2ヶ月間を振り返って
vol. 19 2025-05-22 0
展覧会も早いもので今週末25日(日)までとなり、残り1週間を切りました。
2ヶ月の会期中に彫られた250輪以上の椿の花の彫刻をまじまじ見ていると、人にも個性があるように、彫られた椿の花にもそれぞれの個性が宿っているんだなあと感じます。力加減や角度の違いで、ある人は太い線で、ある人は細い線で掘り込み、オリジナリティーを見つけていました。
在日コリアン、日本の方はもちろん、アメリカ、メキシコ、フランス、インドネシア、中国などたくさんの国籍の子供から大人まで多くの方に椿の花を彫っていただきました。(生野区が約80カ国の外国籍の方が住まわれている地域であること、また有名観光地である大阪コリアタウンが近くにありそこからお客さんが流れてきていることが多種多様な方が来てくださっていることに関係していると思われます。)
今では沢山の椿が彫られていますが、展示が始まるまでは正直なところ不安もありました。
果たしてただ展示を観に来られた方が、いきなり彫刻刀を使って椿の花を彫るなんてしてくれるのだろうか、または技術的に出来るのだろうかと。
しかし、実際に展示が始まると、初っ端の一輪目からその心配は吹き飛びました。私の予想を上回る速度で、次々と椿の花が咲き始めました。
初めは慣れない手つきの方も「彫刻刀を使うのなんて小学生以来で楽しかった」と最後は良い笑顔で帰られる方が大半で、完成した自分の椿の花を誇らしげに眺めるお客さんの姿を見ながら、私の作品であると同時に、みんなと作り上げる作品であるんだなと実感として湧いてきました。彫るという行為がこんなにも人に馴染み、経験として豊かなものになるとは思いもよらず、私にとっても新しい発見の日々です。
椿の花を彫ってくださった方のほとんどは「済州4·3」のことを知りませんでした。
お客さんが彫刻をしている間に済州4·3の説明をすると、人によっては関心を寄せたり深く知ろうとする方もいれば、もともと知っていて意見をお持ちの方もいたり、はたまた、ただ椿の花を彫ることに集中される方もいる…、いろんな方が自然とその場所に共存していました。
現実の世界から一時的に抜け出し、アートという抽象世界に身を委ねる状況は、自由を感じる意識への道でありアートの持つ力だと思いました。
約2ヶ月の間、ほぼ生野区に滞在し会場にも常駐して来場者の方々と交流を持つ中で、単発でのフィールドワークでは得ることができない交流がそこにはありました。特に地元の在日コリアンの方々との交流がプロジェクトの質を高めることになりました。
たとえ今この済州4·3を知らなくても、何かの拍子に済州4·3と繋がり、あの時彫っていたのはこういうことだったのかと思える日が来ることを願います。
私自身も展覧会を通して様々なことを学びました。
イデオロギーや政治、経済の壁を超えた自由で想像的な交流を促すアートの可能性。
実際に済州4·3という壮絶な歴史を体験された方と接する機会を得る中で、果たしてこのテーマをアート作品として結果として「美しい」「楽しい」と思わせるような表現をしても良いのだろうか、という葛藤。
課題や疑問はありますが、時間をかけてじっくり探っていこうと思います。
今回の1部目で得たアイデアや教訓を、来年の2部目の長崎・大村の展開に繋げていきたいと思います。
まだ会期は4日ありますので、最後までこの時間を噛み締めて邁進していこうと思います。