制作日記 9「水銀の湖」CD1-2 完全版
vol. 21 2024-04-01 0
断頭台のメロディー「水銀の湖」
vo. & track YUTAKA、gt. & track 小笠原健一、dr.HIME、※ba. Ryo-Ta(事前録音済み)
3月24日(木) 曇りのち雨
紡がれてきた音、歌詞、そして想いが次世代へと伝承されてゆくこと。きっと、それには大きく深い意義があるはずです。
トリビュートアルバム『ISSAY gave life to FLOWERS - a tribute to Der Zibet -』の制作作業もいよいよ中盤戦に入ってきた中、本日は19thアルバム『不条理』(2018年発表)に収録されていた「水銀の湖」 を、岡野邸スタジオにて断頭台のメロディーが収録してくださることになりました。
ありがたいことに、今回のトリビュート盤においては実に多くのアーティストが参加してくださっておりますが、数少ないバンド単位でのレコーディングに臨んでくださることになった断頭台のメロディーは、まだ昨年始動したばかりの新バンドではあるものの、ある意味で“HIKARUチルドレン”と呼べる存在だと言えるでしょう。
話はさかのぼること、1998年。断頭台のメロディーのギタリスト・小笠原健一さんと、ヴォーカリスト・YUTAKAさんは、当時ともにKneuklid Romance(※現在活動休止中)というバンドでメジャーデビューをされ、その際の第1弾ミニアルバム『LINK』をプロデュースしたのがHIKARUでした。
「正直言うと、最初のうちはHIKARUさんの言ってることが理解出来なかったんです。自分がそれまでやってきた感覚とは全く違う方向からの意見とかアドバイスがあまりにも多くて、けっこう揉めたこともありましたね。HIKARUさんに「ギター、やめろ!」って言われたこともありましたもん。いやー、ほんと厳しかったですよ(苦笑)」(健一)
HIKARUから愛の鞭を受けたことにより、健一さんは次作となった『SCUD』からギタースタイルを大きく変えていくことになったそうです。それ以降も、Kneuklid Romanceは2000年に『Rainbow』を発表して一旦解散するまで、HIKARUとの音源制作を続けていくことになりました。
「だんだんわかってきたんですよ。こういう方向性で、こういう弾き方をしたら、きっとHIKARUさんがニヤっとしてくれるだろうなっていうことが。そして、HIKARUさんからしたら「ふざけんな!」って思うかもしれないですけど、僕がHIKARUさんから学んだことって、もはやDNA的な感じで自分の一部に刷り込まれてるものというか。それはその時々でやってるバンドが変わっても、揺らがない部分なんです」(健一)
なお、奇しくも今回のトリビュートアルバム『ISSAY gave life to FLOWERS - a tribute to Der Zibet -』の制作に向けての話が進行しだしたのは、ちょうど健一さんとYUTAKAさんが、あらたに断頭台のメロディーを始動させようと水面下で動いていたタイミングと重なっていました。くわえて、それよりも以前に実はこのような予定も決まっていたのだとか。
「HIKARUさんからのお誘いをいただいて、去年の12月にDER ZIBETさんとKneuklid Romanceの方でタイバンするという話も出ていたんですよ。ISSAYさんには以前にも何度かお会いしたことはあって、凄くスタイリッシュな方だなという印象が強かったですし、またぜひお会いしたかったですね」(健一)
あれやこれやがありつつの、実に約四半世紀にもわたる縁。断頭台のメロディーは、このたびあらためてそれを音というかたちで具現化してくれたことになります。そればかりか、楽曲としての「水銀の湖」と向き合っていくうえでは、ひとつの覚悟もしていると健一さんは言うのです。
「良くも悪くも、賛否両論が出てくるようなものに仕上げたい!というのが弾き手側、作り手側としてのこだわりとしてあります。そこは「HIKARUさん、だいぶ原曲を崩しちゃってごめんなさい」というところではあるんですが(笑)、こういう一癖あるアプローチと歌を引き立たせるアレンジ手法は、まさにHIKARUさんから学ばせていただいたものなんですね。あの頃に教えていただいたことを、今の自分なりに音としてお返ししたかったので、この音をHIKARUさんが聴いてくれた時に「アイツ…」って笑ってもらえたら、僕としては凄く嬉しいです」(健一)
ただならぬ深い想いを持ったうえで、断頭台のメロディーが「水銀の湖」の世界を表現してくれようとしていることは、デモテープやラフミックスの段階でも如実でした。特に、レコーディング直前に送られてきたラフミックスの完成度は相当なもので、ベーシスト・Ryo-Taさんのプレイ、健一さんのギターフレーズ、YUTAKAさんの仮歌も含めてかなりのクオリティになっていたことに、プロデューサーの岡野さん、エンジニアのKoni-youngさんも感心していたほど。
「これ、別にこのまんまでいいでしょ」(岡野)
「逆にどこを直したいのかわからない(笑)」(Koni-young)
とはいえ、この段階だとドラムはまだ打ち込みの状態であったため、当日はドラマーのHIMEさんがブースに入って生ドラムを録っていくことになりました。(※Ryo-Taさんのベースは自宅録音のテイクでOK!)
ちなみに、HIMEさんは2015年6月28日に幕張メッセで開催された[LUNATIC FEST.]にAIONのサポートドラマーとして出演されていて、同日の出演アーティストの中にISSAYがヴォーカリストをつとめるKA.F.KAもいたのだそうです。
「…いろんなことを思うと、今回のレコーディングは凄く緊張しますね。なんか、言葉でこの気持ちを表わそうと思うと上手くまとまらないんですよ(苦笑)。この1週間はずっとこの曲のことを考えてましたし、昨日も一昨日も自分ひとりでずっとスタジオ入ってたんですけど、とにかく今日はこの想いを全て音に込めようと思います!!」(HIME)
強い想いがプレイとカラダを過熱させたのか、HIMEさんは途中からブース内で着ていた服を脱ぎだし、上半身裸になっての迫真モードへとシフトチェンジ。
「裸になってからの方が断然いいね(笑)」(健一)
「さっきと明らかに違う!」(YUTAKA)
ということで、HIMEさんはライヴさながらの鬼気迫るドラミングで「水銀の湖」にラウドな味わいを加えてくださいました。いえ、それだけではありません。ここにあげた写真を見ていただければわかるとおり、HIMEさんはISSAYのフォト入り譜面(お手製!)を見ながらずっとプレイをしてくださっていたのです。HIMEさんの叩く音に、たくさんの愛がこもっていたのは言うまでもありません。
「たとえ写真だとしても、ご本人の顔を見ながら叩くのと、ただドラムを叩くのでは自分の気持ちの入り方が絶対違うんですよ。想いを込めるにはやっぱりこれが一番だなと思って、ネットで拾った写真をお借りして作ってきちゃいました(笑)」(HIME)
このドラム録りの後には、YUTAKAさんも「念のため、ここでも歌っておきたい」ということでブースイン。しかも、見やればYUTAKAさんもISSAYのフォト入り譜面を使っているではありませんか!“断メロさん”たちのISSAYやDER ZIBETに対するあたたかいお気持ちが、ひしひしと伝わってきます。
「この「水銀の湖」は難しい曲だし、テンポも原曲より上げたのもあって、歌うのはちょっと大変なところもありますね。だけど、自分にとってはこの歌詞に共感というか感情移入出来るところが凄くあるんです。僕のこどもの頃の家庭環境とか、義理の父親からの暴力とか、性的虐待の経験とか、そういうものがいろいろ重なるんですよ。残念ながら、僕はISSAYさんとはお会いしたことなかったんですけど、ISSAYさんの詞からはきっと抑圧された環境にいたことがあったんだろうなって感じるんです。実際のところは、よく知らないですよ。でも、音楽が唯一の逃げ場みたいな経験をしてるんじゃないかな?っていうことが、ISSAYさんの詞からは伝わってきます」(YUTAKA)
確かに、この「水銀の湖」の詞には〈去勢されて部屋の中〉〈思春期の呪縛〉〈鏡の向こうで俺は壊れてく〉といったシビアで残酷な言葉たちがちりばめられているのも事実で、同時にそれらを幻想的な情景と重ねて表現してあるところも特徴的だと言えます。YUTAKAさんは、今回の歌録りで単にカバーするただけではなく詞世界の深淵まで踏み込んだ歌をかたちにしてくれたようです。
「Kneuklid Romanceの頃、HIKARUさんが一緒に歌詞を考えてくれたことがあって、その時に洗いざらい自分の経験を話したことがあったんですね。そこから自分の気持ちは少し楽になったし、ようやく言葉として詞で過去を表現することが出来るようになったんです。おそらく、HIKARUさんはISSAYさんのことを知ってたから「こいつ、近いところがあるな」って感じてくれてたのかもしれないですね。HIKARUさんが僕の中にあったものを引き出してくれたこと、今でもほんとに感謝してます」(YUTAKA)
かくして。健一さん、HIMEさん、YUTAKAさんがそれぞれに愛を持って向き合ってくださった「水銀の湖」ですが、より良い作品に仕上げるためにこの日の現場では終盤になって岡野さんから“ギター・パートについてのアイディア”も出され、その部分については別途のレコーディングが行われるとともに、岡野さんも自らギタリストとして加勢してくださることも決定。さらなるブラッシュアップがなされることになったのです。
「往年のデルジファンの方たちはもちろん、このCDを通してファンになってくださる方たちにも、ISSAYさんの言葉の深さが伝わることを願ってギターを弾かせていただきました。デルジが残してくれた遺伝子で僕たちが育ち、僕たちの音になったことがISSAYさんやHIKARUさん、DER ZIBETに関わる全ての人たちへ届きますように…!」(健一)
「水銀の湖」への良い意味での賛否両論が、果たしてどのように巻き起こることになるのか。それが今からとても楽しみで仕方ありません。断頭台のメロディーのみなさま、最終的な完成まで引き続き何卒よろしくお願いいたします!!
Text:DZTP(S)

ここより追記
さてこの断頭台のメロディー「水銀の湖」は昨今のヘビーシーンに精通する岡野さん的にはかなり得意分野でもあったようで、MIX作業にあたってはKoni-youngに資料音源を山ほど送って特にドラムのサウンド作りに時間をかけてもらいました。
記録によるとKoni-youngが整理整頓のためにラフミックスを作ったのが5/8、ドラムのサウンド作りが終わったのが11日、岡野さんにそれが渡り、13日から15日にかけてメンバーとやりとり。完成したMIXに関しての小笠原君からの返信がこちら:
エディットやMIXで音が太くなったのとエッジがハッキリしました。メリハリのバランスが絶妙すぎてグッときました!
メンバーにMIX音源を共有したところ、全員からすぐに連絡がきてテンションMAXでした! 全員一致でMIX最高との意見でした。素晴らしい音をありがとうございます。
その後あらためて小笠原君から丁寧な返信をいただきました。
「水銀の湖」を推薦いただいた時点で既にマジックが起きていて、
断メロの方向性と打ち出したかったイメージと
岡野さん、小西さん、皆さんの熱量が合致したのと
ISSAYさん、ヒカルさん、デルジベット、
みんなの気持ちが活かされた音に行きついたのだと感慨深い気持ちです。
今回の経験は僕にとっても断メロにとっても大きく、
視野が広がる貴重な経験となりました。
経験を生かして飛躍できるよう、これからも精進していきます。
8/4のISSAYトリビュートライブでは「水銀の湖」をHIKARUと共に披露してくれる予定の断頭台のメロディー、今後の活動にもご注目を!
追記:DZTP イトハル