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制作日記 7「待つ歌」CD1-4 完全版
vol. 19 2024-03-22 0
制作日記 7「待つ歌」完全版
Vo. & Dr. 木村世治 (ZEPPET STORE) / Arr., A.G. & Key. 藤原マヒト (DER ZIBET) / Pf. 福原まり / Vn. Jill (Rose Noire, Unlucky Morpheus) & Louie (Rose Noire)
3月20日（祝）晴れのち雷雨＋強風
3月も下旬なのに陽が落ちると気温が2月並みに急降下。穏やかな季節が来そうでなかなか来ないこの日のレコーディング曲はDER ZIBETが1985年10月にリリースしたデビューシングル「待つ歌」でした。
まさに春の嵐のような天候の中、岡野ハジメ氏のプライベートスタジオを訪れたのは ZEPPET STORE のヴォーカル&ギターでもあり、ソロとしても活動中の木村世治さんと DER ZIBET 結成当初（1984 年）のキーボーディストであり、2007 年の再始動以降は正式メンバーとして活動してきたマヒトさん。ちなみに 1996 年に ZEPPET STORE としてメジャーデビューを飾った木村さんがDER ZIBET の音楽と出会ったのは地元、福島県に住んでいた 18 才の時。当時、レンタルレコードショップでバイトしていた木村さんはリアルタイムで「待つ歌」を聴いて衝撃を受け、アナログのシングル盤を持って上京したのだとか。
「東京に出てきた 19 才の頃は友人の家に居候していたんですが、そこに DER ZIBET のファーストアルバム『Violetter Bal(紫色の舞踏会)』があったんですよ。僕は基本的には洋楽ドップリだったんですが、アルバムを聴いたら想像以上に耽美でグラムロックやニューウェーブの要素もあって、僕が当時、ハマっていた音楽にすごく近かったんです。実際に ISSAY さんにお会いするのはそれから20 年以上経ってからのことなんですけどね」(木村)
まだ少年だった木村さんが後にプロのミュージシャンになり、トリビュートアルバムで「待つ歌」をカヴァーすることになるとは、何か運命めいたものを感じずにはいられません。
同時に個人的に気になるのはファーストシングルに「待つ歌」が選ばれた経緯。景色や人が浮かんでは消え、時間とともに流れていくような詩的でメロディックなミドルバラードでロックバンドがデビューするのはあの時代には異例だった記憶があります。
「当初はスタジオでみんなで色々なアイディアを出し合って曲を作っていたんです。「待つ歌」の原型は僕がピアノのイントロを弾いてみたところから始まったんじゃないかな。のちにISSAYの歌詞が生まれてHIKARUくんがメロディをつけたという流れです。自分としてはデヴィッド・ボウイの「HEROES」に通じるニュアンスの曲を意識していました。シングル・ヴァージョンでカットされているアウトロのコーラスが入る部分は HIKARU くんのアイディアですね。80 年代半ばのバンドのデビュー曲としては珍しいミディアムテンポの曲ですが、近田春夫さんがこの曲を推していらして、タイトルも仮だったのに近田さんが“「待つ歌」でいいんじゃない?”っておっしゃったんですよ。音楽的な幅の広さも踏まえた上で文学的な匂いがするロックバンドだと捉えていたのかもしれないですね」(マヒト)
13 時 30 分。スタジオではアレンジメントを手がけたマヒトさんと木村さんが打ち合わせを開始。 マヒトさんがガットギターを弾きながら、間奏で転調するコード進行などを確認していきます。「緊張するなぁ」と木村さん。ちなみにこの時のやりとりでヴォーカルのみならず、ドラムも叩くことが正式決定。そもそも木村さんは ZEPPET STORE 結成前のバンドではドラマーだったのです。エンジニアの koni-young さんも加わり、譜面を見ながら諸々、構成をチェックした後は木村さんが「声出してきます！」と1階のドラムブースへ。その間、2階ではセッティング。この日はダミーヘッドマイク(人の頭部の形をしたマイク。
そして後半の歌は1階のスタジオで録音。2階でバランス調整する koni-young さんの後ろでイトハルが「ここは囁くような感じで」、マヒトさんが「フレンチキス(マヒトさん的にはそっとキスするイメージ）のような発音で」と絶妙なサジェッションをしていたのも印象的でした。結果、全員の賛辞に木村さんもガッツポーズ。
ちなみにマヒトさんはアレンジを全てギターで考えたとのこと。間奏は DER ZIBET でセルフカヴァーしたヴァージョンを踏まえたもの。オリジナルの「待つ歌」とは少し異なるアングルから形にしていったそうで、デモトラックを聴いた岡野さんはその音楽的センスとギタープレイを絶賛していました。
「弾き語りのニュアンスというか、生楽器主体のフォークロックにしたかったんですよ。「待つ歌」のイントロの象徴的なフレーズをピアノで弾くとオリジナルから発展しづらいんですけど、同じフレーズをガットギターで弾くことによってよりオーガニックなアプローチができるかなと。ISSAY が好きだったレナード・コーエンの匂いがそこはかとなく感じられるような雰囲気が出したかったんですよね。木村さんの歌はイメージ通りでした」(マヒト)
「リスペクトしている方でなおかつトリビュートなので、ISSAY さんのニュアンスを出しつつ、歌うのは木村世治なので、家でいろいろシミュレーションしてました。ただ、家とスタジオでは環境が違うので今日は出たとこ勝負でしたね。ひとことで言うと“愛”ですよ。「待つ歌」の美しさと力強さに自分の色を加えて歌えたことがすごく嬉しかった。ISSAY さんはもともと歌い方がセクシーなので、自分なりに甘美なニュアンスが出せたらいいなと思って挑みました。洋楽ばかり追いかけていた 10 代の僕が「待つ歌」を聴いて衝撃を受けた時の感覚が蘇ってきましたね」(木村)
そう感慨深げな表情で語ってくれた木村さん。ISSAY と初めて同じステージに立ったのは 2019 年に横浜ベイホールで開催された THE CLUB SENSATION主 催 のイベント 【 YOKOHAMA SUMMER ROCK FES.”REVOLUTION ROCKS 2019】。交流が生まれたのは 2008 年に BUCK-TICK のライブを観にいって以降だとか。
「10 代の頃、ジャケット写真や雑誌で見ていた ISSAY さんと全く印象が変わっていなかったのにビックリしましたね。メイクもキッチリしてて、ビシッとした感じで客席に座ってたんですよ。“ISSAY さん、ライブやってからいらしたんですか?”っていうぐらい(笑)。“あの頃のまんまだ”って嬉しかったですね」(木村)
さて、レコーディングに話を戻すと、歌録りが終わって間もなく木村さんはドラム録りを開始。さすがドラマーだっただけあり、オーガニックでセンシティブな「待つ歌」の世界観を活かすべく、「ロックというよりジャズ寄りのタッチで」という岡野さんのリクエストに応え、シンバルやハイハットに重きを置いたプレイを披露してくれました。まるでマエストロのように全身で音のひとつひとつに反応していた岡野さんのプロデュース力はさすが。ZEPPET STORE のデビュー曲「声」以来の付き合いだという koni-young さんとも阿吽の呼吸で作業が進んでいきます。
レコーディングが終盤に近づき、外がすっかり暗くなった頃には、岡野スタジオを走り回っていたかわいい猫ちゃんたちもたゆたうような心地いいサウンドに目を細め、リラックスしていました。
この日の収録に ISSAY meets DOLLY として活動してきた福原まりさんのピアノとサポートメンバーとして同じステージに幾度も立ってきた Jill さん(Rose Noire, Unlucky Morpheus)、Louie さん(Rose Noire)のヴァイオリンが加わり、「待つ歌」は完成となります。
まだまだ続く怒涛のレコーディング、今後もお付き合いください！
Text: DZTP (H) Photo：イトハル
写真左より Koni-young、岡野ハジメ、木村世治、藤原マヒト
以下追記
はてさて完全版ということでこの後のお話。
前日の通り、この曲のピアノは福原まりさんにお願いしておりました。弦楽器や鍵盤楽器を演奏される方にはあるあるなのですが、曲のベースとなるマヒトのオケに入っているシンセはチューニングが441Hz、まりさんのご自宅のピアノが440Hz、ということでマヒトは自宅作業で楽器群の変換作業にあたることに。そして変換が終わった音源が３月下旬にマヒトからまりさんの元へ。まりさんはISSAY meets DOLLYの頃もそうでしたが、ご自宅のピアノ演奏をそのままご自身で収録していただける方で、4月9日にピアノ演奏の録音データをお送りいただきました。
演奏を聴いたマヒトからの返信：とっても素敵だね！ こんな感じになればと何となくイメージしてた通りのテイクです。どうもありがとうございます！！
まりさんからは後日コメントを頂戴しました。
ISSAY氏から「待つ歌」は原点とも言える曲と聞いていたので、ピアノで参加できてとても嬉しかったです。今回、一新されたマヒトさんのアレンジがとても優しく、温かい気持ちで演奏することができました。ありがとうございました。（福原まり）
かくしてバトンはRose NoireとしてDER ZIBETのサポート、ISSAY meets DOLLYでは準メンバーとしてもよくライブを共にしてきたJillさんとLouie君に渡されました。それぞれのご自宅での収録です。Louie君が2本のバイオリンのアレンジを考えてくれました。
実はRose Noireとして二人一緒の音源としては久しぶりのものだそうです。そして4/29二人分揃っての音源が届き、マヒトが確認して少し生っぽい付け足しや、R. StonesのShe’s A Rainbowを例に出して壊れていくようなアウトをリクエストすると、お二人はそれに応えて完璧な演奏を送っていただきました。もう流石です！！
是非、ピアノ・バイオリンにも耳を傾けて聴いてみてください〜。
追記：イトハル