ラオス・タオイ族の手織り布のこと
vol. 10 2021-06-07 0
ナムゲルン先生とタオイの手織り布
ーAEFA事務局長さんに教えてもらった山の学校の熱血先生のお話ー
織物が得意なパチュドン小学校のナムゲルン先生 (写真提供:AEFA)
「絵本を読んでアジアの子どもたちを応援しよう!プロジェクト」のリターンには、アジアの手仕事が含まれるコースがあります。
そのうち、「ラオスの手仕事」を選んでいただいた方にお届けしているのが、山岳少数民族・タオイ族(Ta-oy/ Ta-oi) の手織り布です。
この布について、プロジェクトの概要ページには、こう記しました。
南ラオスの山岳地帯に多く居住するモン・クメール語族のタオイ族。
手織りの技は親から子へと代々受け継がれます。
デザインは織り手の頭の中で描かれ、1枚1枚がオリジナル。
手作りの素朴な腰機で、およそ2週間かけて1枚を織り上げます。
木陰で思い思いに腰を下ろし、おしゃべりに興じながら織る姿はさながら井戸端会議。
情報交換や社交の場でもあるそうです。
(女性に限らず男性も織り手となります。)
親から子へと受け継がれる手織りの技
すると、織物や民族学に詳しいコレクターさんからこんなメッセージをいただきました。
「男性も織るなんて珍しい。おもしろいですね!」
確かに、東南アジアをはじめ、ほかの地域で私がこれまでに見かけた織物は、ほとんどが女性の手によるものでした。
そこで、上記のタオイ族の情報と布を提供してくださったアジア教育友好協会(AEFA)の事務局長・金子恵美さんに、もう少し詳しい事情をお聞きしてみました。
パチュドン村の小学校に住むナムゲルン先生がAEFAスタッフに織り方を教えているところ
(写真提供:AEFA)
上の写真は、2004年にAEFAを設立して間もなく、AEFAの理事長・谷川洋(たにかわひろし)さんとスタッフの皆さんが初めてラオスのサラワン県タオイ郡パチュドン村を訪れたときのものだそうです。
小学校の敷地の片隅に建てられた手作りの小さな高床式の家。
そこに住み込みながら、子どもたちに勉強を教えていたのがナムゲルン先生でした。
当時の谷川理事長のノートにはこう記録されていました。
「2畳くらいの空間にハンモックが1つぶら下がっている。このハンモックで先生が眠り、ほかの2つの部屋は子どもたちの寄宿用に開放している。部屋中にぼろ毛布や古着が雑然と置かれている。寄宿している生徒はこの小さな家に8人もいるとのこと。
下屋には、いろんな調味料など日用品の類が置いてある。どうしたのだと聞くと、山の麓から来る行商人から預かって、村人相手に販売。得たお金で子どもたちの学用品や食べ物の足しにしているのだそうだ。
心が揺すぶられた。ここにこのような熱血先生がいる。
子どもたちのため、あらゆる努力を惜しまない先生がいる。しかも彼は、教員資格を持たないが読み書きができるために、ほぼ無償で子どもたちを教えているボランティア先生だという。
この村に新たに学校を建設すれば、この先生が皆をリードしてくれるだろうと、私は確信した。」
手作りの高床式の家の前に立つナムゲルン先生 2005年 (写真提供:AEFA)
この辺りは6月〜9月が雨季。川の向こうにある村に住んでいる子どもたちは雨季になると水かさが増して危険なため、学校に通えませんでした。AEFA一行が初めて訪れたのは10月末でしたが、それでも小さい子たちが川を渡るのは危険でした。
ナムゲルン先生は小さな自宅を寄宿舎として子どもたちに開放していたのです。
(*雨季に水かさが増して学校に通うのが危険という状況は、絵本『ぼくはひとりで』の世界と共通しています。)
谷川さんたちはこの先生に出会って、AEFA第1号の学校建設をパチュドン小学校に決めたそうです。2005年当時、この学校にはラオスのNGOが建てた2つの教室しかなく、政府から正式な学校として認められていませんでした。
その後、AEFAと日本の支援者の方々、現地のパートナーNGO、ナムゲルン先生をはじめとした学校の先生方や生徒たち、村の人たちみんなの努力が積み重ねられ、ここは現在では幼稚園から高校までを備えた地域のモデル校に発展しています。
(パチュドン校の歩みについては、AEFAのホームページからご覧いただけます。)
男性の織り手はめずらしい
そして、このナムゲルン先生の得意なことのひとつが「織物」なのだそうです。
母一人子一人の家庭で育ったナムゲルンさんは、子どもの頃からお母さんに織りの技術を教わっていました。
実はタオイの文化でも、織物はやはり女性の仕事で、ナムゲルンさんのように男性で織物ができる人は珍しいのだそうです。
AEFAが初めてナムゲルンさんに出会った当時、先生は25歳でした。
すでに最愛のお母様を亡くされ、「学校が我が家・教え子たちが家族」だったのです。
ナムゲルン先生は、男性としてはめずらしいタオイ伝統の織り手の一人として、次世代を担う子どもたちに織りの技術を伝えているそうです。
AEFA事務局長の金子さんがいまも大切にしているナムゲルン先生の手織り布
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ところで、「ラオスの手仕事」コースのリターンを選んでくださったコレクターさんから、「布をこんなふうに使っています」という嬉しい写真が送られてきています。
東京都の C.I.さん ソファにかけて クッションはほかの国のもの
千葉県の M.N.さん 初夏らしい涼しげなテーブルセンターとして
素敵な活用例を教えてくださってどうもありがとうございました!
プロジェクト期間は残り3週間余りとなりました。
引き続きどうぞ温かくお見守りください。