映画「演者」製作プロジェクト┃
映画「セブンガールズ」製作から３年、もう一度下北沢から世界へ

114日目終了。最後の週末の三連休。
なんと110％オーバー。
ご参加＆拡散ありがとうございます。
終盤に来て更に加速しています。

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10年間を節目とするのであれば。
今年は東日本大震災から10年目の年だったと昨日書いた。
そういう意味ではもう一つ節目がある。
2001年9月11日。アメリカ同時多発テロから今年は20年目にあたる。
2021年はそういう年。

あの日、深夜テレビに速報があがって、何を言ってるんだ？と思っているうちに映像に切り替わった。
旅客機がビルにそのまま突入する映像はまるで映画の中のようだった。
アメリカ国防総省のペンタゴンが中継で映し出された。
目が冴えて、朝までテレビにかじりついていた。
バベルの塔を思い浮かべた。
何かが壊れて、世界が変わることになるとわかった。
その日から世界は冷戦構造から、テロとの戦いになった。
思えば少しずつそういう世界に変容していたのかもしれないと思った。
大国同士の冷戦という構造を科学技術が追い越していったのだと思う。
日本でも地下鉄サリン事件という無差別テロが数年前に起きていた。
個人や小さな存在が国家をも脅かす時代。
インターネット元年と呼ばれた1995年から、徐々に個の持つ力が増大した。
小さなスーツケースに仕込まれた核爆弾を持つテロリストが何度も映画に登場した。

西暦なんてたまたまつけた年号なのだと思うけれど。
10年間で巡るように何かが起きてきた。
再び、アメリカで大きな事件が起きることになるなんて。

僕は陰謀論というものはそんなに嫌いではない。
子供の頃から、戦隊ものや仮面ライダー、ロボットアニメの敵は闇の組織だった。
男の子だったら誰でも世界には闇の組織があってヒーローがやっつけるなんて思ったことがあると思う。
だから、ノストラダムスの大予言とか、ロズウェルのUFOだとか、日本人ユダヤ起源説とか、竹内文書とか、龍馬フリーメーソン説とか、千利休の正体は明智光秀とか、義経伝説とか、まぁ大抵のそんな話は面白がってる。
ただ、そういう陰謀論を目にしても基本的にSNSで拡散したりはしない。
なんというか自分の中に、陰謀論はあくまでも説であるという境界線がいつの間にかあった。
でもここ数年はそういう陰謀論を普通に様々なところで目にするようになった。
酷いものだと去年の芸能人の連続自死を暗殺だなんていう陰謀論を拡散している人までいた。
昔から陰謀論を広める人はいたけれど、少し毛色が違うように感じる。
「こんなに面白い話があるぜ！」という、”ひょっとしたら”を逸脱している。
本当にそうなのだ。という断定された陰謀論がSNSでここ数年拡散されるようになった。

アメリカの議会に暴徒が雪崩れ込む映像を観た時に20年前の映像に似ていると思った。
ペンタゴンの近くで白い煙が流れていた映像をすぐに思い出した。
20年前に科学技術が国家を越えてしまったことを象徴するようにビルが崩れ落ちた。
2021年、ついに情報が国家を越えてしまったのだと感じた。
多くの平和的に議会を取り囲んだ人々は不正があったと信じている人々で。
議会に踏み込んだ暴徒は更にその先の陰謀、悪の組織があると信じている人たちだった。
国内企業がその国の元首のSNSアカウントを凍結するなんていうことも起きた。
情報がもっとも強い力になったのだと思った。国家よりも、兵器よりも。
思えばその兆候はずっとあった。
イギリスの国民投票によるEU離脱だってその一つだ。
仮想通貨だってそうだ。ついに通貨まで情報化しているのだから。
新型コロナウイルスってコンピューターウイルスの顕在化なんじゃないか？なんて思うほどだ。

陰謀論の真偽なんかわからない。そもそも証拠などないのだから。
信じている人は怒るかもしれないけれど、僕はひょっとしたらで楽しんでいる。
けれども、もうそういう時代じゃないのだと思った。
「物語」の時代がやって来た。
今、カギを握るのはストーリー性で、それをプランニングして宣伝していく。
去年末の紅白にデビュー前に出演が決まったアイドルグループはストーリーを持っていた。
情報が最大の力を持った時に、いかに真実っぽい物語を創れるのかどうかが鍵になった。
物語の持つ力は厭というほど知ってる。
人の心を揺さぶり、時には人を救うことだってある。
古事記だって日本書紀だって、様々な宗教の原典だって思えば物語じゃないか。
スーパーフィクション。
陰謀かどうかはさておき筋書きを描いているストーリーテラーは存在する。
アメリカに影の組織がいるかなんか知らないけれど、様々な事象を繋げてもっともらしい物語を書いている人がいる。
あっという間に虚構が現実を越えていく。塗り替えていく。
そしてそれを信じた人々が実際に行動を起こしていく。大変なことだ。

僕が30年間も演劇を続けてきて愛した物語はそういうことじゃない。

緻密にリアリズムを重ねて構築していくスーパーフィクション。
本当にそれがあるかのように見せていく物語の構築がダメだと思ってるわけじゃないけれど。
僕が演じながら見つけていった物語はそういうものではなかった。
「痩せ蛙 負けるな一茶 ここにあり」から感じる物語性の豊潤さを愛した。
去り際にふと立ち止まるだけで生まれる、お客様それぞれの想像力で生まれる物語だ。
訓練するアイドルではなく、アイドルをみて訓練を想像することを愛したはずだ。
声を出して笑うことで心が開いて、知らず知らずのうちに感情移入してしまう。
登場人物の心理を想像しながら楽しむことの物語性だ。
もちろんリアルというものは物語を創る以上、誰だって追求していく。
でもその方向性が違う。
笑顔の奥にさびしげな目の色を感じて、どうしょうもなく切なくなるような。
そんな表現を僕たちは目指していたはずだ。

映画「セブンガールズ」は通常の映画の数倍の情報量を詰め込んだ映画だった。
元々の舞台原作がそうだったし、主人公が多いし、エピソードも多い。
結果的にそれぞれのエピソードは短く、ない時間はお客様の想像に任せるしかない。
僕はそれはとても面白い方向だと自信があった。
僕が演じた成瀬凛太朗の本心などは想像するしか出来ない役だった。
今もそれはとても面白い作品の創り方だと信じている。
今回の映画「演者」は、その情報量を最小に収めている。
物語性をお客様の想像力の中にどんどん放り投げていくような作品は出来ないかと考えている。

インターネットを手にして僕たちの生活は情報へのウエイトをどんどん重くしていった。
そしてついに、情報は世界で最も力のあるものの一つにまでなっている。
そんな時、僕は情報を越えるような何かを届けないといけないんじゃないかと思ってて。
多分、それは「体感」なのだと思う。

「百聞は一見に如かず」というけれど。
どんな情報も、たった一回の経験や、感動で全て消し飛んでしまう。
なぜならそれは真実だからだ。
フィクションを越えるのは、自分の肉体を通したリアリティだ。
恐らく今も物語を描いている人がいる。筋書きを考えている人がいる。
そしてその物語にリアリティを持たせるために、事実と繋げていることだろう。
そういう鎖を断ち切る。
花を見て、わあ花だ！と口にしてしまうことこそ真実だからだ。
頭で構築したものを、心はあっさりと覆す。

そんな事を言いながら、僕は物語も作っている。
映画「セブンガールズ」と同時に進んだ、セブンガールズ映画化実行委員会BLOG。
映画「破壊の日」の裏側で続いてきた「破壊の日の日日」。
そして、この映画「演者」でも、映画の裏側でもう一つの物語が進んでいく。
まあ、これはノンフィクションなのだけれど。
でも筋書きは書いてあるんだよ。

「苦しみながら映画を完成させて信じられないようなことが起きる」
なんていう、まるでジャンプ漫画のような筋書きを。

115日目が始まる。
情報が溢れていく世の中で。
誰もが今、連帯と個人について壁に当たっている。
連帯感を持つことと、個人を犠牲にすることが背中合わせになってきた。
おかしな本当っぽい物語があちこちに溢れて。
僕たちはあやうく、個人を切り離してしまいそうになる。

花は花として。
月は月として。
感じる心を失ってたまるか。
想像し続けることを失ってたまるか。
笑って泣いて怒って、そんな感情を失ってたまるか。
ただ目の前にある現実を受け入れる。

今、僕が生きている現実は誰かが描いた物語の中なのだろうか。
だとしたら、そんな仏様の手の平からポンと飛び降りるよ。
例えば僕自身が既に情報なのだとしても。
僕は僕が描いた物語の登場人物だ。

情報化できない経験を。
言葉にはならない感動を。
言語では説明できない共感を。
僕は目指していく。

人々を政治的に動かすような物語になど負けない。

小野寺隆一