覚悟しろ、ただ覚悟をしろ
vol. 38 2020-10-25 0
37日目終了。
奮起することをしたくない自分がいる。
お前、何言ってんだ!ほれ、やんぞ!!と言いたくない。
なんというかそれは優しい言葉のようでいて実は違うんじゃないかと感じている。
特に今、この時は。
僕が発奮することで立ち上がることはあるかもしれないけれど。
でもそれは結局、最後の最後にそいつのためになると思えない。
自分の力で立ち上がり、自分の足で一歩踏み出す。
それを信じていない自分がいるみたいだから厭なのだ。
誰かの足で歩かせてもらっていたわけじゃないはずだ。
ずっと自分の足で本当は歩いてきたんだよ。
心の底ではわかっているはずなんだから。
そういう意味で今、岐路に立たされている。
僕は誰かを発奮するのか。
それとも自分の限界まで待ち続けるのか。
それともどこかで僕は信じている仲間を。
頭がおかしくなりそうなほど悩んでいるけれど。
待たないという選択もすでに目の前にある。
ただ誠実に作品に取り組むことを続けるだけだ。
そしてそこに嘘がないようにしたいだけなのだから。
今、目の前をうまくやりすごせばいいさというやり方はもうしたくない。
甘い言葉で誘われて、結果が違うことはいくつもいくつもあった。
それはやっぱり時間が経てばあまり正しい事じゃないと思ったよ。
僕のような人間に才能があるとしたら、それだけかもしれない。
仲間に嘘をつかず、ただただ継続し、推進力を持ち続けること。
センスなんてものは、そもそも諦めている。
そんなのはたまたま時代とか時期とかに合うかどうかの薄っぺらいものだから。
けれど信頼と継続は絶対に裏切ることがない。
それを信じるしか僕には能がない。
時として誠実は罪になる。
そう僕はまだ十代の頃に教わった。
確かにその通りだった。
例えばテロリストたちはそれを正義と信じて誠実に遂行する。
誠実さは純粋さに繋がって先鋭化していく。
それは芸能の分野でも同じで、先鋭化すれば芸術に変化し、前衛と呼ばれるようになる。
いいか小野寺。大事なことは切実であるかどうかだ。誠実じゃない。
何度も僕にそう教えてくれた師匠はきっと僕にそんな危険性を観ていた。
コロナ禍でありとあらゆる文化が袋小路にはまった時。
多くのそれを求める観客たちが、文化は不要不急じゃないと叫んでくださった。
きっとそれはその通りのことだけれど、実は一面からの意見だと感じていた。
同じように、ステージのこちら側にとっての文化というものもある。
アーティスト、俳優、芸人、表現者たち。
切実に願ったはずだ。
こんな世界になるはずがなかったと思ったはずだ。
ただこちら側の世界の人たちはそれを口にすれば攻撃されかねない空気になっていた。
いつか舞台に立てると胡麻化しながら。
心の底では、ふざけるな!舞台に立たせろと叫んでいた。
それがどんなに切実な問題だったか。
僕は芝居がしたくてしたくて仕方のない人間だったけれど。
数年間舞台に立てない時期があった。
自分にとって大事な友人を亡くして、何一つ手がつかなくなった。
自分の感情が制御できないものだと思い知らされた。
役者をやると決めていたのに、どうしていいのかもわからなかった。
数年後たまたま別の友人に初日の出に誘われた。
その日、太陽が昇るのを観て、全てがわかった。
ぐんぐん信じられないスピードで空が明るくなっていった。
真冬なのに太陽があがると同時にその熱さえ顔に伝わっていった。
僕は全てわかった。
切実に舞台に立ちたいと願った。
いや願ってなんかいない。
即立ち上がった。
劇場を押さえて、友人を誘って、台本を猛然と書き始めた。
それをしないではいられなかった。
考えるより先に行動をしていた。
僕は切実な問題を抱えていた。
僕は自力で立ち上がった。
泥のような何かから重い足を引っこ抜いた。
今もきっと、切実な問題をいくつも抱えている。
その上で僕は誠実に取り組むことをもう一度しようとしている。
ごまかしようのない世界を構築しようとしている。
つまらない意図が入り込む余地のない表現を追求しようとしている。
切実であるなら、誠実さすら必要ないのかもしれないけれど。
切実でありながら、なお誠実であろうと思っている。
ただいつかの誠実とは少し性格が違う。
応援してくれる人がいる。
愛してくれる人がいる。
期待してくれる人や待ってくれている人がいる。
そして、喜んで欲しい人だっている。
信頼できる仲間たちがいる。
そういう全ての人たちへの誠実さだ。
先鋭化していくような誠実さとはきっと違う。
どうやらガキじゃなくなった。
初期衝動に似た衝動でありながら、視野が狭くなっていない。
純粋な情熱のようなものに忠実でありたいだけだ。
苦しんで、苦しんで、シナリオを前に進めていく。
僕が出来ることはそれだけなのだと思う。
誰かを発奮してはいけない。
僕が誠実に取り組み、それでも立ち上げれないならば。
例え信頼している仲間だとしても、僕は置き去りにする。
例え心が痛くても。
僕の道は僕が決めるように、自分の道は自分で決めないといけないからだ。
頭がおかしくなりそうだけれど。
何か大事なものがもげて落ちてしまいそうだけど。
それは応援してくださる誰かや、今まで出会った全ての人たちへの責任なのだから。
言えるのか?僕は。
「君は君のやりたいようにしろ」と。
グズグズしている暇などないのだ。
かくも前に進むことは苦しいのか。
ひねりだしても、進まぬたった一つの台詞に立ち往生しながら。
ズタズタに切り裂かれ、流血しながら、それでも足を進めなくてはいけないのか。
理解を求めたくなる自らを恥じろ。
そんなものはいつかどこかでわかるだろう。
敵などいるか。
いるとすれば自らの心の中の葛藤だけだ。
お前の暗黒に呑み込まれてたまるか。
息をするのも忘れてしまうよ。
38日目が始まる。
最後に皆で集まる日だ。
前しかみるつもりはない。
小野寺隆一