見えない自由が欲しくて見えない銃を撃ちまくる
vol. 34 2020-10-21 0
33日目終了。
日常はいつも突然だし圧倒的なパワーで押し寄せてくる。
自分一人の力ではどうにもできないような状況はいつもすぐそこにあって。
そんなことの一つ一つをもがいてあがいてたぐりながら前に進む。
僕が現実のようなものに押す潰されずにここまで来れたこと自体奇跡かもしれない。
どうしたって全てのものには流れのようなものがある。
水が上流に流れることなんかないし、流れから外れることは停滞を意味する。
そういう流れの中で、僕たちは今。
何に向かい、何を考え、何をするべきなのだろう。
昔、劇団が大所帯だった頃、そこは競いの場であったと思う。
自分たちからやりたい役を取りに行く。
稽古場はオーディション会場でもあったし、ライバルたちと闘う場所だった。
仲間でありながら、常に競い続けなくてはいけないという環境の中にいたはずだ。
駄目だと仲間から言われることも当たり前の毎日だった。
はっきり言えば、細かい傷を体中に刻まれていきながら僕たちは前に進んでいった。
いずれその傷が深く深く体に侵食するのだとしてもだ。
そのヒリヒリした緊張感の中に自分の身を置き続けた。
人数が減ってからは、そこは家族のような場になったのだと思う。
競うことよりも仲間意識が高まった。
僕はそれで生まれる新しい力に興奮だってしていた。
多分、それだけならば良かったのだと思う。
でも現実はいつだって突然で、いつだってすぐ隣にあった。
細かい傷はなくなったけれど。
一人、二人と、様々な現実に直面して、去っていった。
緊張感を持って競い合っていた頃とは違って、あたたかい場所は前に進む力を奪う。
安心や安泰を望むほど、冒険する勇気を失っていく。
細かい傷がなくなった分だけ、痛みに対する恐怖感が増えていった。
あたたかい場所のままゆっくりとゆっくりと放物線を描きながら速度が落ちる恐怖。
僕が戦っていたのはその恐怖感とだったと思う。
いつだって不可能と思えるような挑戦を探し続けていた。
傷つくことを恐れてしまう自分を端から潰していった。
年齢からくる恐怖でさえ、僕はかなぐり捨てていた。
ふざけるな、僕はまだまだ闘う。そう自問自答を繰り返していた。
僕にだって現実は襲い掛かってくる。
それはあまりにも突然に。
信じられないほど、精神と体力を奪っていく。
心が悲鳴を上げていく。
まるで神の試練だ。
お前、そろそろ根を上げろよと、肩に手を置きにくる。
諦めという名の鎖はいつの間にかまとわりついている。
僕を無神経だという人もいる。
僕を心臓に毛が生えているという人もいる。
僕を図々しい奴だという人もいる。
だが僕はそれを言える人の方が無神経で想像力がないと思っている。
君が思うことは僕はとうの昔に考えてあえてこうしていると気付かないのかと。
むしろ僕にはそれは言えないよ。
だとしたら、僕は君よりも繊細だということになるけど、どうするんだい?
繊細なふりをしている無神経なやつらを君は、繊細だと評価するのだろう?
論理が破綻しているじゃないか。
僕は涙を流すことよりも、涙をこらえることの凄さを感じたい。
僕が感じ続けていた恐怖に、向かい風に、いつも立ち向かっていたのはそういうことだ。
虚無のような真っ黒な穴の中に落ちていく誰かにギリギリまで手を伸ばすような。
僕の体には無数の細かい傷がつくけれど。
闘う対象が誰かではなくて、目に見えない何かに変わっただけなのだから。
別に地位も名誉も金も、そんなに欲しいわけじゃない。
それでもなぜ、世界を目指すのか。
それでもなぜ、不可能に見える挑戦をし続けるのか。
まだ初稿でカットするかもわからない役があって。
もしその役が出ることが決まったらお願いしようと思っていた役者から言われた。
「僕は演者を応援しますよ!」と。
僕は慌てて、そんな外から言って欲しくなくて、実は誘うかもしれないと説明をした。
ただただ、役を用意するよ的な無責任な誘い方が嫌なだけだった。
あなたでなくてはいけないんだという明確な何かを見つけるまでは声をかけるつもりがなかった。
僕がちゃんとしてあなたから信頼してもらえると確信できた時に、僕からお願いしたいのだから。
ただただそこに何かあたたかい関係性だけで決めるようなことは出来ないだけだ。
闘うと決めているのだから。
どんな役かも説明できないで誘うことは役者を傷つけることなのだと思うから。
小さなことに思えるかもしれない。
でもそんな小さなことも全て自分に課した挑戦だ。
大事に大事にしたいだけだ。
日常は押し寄せてくるだろう。
これからだって突然に。
なんの前触れもなく。
そんな時に、僕は体力と精神の均衡を失いながらも。
重い重い一歩を前に出せるのだろうか?
出さなくてはなるまい。
生きていくと決めたのだから。
すぐそこにある暗い穴を覗きながら。
僕は生きていくのだ。
34日目がはじまる。
小野寺隆一