制作日記 8「楡の木の上」CD1-8 完全版
vol. 20 2024-03-26 0
vo. Kaya
arr. & epf. Mao Yamamoto、vin. 鈴木慶子 (Jacrotangs)
*cb. 木田浩卓 (Jacrotangs) 事前収録済み
3月21日(木) 快晴
美しき調べと歌は、美しき想い出たちとともに。
トリビュートアルバム『ISSAY gave life to FLOWERS - a tribute to Der Zibet -』の制作作業もいよいよ中盤戦に入ってきた中、本日は10thシングル表題曲(1994年発表)であり、 11thアルバム『Green』1995年発表)にも収録されていた名バラード「楡の木の上」を、 Kayaさんが岡野邸スタジオにて収録してくださることになりました。
Kayaさんは今回のトリビュート参加にあたり、自ら ぜひ「楡の木の上」を歌わせていただきたいです とのお申し出をしてくださっていたのですが、これには明確な理由があったの だそうです。
「DER ZIBETの曲の中でも、わたしはこの「楡の木の上」 が一番好きで、もうずっと何十年 も聴かせて来ていただいているんですね。そして、この曲は昨年1月にISSAYさんとライブでご一緒させていただいたことがあり、デュエットとしてはそれが最初で最後になってしまったんですよ。本当にわたしにとってはとても想い出深い曲なので、今回はそれをぜひ歌わせていたただきたい、という想いが強くあったんです」(Kaya)
2023年1月にKayaさんとISSAYが共演したライブとは、シャンソンや歌謡曲カヴァーを中心としたアコースティックスタイルの2 MAN LIVE [Cafe NOIR -chanson et décadance-] のことです。その場では、アンコールで「楡の木の上」がISSAYとKayaさんによって歌い上げられることになりました。
しかし、そうした一方でKayaさんとしては今回のレコーディングに向けて、不安やプレッシャーも多々感じられていたといいます。
「この曲に限らず、やっぱりどの曲もDER ZIBETやISSAYさんのファンの方々にとっても思い入れがある曲たちなわけで、それをわたしが歌うということについて、中には「なぜKaya が歌うの?」と感じられる方もいらっしゃるかもしれないし、ISSAYさんに喜んでいただけるような歌を歌えるだろうか?とか、凄く自分の中でもいろんな想いがあったので、ここまでの歌手生活の中でも一番と言っていいくらいのプレッシャーがありました。でも、それよりも歌わせていただきたいという気持ちの方が強かったですし、やるからにはISSAYさんに「いいね」って言ってくださるものにしたかったんです」(Kaya)
なお、今回この曲のレコーディングには鍵盤奏者であり作・編曲家でもあるMao Yamamoto さんも参加してくださっており、前述した [Cafe NOIR -chanson et décadance-] には Maoさんも出演されていたとのこと。
「あのときは、ISSAYさんとKayaさんの3人で「楡の木の上」を演奏させていただきました。今回のトリビュートに参加させていただくのにあたっては、僕もDER ZIBETのファンのみなさんにもちゃんと喜んでいただけないと意味がないと考えていましたから、相当な責任を感じてはいたんですよ。大事にしたのはライブの時の感覚で、当時ピアノと歌だけで演奏したアレンジを基本としつつも、そこに今回はバイオリンとコントラバスをあらたに加えることにしました。ここに行き着くまでにはKayaさんといろいろ話し合いまして、レコーディング直前には「原曲よりも少しテンポを落とすかたちで歌いたい」というKayaさん希望も活かしましたね。結果的に、最後のサビは偶然にもどこか賛美歌を彷彿とさせるような響きに仕 上げることが出来たんじゃないかと思ってます」(Mao)
ちなみに、バイオリンの鈴木慶子さんとコントラバスの木田浩卓さんは2月にアップデート記事として掲載したKayaさんのシャンソンライブ[TOUR renaître -final-]にも参加されていたJACROTANGSのメンバーで、この日のレコーディングに関しては鈴木さんが現場に来てくださいました。(※木田さんはご自宅でのレコーディングにて参加)
というわけで、この日は歌録りに先駆けてまずは鈴木さんのバイオリンを録って行くことになったのですが、進行状況は至ってスムーズで、瞬く間に美しく拡がりのある音が「楡の木の上」を彩ってくださることになりました。プロデューサーの岡野さんから、その素晴らしい演奏に対して向けられたのはこの一言です。
「心洗われました...」(岡野)
早々にバイオリンの録りが終わってしまったこともあり、Kayaさんはレコーディングブースのセッティングチェンジ時間を利用して、ここから歌録りに向けてのチューンナップを開始されることになりました。なんでも、先日のチリ遠征から戻られてから日が浅いせいか、まだ時差ボケも少し残っている状況だったそうですが、声出しをする前にいつも飲んでいらっしゃるというハーブティーを、岡野家に設置されているウォーターサーバーから給湯して持参されていたマイボトルにたっぷりと作成。
オペラ歌手の方などをはじめとして、声を使われている方の間で重宝されているというこのハーブティはスロートコートという銘柄で、なにげなくパッケージの原材料欄に目を通してみると“甘草の根、ニレの樹皮、 マシュマロの根、 ワイルドチェリーの茎、 ビターフェンネル、 シナモン樹皮、 オレンジピール”と書いてあるではありませんか。そう、なんと“楡”の樹皮が入っているようなのです。
「えっ?これに楡の樹皮が入っていたんですか?? 知らなかったです。そういえば、この曲に関してはなぜ詞の中に出てくる木を楡の木にしたのか、次にISSAYさんにお会いしたらうかがおうと思っていたんですよね。実は、昨年9月と今年9月にもまたライブでご一緒させていただく予定があったので...またいろいろお話をしたかったです」(Kaya)
KayaさんがどれだけISSAYのことを敬愛してくださっているかは、こうしたエピソードのみならず、X(旧twitter)でのポスト内容を通じてもよくわかります。昨年9月に予定されていたISSAYとのライブ当日、KayaさんはISSAYの墓前にお花を供えてくださっていました。また、この日のレコーディングの前日には神社へお参りにも行かれたそうです。
「昨日、レコーディングを前にした最後の歌の練習に行ったんですが、その帰りに神社の前を通りかかったのでお参りというよりは“お祈り”をしてきたんです。「明日、歌わせていただきます」 という気持ちで」(Kaya)
その真摯なる祈りは、確実に届くべきところに届いたのでしょう。実際の歌録りが始まってみると、Kayaさんは愛あふれるあたたかな歌声で、あたかも〈風が唄う〉かのように「楡の木の上」の世界を表現してくださいました。
「歌、上手いですね。素敵な歌声です。歌声から生まれる世界観が美しいし、さすがはシャンソンも歌っているだけありますね。詞を伝える力がとてもある」(岡野)
「楡の木の上」に対する深い想いをお持ちなだけに、Kayaさんはこの日かなり細部にまでこだわりながら、じっくりと歌い込んでくださいました。そして、無事に録り終わったあとの心境もうかがってみたところ、ひと安心されて気が緩んだこともあったのか、Kayaさんは時おり涙まじりでこのように話してくださったのです。
「心を込めて歌うことができてよかったです。誰よりISSAYさんご本人に...聴いていただきたかったなって...思うんですが。でもきっと、今回のトリビュートはわたしの歌だけじゃなく、みなさんの想いを込めた歌や音がISSAYさんに届くんじゃないかって...そう思っています。参加させていただいて、本当にありがとうございました」(Kaya)
Text:DZTP(S)
※Kayaさんと岡野家ねこちゃんとの2ショットもごらんくださいませ↓
これより追記
この曲のMIXは岡野さんが担当。激しい曲も並ぶアルバムの中で、どうしたら楽曲、歌の存在感を際立たせられるのかと思案されて、Kayaさんとのやりとりを経て4つ目のMIXでFIXしました。
Kayaさんは8月4日のISSAYトリビュートライブにもご出演いただけることが決まり、「楡の木の上」以外にDER ZIBETの他の曲も歌っていただけるかもしれません。是非ライブに行かれる方はご注目ください。
そして翌日の8月5日ISSAY一周忌の日には『CafeNOIR 特別編 -葬(おく)る歌-』というアコースティックライブを新宿で開催されます。是非こちらも。
前に進むために。
愛しい人の、愛しい歌を。