お互いが信頼することが最大の安全対策だった
vol. 39 2020-10-26 0
38日目終了。
舞台千秋楽から2週間が経過した。
風邪症状、発熱など、出演者・スタッフ・関係者、お客様からの報告がなかった。
ここでようやく一つ胸をなでおろす。
それぞれの危機意識には当然差があると思うのだけれど。
何事もなく二週間を経過することが現在の本当の公演終了だ。
ずっとそう思ってきた。
何よりも嫌だったのは自分の関わっている公演でお客様に迷惑がかかることだ。
何も感染だけではなく、濃厚接触者と認められて個人情報の提出をすることになったり。
そこからお客様の家族も含めた皆様が検査しなくてはいけない事態になること。
それだけは何があっても避けたかった。
それはお客様を守ることでもあり。
同時にそれが起こることで傷ついてしまう仲間を想像してのことだった。
厳しすぎると思われても口酸っぱく、言い続けること、やり続けること。
それがほんの小さな安心感につながるならと願っていた。
確かにそれはお客様との物理的な距離を生んだのかもしれないけれど。
けれど、運命共同体として心の距離は縮まることだってあるんじゃないかと思っていた。
お互いが現下の状況を理解して、お互いが安全な公演を目指す。
そういう公演になればいいなぁと思っていた。
劇場に来てくださった皆様は全員が平熱だった。
マスクをしないで会場に来たお客様は一人もいなかった。
全員が会場に着くなり足ふきマットで靴を拭き、手指消毒をした。
マスクにフェイスシールド、手袋の僕に、私語を話しかける人はいなかった。
混乱なく時間差入場をしてくださり、時間差で退場してくださった。
僕が願う以上に、来場してくださったお客様たちは皆が協力してくださった。
だからこれは主催者だけではなくて、お客様の勝利でもあると思う。
普段よりも少なくした観客席。
今までよりも高額になったチケット代。
ご理解いただくにはあまりにも多くの制限があった。
だというのに、僕の目には美しい一列になって退場していくお客様を観て。
ああ、ちゃんとルールを決めていて良かったなぁと思った。
だからこそ、この2週間は祈り続けていた。
どうかどうか、出ませんようにと。
だからと言って、風邪症状などを申告しづらい状況を創るのは厭だった。
感染経路不明者の中には自分の行動記録を隠す人もいるのだと聞いていた。
僕たちに迷惑をかけてはいけないと口をつぐむ人がいるかもしれないと思った。
でも、感染することは決して悪ではない。
誰にだって当たり前に起こりえることだ。
遠慮なく、風邪症状が出た場合は観劇したことを申告してくださるようにお願いをした。
悪だと思うことも嫌だし、それが結果的に広げてしまう可能性になるのも嫌だった。
だからこそオープンに、自分たちのガイドラインまで公開したのだから。
今も多くの小劇場で演劇は行われている。
演劇だけではなく、ショービジネスは今も続いている。
その中でほんの一握りの会場で感染するケースは今後も出てくるだろうと思う。
けれど、それが入念に準備してあって、注意した上であれば仕方のない事だ。
もしガイドラインに沿ったうえでそんなことがあれば、ガイドラインが更新されるだけだ。
それはより安全なショービジネスに繋がっていく一歩になる。
だからこそ、今あるガイドラインを徹底することは大事なことなのだと思う。
劇団は解散することになったけれど。
僕は改めて来場してくださったお客様との心の繋がりを感じることが出来た。
確かにいつものようなお見送りも会話も出来なかった。
一人一人の顔を見て、ありがとうございましたと頭を下げるだけだった。
でも、いつもの会話以上に、目で会話をし続けていたと思う。
遠方から来てくださったお客様や、昔からのお客様もいらっしゃった。
特別に時間を空けて、足を運んでくださった全てのお客様との心のコミュニケーションだった。
話せなくて寂しそうに下を向くお客様もいたけれど。
それでも理解はしてくださっていると感じ続けた。
言葉ではない。
見た目だってそこには何もない。
だからとってもわかりにくいことだ。
何を達成したのだ?と聞かれても明確ではないことだ。
ただ安全に公演を終了したという当たり前のことしか出てこない。
たったそれだけのこと。
けれど、それは、それだけのことじゃないんだと僕は思う。
お互いに信頼関係を築いた上での公演。
その方が圧倒的に難しい事なんじゃないだろうか。
だから僕は胸を張ろうと思う。
安全対策を徹底できたことを。
目に見えにくいミッションをクリアしたことを。
小劇場という空間。
多くの人が今の状況では恐怖感を感じてもおかしくない空間。
そこは簡単に時空を越えていく。
どんなものだって想像力から生まれてくる。
そんな場所をお客様と一緒に守り抜いたのだから。
積み重ねた安全対策は間違っていなかった。
今日も参加してくださる方が増えた。
39日目が始まる。
小野寺隆一