全ては繋がっている
vol. 45 2020-11-01 0
44日目終了。
今日はなんだかゆっくりと猫と時間を過ごし、ゆっくりと母と話し、ゆっくりと映画館にいた。
どういうわけかその間の移動もバスの待ち時間も含めてゆっくりと時間の流れる日だった。
その全てがいつまでも続くわけがないのだけれど、いつまでも続くといいと思えた。
映画館に向かう間に、消えた2本のシナリオのことを思った。
1本は去年の秋に一気に書き下ろした。
それは映画の上映が一段落着いて、舞台の企画を立て始めた頃だった。
主宰が別にもう一本台本を書くことになっていてぽっかりと時間が空いた。
そういうことならその作品を早く仕上げてあげて欲しいし協力しないといけない。
稽古場だってある程度使えた方がいいんじゃないかと提案した。
ただその間、仲間たちが稽古場でやる事がなくなってしまう。
だから、ロケだけで撮影できるシナリオを書いて短い映像作品を創ろうと思った。
どうせ時間が空くなら、何かをやった方がいい。
有志でやるかい?と皆に聞いたら、時間的に客演などがない全員がそれならと賛成してくれた。
結果的にそれは一回の稽古もなく撮影にも至らなかった。
理由は簡単で、別のもう一本の台本に集中してくれとお願いしていたのだけれど。
その翌週に、1月の舞台のミーティングがしたいということになって。
その翌週には台本の1ページ目が届いたからだった。
自分たちに待っている舞台の稽古が出来るのであればそれを優先するべきだし。
そもそも舞台にとって邪魔になるような時間の取り方は不本意だったからだ。
時間が空くならと、参加表明をした役者もいた。
積極的にやりたいというのとは少し違っているよなぁと感じてもいた。
仕切り直し。時間が空いているからという理由で手を出すものでもないなと思った。
もう一本は、コロナ禍で舞台が延期になってステイホーム期間になったことだ。
毎週のように稽古場に集まっていた僕たちはその稽古さえ休みを余儀なくされた。
その間に、何かできることを探そうとテレミーティングでも話していた。
個人的に何かをやれとも言われた。
リモートでの映像作品を出来ないかと実はシナリオを途中まで書いた。
何せ時間は有り余っている時期だったし、舞台が延期で何も発表しないことも悩んでいた。
でもそれも途中でなんだか厭になった。
リモート演劇というのが、まるで流行のように次々に生まれていった。
面白いという人もいたけれど、自分の中では違和感しかなかった。
自分の書いたシナリオは連作での二人芝居だったから面白くなると思っていたけれど。
それをリモートでの演出なんていう中途半端なもので公開するのがとても厭だった。
やるならちゃんとしたものをやりたいし、稽古のイメージもわかなかった。
それに劇団で何も発表出来ない時に、自分の名前でやる事に抵抗が生まれていった。
今、何かやろうと僕がやるのは、それはそれで間違っていると思った。
誰かがやろうと言えば、僕は参加するだろうか?と何度も考えた。
そして、コロナ禍の状況に言いようのしれない怒りを感じていた。
その怒りを、なんだかごまかすようなことはしたくないなぁというのが本音だった。
結果的に2本のシナリオが消えたんだよなぁ。
僕はそのままにしておくことは出来ないと思っていた。
だったら、その2本を焼き直したり、そこから考え始めても良かったと思う。
でも、自分の中にあるものをきちんと消化するには、何をやるべきだろうと考え直した。
多分、安易な方法に飛びついたら、それはあまり良いものにならないという予感があった。
「演者」の映像化はずっと前から考えていて。
これなら、やれるとこまでやれる。
自分の全てをぶつけられるという結論に至った。
そしてその時に自分が何かをやると立ち上がるのであれば。
そこから先は自分の責任でやり切らないといけないと思った。
仲間たちに責任を分散させるようなやり方は自分の中では卑怯だと感じていた。
何かやるぞ、創作をするぞ。
そう思って立ち上がろうとすると、すっと肩に手が置かれて立てないような。
そんな感覚があった。
それがなんだったのかなんて考えても仕方のない事だけれど。
映画館に行こうと乗り換えのホームに立ったら満月が昇りかけていた。
ゆったりと時間が流れていた。
「全ては繋がっている」
そんな声が聞こえてきたような気がした。
多分きっと全てが繋がっている。
映画「セブンガールズ」の製作をしたことも。
映画「破壊の日」を手伝うことになったことも。
二本のシナリオが消えたことも。
舞台がコロナで延期になったことも。
このクラウドファンディングを立ち上げたことも。
劇団が解散することになったことも。
猫と。母と。ゆっくり話をしたことも。
全てが繋がって一本の線になって。
それはかならずどこかに帰結するだろう。
ただ刹那の今を楽しみたいとも思うけれど。
今までと、今と、これからという繋がりの中で。
僕はここにいるのだと自覚している。
肌を刺す冷たい空気が心地よい夜だった。
こんな日がずっと続けばいいのにと思えた日だった。
自分で立ち上がるという場所に今いるんだなぁと改めて思った日だった。
あっという間に45日目がはじまった。
小野寺隆一