アルマ望遠鏡が見た「ちょうこくしつ座R星」
vol. 8 2015-05-06 0
国立天文台の平松です。アップデート Vol. 4で、「アルマ望遠鏡が目指すもの」として、アルマ望遠鏡がどんなものを観測しようとしているのか、をご紹介しました。アルマ望遠鏡は2011年から観測を開始していますので、すでにいろいろな成果が出てきています。そのいずれもが、アルマ望遠鏡の高い性能を存分に活かした成果であり、アルマ望遠鏡でしか明らかにできない宇宙の姿を私たちに見せてくれています。今回はその中から、ALMA MUSIC BOXの題材になった「ちょうこくしつ座R星」の観測成果をご紹介します。
「ちょうこくしつ座R星」は、日本では秋の夜空の低い場所に見える星座「ちょうこくしつ座」にある年老いた星で、地球からの距離はおよそ950光年です。
ちょうこくしつ座R星(中心の赤い星)とそのまわりの星々。Credit: ESO/ Digitaized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin
太陽にも夜空で輝く星にも、生と死があります。星の死には二通りあり、それは星の重さで決まります。軽い星は、年老いると赤く大きく膨らみ、その表面から星を形作るガスが宇宙空間に流れ出していきます。こうして星は次第にやせ細っていき、最後には星の芯だけが残されます。太陽も宇宙の星の中では軽い方に属するため、約50億年後には膨らんだ後にやせ細ってその一生を終えます。一方で太陽の10倍くらいよりも重い星は、赤く大きく膨らむところまでは軽い星と同じですが、その後「超新星爆発」という大爆発を起こして散り散りになり、華々しい最期の時を迎えます。夜空に突然新しい星ができたように輝き始めるために「新星」という文字が名前に入っていますが、実際には星が生まれたのではなく死ぬ瞬間の大爆発なのです。
アルマ望遠鏡が撮影した、ちょうこくしつ座R星のクローズアップ写真。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
「ちょうこくしつ座R星」は軽い星で、アルマ望遠鏡がとらえたのは星を作っていたガスがまさに宇宙空間に流れ出しつつある様子です。上の写真の中心に星の本体があり、その周りに渦巻き状に広がっているのが、星から噴き出たガスです。いまからおよそ1800年前に星の内部で小さな爆発がおき、大量のガスが宇宙空間に流れ出しました。星のまわりに見える渦巻き模様は、年老いた中心の星のまわりを回る見えない「お供の星」が中心の星から噴き出すガスをかき回していることでできていると考えられています。アルマ望遠鏡では星から噴き出すガスの速度も測ることができるため、この模様が1800年かけて広がってきたことがわかるのです。私たちを日々照らしてくれる太陽も、50億年後には同じようにガスを噴き出しながらその生涯を閉じることでしょう。
私がこの画像を初めて見た時、イラストレーターさんに描いてもらった想像図かと思いました。こんな観測画像はこれまで見たことがなかったからです。実際の観測画像だとわかったとき、アルマ望遠鏡の威力にしびれました。この画像が発表されたのは2012年ですが、いまでもこの画像はアルマ望遠鏡を象徴する観測画像の一つです。
星の死を研究することは、重要な意義があります。それは、私たちのルーツにも深い関連を持っています。私たちの体には、炭素や窒素、酸素などが多く含まれていますが、こうした元素は実は星の中で作られたものなのです。138億年前にビッグバンで宇宙ができた時には、この宇宙には水素とヘリウムくらいしか存在しませんでした。宇宙に星が生まれ、その中で炭素や酸素が作られ、その星が死ぬ時にこうした元素が宇宙にばらまかれたのです。こうしたプロセスの果てに今の宇宙があり、私たちを形作る元素もその歴史をたどれば必ずどこかの星の中にたどり着きます。死にゆく星を研究し、星の中で作られた物質がどのように宇宙に広がっていくのかを知ることは、「私たちはどこから来たのか」を探る手がかりをつかむことでもあるのです。
より詳しく知りたいという方は、国立天文台のプレスリリース
「アルマ望遠鏡が見つけた不思議な渦巻き星 - 新たな観測でさぐる、死にゆく星の姿」
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/pressrelease/201210116856.html をご覧ください。
ALMA MUSIC BOXプロジェクトメンバー・平松正顕
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