ヒマラヤ物語-3 ヒマラヤ襞(ひだ)
vol. 7 2024-04-05 0
静寂の響き
ヒマラヤ襞(ひだ)とは垂直に近い斜面にできる雪の造形です。撮影場所はエベレスト街道にあるチュクンが知られています。撮影地は標高 4,600m付近にあり、高山病は覚悟しなければなりません。この地を初めて訪れたのは 2004年のことです。それ以来、三度ヒマラヤ襞の撮影に挑んできました。撮影地には数件のロッジ以外、人工物は見当たりません。そこでは自然の音以外聞こえてくるものはなく、風が止むと無音の世界が広がっていました。(以下は拙著「天空の記憶」から)
夢中でシャッターを切っていた。白い雪の襞が、私の心を捉えて放さなかったのだ。
ようやく満足がいくと、ふと我に返った。静かだ。周りからは、何の音も聞こえて来ない。いつの間にか風もやんでいた。
耳を澄ますと、小鳥たちの羽音が時折ロッジの庭からかすかに聞こえてくる。後ろを振り返るとローツェの南壁が屹立し、山頂付近からは音もなく雲がわき出ていた。
チュクンは憬れの地であった。一度は、連日のフライトキャンセルで諦めた。二度目は、疲労と高山病に苦しみ撤退。そして今、青空とヒマラヤ襞が眼前に広がっている。私は、心を震わせる静寂の響きに圧倒されていた。(天空の記憶36ページより)