
あたりにいる野良猫のヒゲがぴくぴくと動くだろう。
いつもなら、焚き火のまわりに人が集まってくる。
夕ご飯にいらしたお客さん、予約以上に人が増えて、
スタッフがばたばたと増量したり準備をする。
泊まっているゲストにも声をかける。
釜ヶ崎のおじさんも焚き火に寄ってきて、ことばをかけてくれる。
いつもなら。
でも、いまは、いつも、ではない。
+
変わらないこともいっぱいある。
昨日は、店先でバザーの仕分けをしていると
商店街で、大声と何かがぶつかる音がした。
シャッターにぶつけられた男性が
ふたりの男性に頭を足で蹴られ、怒鳴られている。
そばにいたスタッフに「警察に電話してあげて」と頼む。
数分したら、殴られていた血だらけの裸足の男性が
わたしの前をとおりぬけて、まっすぐに、ココルームのなかに入っていった。
店前で、警察官が来るのを待つことにした。
やってきた警察官に、「殴られてた方の人はこっちです」と奥をさす。
「殴ってた方の人は知りませんけど、商店街のあっちの方」
警察官が10人ほどやってくるので、つぎつぎに奥に案内する。
すると、その男性が「ここのママにお世話になったんや!」と彼らに言うので、
「お世話した覚えはありませんよ〜」とわたし。
つぎに、救急隊もやってきた。
「〇〇さん、昨日もですね。今日の傷はこっちですか?」と慣れた様子。
警察官に連れられて出て行ったけど、
その夜、商店街のカラオケ居酒屋で熱唱している姿をみかけた。
殴られた理由は、無銭飲食だったそうだ。
そして、今日の午前中。
殴られていた男性がココルームにやってきた。
「昨日のこと、覚えてますか?」
「覚えてるよ」
「ほら、ママ、前に、絵描いたり、なんかさせてくれたでしょ」
「え?」どうやら、ココルームのワークショップに参加したようだ。
かすかに思い出す。
「△△といっしょに、さ」
そういえば、最近△△をみていない。「どうしてるん、入ってるん?」
「そやろ。俺は西成きて、7回入った」
「なにしたの?」
「傷害、窃盗・・・・」
「覚醒剤は?」
「親父にはそれだけはやるな、と」
「ええ親父やね」
「ヤクザや」
「あなたは?」
「準構成員や」
「お酒のんでなかったら、話せるね。依存症?」
「そうや、14歳から飲んどる。鹿児島や」
「さみしいの?」
「さみしい。島やからな」
彼の、帰れないふるさとの島、のかたちが
黒い鳥になって、羽をひろげた。
社交は苦手だが、こういうことはすこし話せる。
マスクはしない、と言う。
最近、マスクが苦手な人がいることに気づいた。
どちらかというと、外出をひかえるのが苦手な人ほど
マスクが嫌いな傾向にあるような気がする。
そういう人がココルームにやってくる、ような気もする。
時短とはいえ、お店をあけているから、あたりまえなのだけど。
焚き火に枯れ木をくべよう。
こたえはない。
こくこくと、姿を変えてゆくのだから。