【最終日前日】感動するためだけに生きてる
vol. 119 2021-01-14 0
118日目終了。
最終日目前でまた伸びて140名を突破。
ご参加いただいた皆様ありがとうございます!
最後までストレッチゴールを諦めずに進みます!
緊急事態宣言対象地域が拡大された。
昼間も行動制限して欲しいという言葉を何度も目にした日。
その賛成派と反対派のどちらの意見もタイムラインに並んでいる。
どちらも感染を防ぐべきだという考え方は同じ方向なのに。
どちらにも先鋭化している人がいて。
いつの間にか同じ方向を向いていても分断していく。
袋小路に追い詰められて逃げ場のない誰かがきっと今日も生まれてる。
ほとんどの僕が知り合ってきた俳優たちが芝居を始めたきっかけを聞くと自分が恥ずかしくなる。
お芝居が好き、有名になりたい、お金持ちになりたい、もてたい。
功名心、向上心、好奇心、皆、昔のことを照れくさそうに嬉しそうに話す。
僕は実際にはもっとずっと生きていくことに後ろ向きで、もうどうしょうもない奴だった。
進学したくないという自分の意見を通すために、芝居の学校をみつけて勝手に願書を送った。
とにかく、そのまま進むことが厭だから逃げ込むように芝居の世界に体を放り投げた。
消去法で自分の未来を選んでしまったというような感覚がずっとあった。
自分が何かの規範からはみ出している気がして、向かえる場所がわからなかった。
夢を目指す人の中でずっと自分が浮いていると感じてた。
生きることそのものに、しっくりこなかった。
それでもやれるだけやろうともがいていたのだけれど。
自然と同期の仲間といる時間と同じぐらい先輩たちとの時間を過ごすようになった。
どこか気恥ずかしい自分を正視できなかったのかもしれない。
先輩たちの秋の公演の音響操作をやる事になって、舞台演出を初めて観て。
とにかく、ああ、この人は本物だぞという大人に出会っていって。
少しずつ少しずつ、のめりこんでいく自分を感じていた。
決定的だったのは卒業した先輩の舞台仕込みを手伝ったことだった。
まだなんにもわからなかった僕に手伝えることなんて大したことなかったけれど。
信じられないほど天井の低い新宿の劇場で、座席はすべて座布団だった。
役者だと思っていた先輩たちは、全員トンカチやノコギリを握っていて大工さんみたいだった。
木材を切ったり、釘を打ったり、弁当を買い出しに行って一緒に食べたり。
真っ暗闇になって、それが暗転と呼ばれる闇だと知ったり。
舞台上に照明が灯って、あっという間に別の世界がそこに生まれたり。
その夜、先輩たちと一緒に居酒屋に行って、馬鹿みたいに笑ったり。
とにかく、これが小劇場演劇なの?と思ったまま、僕はその舞台初日に客席で観劇をした。
信じられなかった。
脳天に釘を撃ち込まれたかのように、背骨を一直線に電流が走った。
オムニバスのコントのようなコメディが続く作品なのに、さんざん笑った後に泣いてた。
こんなに面白いものがこの世の中に存在してるだなんて、何も知らなかった。
結局、舞台を観た同期と一緒にバラシ作業も手伝って打ち上げにも参加した。
同期と一緒に朝まで吞みながら、すごいすごいと言い続けた。
同期の一人が酔っ払ったまま次の日に小劇場に出かけて劇場を押さえた。
酔いが醒めてから、どうしよう?と連絡があって、やるしかないと決めた。
それが僕の初舞台だった。
仲間を集めてお金も集めて、スタッフさんにお願いするほどのお金はないから勉強した。
舞台監督、照明、音響、制作、舞台をやるために必要なことは全部先輩に教わった。
在学中に外で舞台をしたら最悪退学になるから内緒で、自分たちだけでやるしかなかった。
今、思えば酷い舞台だったと思う。不思議と評判は良かったけれど。
初日の幕が開く前に、僕たちはガタガタと緊張で震え始めて隠れてウイスキーをあおった。
少しも酔わなかった。
打ち上げで泣きじゃくって、ゴミ捨て場にパワーボムをされた。
初舞台に何も知らないまま初期衝動だけで立って、勝手に泣いてた。
多分、僕はこの初期衝動から逃げられないし、この衝動を持ち続けたまま進むと理解した。
その日から色々なことがあった。
思えば悲しい別ればかりだった気もする。
思えば悔しい思いばかりで、負けっぱなしだった気もする。
結局、ずっとずっと勉強だけをしてきたような気もする。
絶望の淵に立って、暗闇の中にいた日もあった。
僕が辞めるタイミングは何度も何度もあった。
実際にあの初舞台で一緒に板の上に立った同期で芝居を続けているのは一人だけだ。
でも僕には辞めるという選択肢はなかった。
やろうと思えばなんだって出来ると初舞台で知って、あれだけ泣いたのだから。
緊急事態宣言で、かつての僕がどこかにいるかもしれないといつも思う。
貧乏暮らしの中でなけなしの金をはたいて、なんとか舞台をやろうとしているヤツが。
どうやって生きていくか見つけられない中で、芝居を見つけたヤツが。
彼らからも舞台を取り上げようとしていると思うと、あの日の僕が思い浮かぶ。
あの日、僕が板にも立てず、借金だけが残っていたらと想像してしまう。
先輩の舞台をもし観ることがなかったらどうなっていただろう。
初期衝動で何かを探し始めた、役者やミュージシャンがどこかにいるはずだ。
あれから30年。
たくさんの事を知ってきたけれど、あの衝動が消えたことはない。
手も足も出なかった、何も出来なくて衝動だけで舞台に立った時の僕とは違うけれど。
多分、きっと、ギターリストが初めてのギターを手にした時の事を大事にするように。
表現の形が変わっても、その衝動を巧みに隠す方法を知っても、なくなりようがない。
長く続けている人ほどきっと大事に大事にしてる。
まだ何も始まっていなかったあの頃。
自分がやりたい事すらわからなくて彷徨っていた頃。
一歩間違えれば社会からはみ出し続けて、どうしょうもない場所に向かってたかもしれない。
僕はたまたま演劇に出会って、たまたま本物だと感じる大人たちに出会った。
僕は何も持っていないし、どこに行くのかもわからないままだった。
夢も希望も多分なかった。
あの頃を思えば僕は何もかもを手にしている。
ついにクラウドファンディングの最終日の前日になった。
僕が何かをやろうとしているとわかっている仲間たちがいる。
それを一緒に楽しもうとしてくれている皆様がいる。
数々の映画のプロジェクトがある中で、世の中に知られている人もいないのに。
こんなにたくさんの応援が集まっている。
僕は僕を否定してしまう時間があるけれど、そんな時に勇気をもらえるコメントが並んでる。
119日目が始まる。
僕はいつの間にかのめり込んで。
夢も希望もなかったはずなのに今はやりたいことがたくさんあるみたいだ。
いとも簡単に僕たちの人生そのものを不要不急だと言う人がいるけれど。
別に何を言われても気にもならないさ。
意味ある人生だとも思ってない。
そもそも意味なんて求めてないから。
ただ僕は感動したままなだけだ。
あの日からずっと感動してる。
そしてその感動をもっとたくさんの人たちと一緒に感じたいだけだ。
意味なんてないけれど。
きっと僕も僕以外の皆も、感動するためだけに生きてる。
震える日がやってくる。
痺れる電流がもう一度背骨を貫く。
残り二日間だ。
最後まで一緒にワクワクしてください。
小野寺隆一