ヤマケイ社員による「山小屋の思い出vol.14」を紹介します!
vol. 39 2020-08-07 0
小社社員はさまざまなかたちで山小屋でお世話になっています。
そんな社員による、山小屋での思い出話をご紹介します。
第14回目は、入社14年目、山と溪谷編集部 西村健(たけし)がお届けします!
どうぞお付き合いください。
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山と山小屋が気づかせてくれること
少し古い話ですが、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたとき、9年前の東日本大震災が頭をよぎりました。あのときは緊急事態宣言こそ出されませんでしたが、地震、津波に加えて福島原発の事故が起き、長い期間にわたって東京にもただならぬ雰囲気が漂っていました。スーパーもコンビニも商品棚がスカスカという状態が続き、毎日口にする生鮮食品も、ひとつずつ産地を確かめ、安全かどうか迷いながら買うことが当たり前になっていました。
節電のために街は照明を落とし、日が落ちれば都心にも息をひそめるような暗さが広がっていました。仕事帰りに飲みに行くのもはばかられ、震災後の数週間は登山も控えていました。日々の暮らしの中でも「ここの照明はいらないんじゃないか」「たまにしか使わないんだから電源コードを抜いておこう」と、待機電力にまで目を配っていたのを思い出します。結局長続きはしませんでしたが、あのころは自分の消費活動のこと、特にエネルギー消費のことをたびたび考えました。電力を他に依存しない「オフグリッド」という言葉が盛んに聞かれるようになったのも、福島の事故から後のことだったように思います。
そんなこんなでしばらく都内で静かに生活していましたが、登山雑誌をつくるうえで山の取材を欠くことはできません。年末発売の雪山特集号に向けて北八ヶ岳に出かけたのは、震災から3週間ほどたった3月末のことでした。
取材ルートは、夏沢鉱泉から入山し、夏沢峠、根石岳、天狗岳へと縦走する雪山の初級コースです。ルート自体は取材以前も歩いたことがあったのですが、この時初めてだったのは夏沢鉱泉での宿泊です。夏沢鉱泉は硫黄岳山荘グループが運営する通年営業の山小屋で、冬季は雪上車で送迎してもらえるため、林道歩きを省略することができます。当日はグループ代表の浦野岳孝さんがハンドルを握る雪上車に乗せていただき、まだたっぷり雪の残った林道を抜けて夏沢鉱泉に入りました。
夏沢鉱泉の浦野岳孝さん
夏沢鉱泉は、文字通り鉱泉という山の恵みが魅力の宿ですが、エネルギーについても、自然の恵みを最大限に利用していました。雪上に残された動物たちの足跡を追って宿の周辺を散策した後、浦野さんが案内してくれたのは、小規模水力発電装置でした。
沢の水を利用した小規模水力発電装置
目の前を流下する夏沢の豊富な雪解け水を利用した水力発電に加えて、夏沢鉱泉の屋根や壁面には太陽光発電のパネルが設置され、屋根の上には風力発電のための風車もあります。自然エネルギーは気象条件などによって利用できない日があったりするのが難点ですが、複数の発電方法を組み合わせることで、そうした弱点をうまくカバーするシステムが構築されていました。夜、それらの発電装置がつくった電気で適温が保たれた温泉に浸かっていると、山の恵みや人の心づかいがしみじみと胸をうちました。翌日は天気にも恵まれ、無事に縦走を終えることができました。
電気で加温している温泉
照明などの電気は自然エネルギーを利用した発電でまかなわれている
太陽光パネルと風車が印象的な晩夏の夏沢鉱泉
高層ビルが立ち並び、地面という地面はすべてアスファルトで隠された大都市で生活をしていると、この世界は人間が作り上げたものだと錯覚しそうになります。けれど、山に出かけ、森のにおいをかいだり、ちょっと危なっかしい場所をトラバースしたりしていると、自分も自然の一部であり、自然のなかではあっけなく死んでしまうこともあるという、当たり前のことを思い出します。そして、山小屋を訪ね、厳しい山の環境のなかで暮らす人たちの知恵に触れるとき、人間のたくましさにも気づかされるのです。僕にとって、山小屋とはそういうところです。
山と溪谷編集部 西村 健
『山と溪谷』のほか、『ヤマケイJOY』『ワンダーフォーゲル』といった登山雑誌の編集に携わってきた。静かな尾根歩きがいちばん好きな40代。
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