世界一尊敬する人と対面(本の原稿少し公開#10)
vol. 14 2021-05-09 0
ゲストハウス開業一年目の冬、3か月ほど休業して南米へ、2018年の新年を迎えた後にペルーからウルグアイに飛んだ。
ここで、旅仲間であるオランダ人のJoueriと合流し、しばらく一緒に旅をすることになった。彼も世界中を巡る長年の旅人なんだけど最初は2014年のモルドバにて出会い、2015年には僕がヨーロッパを自転車で旅してた時にたまたまオランダにいた彼の家に転がり込ませてもらい、2016年には逆にアジアを旅していた彼がゲストハウス開業前に八女に遊びに来てくれた。こうやって別の旅人と世界各国で別の大陸で再会を繰り返すってのも旅人あるあるでもあるし面白いところでもある、何だか世界が狭く感じてしまう。
彼は言った
『数々の旅人に出会って来たけれど、長年の旅の後に帰国してから早々に家を貰えたり楽園を作り上げてる奴を見たのは初めてだ、しかも二つも』
確かに、こんな立派な家を貰えたりするなんて資本主義と少子高齢化が行き過ぎたことによる日本ならではのボーナスだと思う。田舎移住がもっとトレンドであり家の売買がもっとスムーズである西洋諸国、特に国土の狭く利便性の良い平野である彼の国ではそんなことはあり得ないことなんだろう。もちろん僕は自分がラッキーだったということは自覚している。
しかしそれももしかしたら今だけのボーナス期間であり僕らの下の世代にはないかも知れない、毎年毎年、僕の周りの空き家は取り壊されていってるから。
世界中に繋がりがある僕達は彼と一緒にウルグアイの友人の家に転がり込むことになった。日本の半分くらいの大きさでありながら人口350万人程度のウルグアイの面白いところはほとんどの人が海のそばに住んでいて、そこら中を走る車がやたらボロい、そして田舎だったら掘立小屋やネイティブアメリカンチックなティーピー、コンテナハウスや飛行機やバスを改造しただけの家みたいなユニークな家が立ち並ぶ、そこの人達ものんびりしていてまさに国民総ヒッピーのような印象を受けた。何たってムヒカ大統領の偉業の一つとして世界初大麻を完全合法の政策に舵きった国だ。大麻自体はそこまで悪いものではない、それがハードドラッグの入り口になること、そしてそこにマフィアが横行していることが悪いことである、違法にしたってどうせ地下にもぐるだけ、だったらちゃんとした教育と管理をした上で合法にすればマフィアの資金源を断つことができるとだろう、という方針らしい。
西洋の先進国の多くは大麻は民衆の中では割と許容されている、だけどほとんどの国では一応違法なのでコソコソ育てたり吸ったりするという状態。(Jouriの国であるオランダのように合法化して観光資源にするケースもある)
実際に僕が転がり込んだ友人宅でも正面玄関から見える位置で堂々と大麻を管理栽培していた、定期的に警察の方がそれを点検に来るらしい。こそこそ育てるんじゃなくて堂々と育てるなんて面白すぎる。
そしてそこの家はちょっとしたプレハブが二つあるくらいだったので、僕らの寝るスペースはなかった、だからその庭にテントを張らせてもらう。そんな感じが本当にユルくて素敵。そんなユルい国でありながらも南米ではチリの次に経済状況も治安も良いらしい、確かに幸福度は高そうだ、何たってムヒカさんが大統領に選ばれるくらいの国だからそりゃそうだろう。
ちなみにムヒカ大統領はそれだけではなくとにかく弱者を救済する政策を打ち立てていたわけで、若者や貧困層には国民的ヒーローのように人気だった。彼に感化された生き方や、将来はたくさんお金を稼いで彼のように9割を慈善団体寄付するような人になりたいという若者にも出会った。けれど、中年、中間層以上にはそんなに支持はされてなかった印象、まあそんなもんだよね、やはり政治は難しい。けれどもちろん僕にとってもスーパーヒーローだったし、人はどう生きるのが幸せなのかをテレビ越しに教えてくれた偉人だった。
さて、友達のご両親の繋がりを頼りに、ムヒカ大統領に面会できないかとツテを辿っていってもらったんだけど、遠い親戚に政治家の方がいたので、そこを通じてムヒカさんのボディガードにアポを取ってもらうことにした。
すでに大統領ではないけど、当時は上院議員さんとしての役職は持ってたから、日々の政治活動で忙しい。一躍有名人になってしまったものだから世界中にファンがいて日々ジャーナリストなど訪問者がくる。彼もそんなわざわざ会いに来てくれる人との時間も大切にしたいけれど時として疲れてしまうので断ってしまうこともあるらしい。だからボディーガードがそれをコントロールしているという。
聞いた話ではわざわざ日本からアポを取ってウルグアイまで来たけれど急用の出張で会えなくなってしまった訪問者もいたりするんだとか。
また奥さんは副大統領。国内一の要人夫婦でありながらも郊外で質素な生活をしていて、ボディガードはたったの二人、すごい、国が国なら暗殺されてもおかしくないだろうに、、、
何者でもないただのファンの1人でしかない僕だけど、そんな中でもなんとかアポが取れて、会いたければこの日の朝9時に来いと言われたのでその日に行くことにした、友達の両親が親切にも一緒に車で連れて行ってくれた。
郊外の彼の家に到着すると、速やかにボディガードに静止された。ちょうどテレビ局が来ていてムヒカさんがインタビューを受けていたところだった。しばらくすると、ムヒカさんがこっちに向かって手を降ってくる
『そんなところに突っ立ってないでこっちに来いよ!』と
ボディガードには『10分だけだ』と言われたけれど、それでもヨッシャと思い、バックの中からプレゼントするために持って来ていた僕が手掛けた八女茶を取り出して彼の元へ走り出す。世界一尊敬する人が自分の目の前にいる感動、そしてその人はやはり思った通りの人だった、自分の権威を一切も笠に切ることなく、まるで自分の息子に接するように肩を組んで来てくれた。