コラムをご寄稿いただきました!美しいメッセージをぜひお読みください
vol. 7 2014-09-26 0
編集ライターであり、コケをとても身近に感じられる本「コケはともだち」の著者である藤井久子さんに叡智の杜の取り組みについてコラムをご寄稿頂きましたので紹介させてください。
”人間的で豊かな行為”という記述がとても叡智の杜の目的を言い当てていて、きれいな言葉だなあと思ってしまいました。すっかり忙しい生活からはかけ離れてしまった行為であり、実は私たちが心の奥底で望んでいることなのかもしれません。
苔の懐にいだかれながら
初めて日用町の「苔の里」を訪れたのは晩秋の午後のことだった。
山から流れ込むひんやりとした空気を肌に感じながら杉木立の中を歩くと、足元には一面にコケがよく育ち、地面が緑色に波打っている。まるでビロードの海原のようだ。さらに庭の中央にはこんもりとコケだけで覆われた立派な丘が鎮座していて、そこにはやわらかな木漏れ日がキラキラと射し込んでいる。そしてその傍らにはコケの上に落ちた枯葉を熊手で丁寧にかき集める地元の若者。その情緒豊かな日本的風景に私は思わず感嘆のため息をもらした。
コケを愛でることの楽しみは、空間全体を眺めるだけにとどまらない。次に私はゆっくりとその場にしゃがみ込み、ポケットから取り出したルーペでじっとコケを見つめる。コケは拡大して見てみるとじつに面白い。遠目では同じ緑の集合体のように見えていたものが、じつは色も形もさまざまでとても個性豊かな集団であるという驚き。さらに、一本のコケの凛とした佇まいには薔薇や芍薬にもひけをとらぬほどの美しさが備わり、それらが群落となって小さな生き物たちの命を支えるゆりかごとなっているという自然界のサイクルの崇高さ。目を凝らすほどにその小さな世界に発見が尽きない。
どうやら足元につつましやかに広がるコケには、私たちの感受性や探究心を育む、不思議な作用があるようだ。だから、もうすぐこの地に「叡智の杜」が完成するのはとても道理にかなったことだと思っている。苔の懐にいだかれながら、人種を問わずさまざまな人が集い、語らい、そしてゆったりと心を分かち合う。なんて人間的で豊かな行為だろう。その日が来るのが今からとても待ち遠しくてならないのです。
(編集ライター・「コケはともだち」著者)