山小屋にまつわる本の紹介 vol.3『北岳山小屋物語』樋口明雄 著
vol. 27 2020-07-13 0
弊社刊行の山小屋にまつわる本を紹介していきます。
今回は、今年1月に刊行した『北岳山小屋物語』について、
編集担当の神谷浩之よりご紹介いたします。
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富士山に次ぐ日本第二の高峰、南アルプス・北岳(標高3193m)。北岳の周辺には、5軒の山小屋が立っています。
北岳の登山口、広河原にある広河原山荘。広河原から約3時間、白根御池の畔に立つ白根御池小屋。北岳山頂直下、標高3000mに位置する北岳肩の小屋。北岳と間ノ岳(3190m)間の稜線上の北岳山荘。野呂川上流、深い谷間に静かにたたずむ両俣小屋。
これら5軒の山小屋のご主人やスタッフに丹念に取材してまとめたノンフィクションが、『北岳山小屋物語』です。
著者は、「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズなどの山岳小説や、『約束の地』などの骨太な冒険小説の書き手として知られる樋口明雄さん。樋口さんは山梨県北杜市在住で、北岳には年に数回登っており、その経験が小説にも生かされています。
本書は、これまで小説の舞台としてきた北岳を、著者初のノンフィクションとして描いた作品です。作家ならではの視点や筆致によって、普段は見えない、見過ごしてしまう山小屋の裏側が生き生きと描き出されています。
著者の樋口明雄さん(左)と、同じく作家の馳 星周さん。北岳山頂にて
山岳遭難救助と山岳診療所
山小屋が担う重要な役割のひとつに、山岳遭難救助があります。山岳遭難事故が発生したとき、その最前線に立つのは、現場に最も近い山小屋やスタッフたち。彼らは、小屋の通常業務から外れ、救助や捜索に向かうことになります。警察へ通報がなされたとしても、山小屋は現場と警察を結ぶ重要な中継地となり、無線や電話のやりとりをします。
「事故に関しては、同じことはひとつとしてないんです。いつも違ったケースが発生します。だから毎回、勉強になります。そしてそのたびに自分の力のなさを感じます」
そう語るのは、白根御池小屋の高妻潤一郎さんです(2005年から2019年まで管理業務に携わられていました)。
北岳の北東、標高約2200mに立つ白根御池小屋
北岳山荘にはシーズンの間、「昭和大学医学部北岳診療所」が開設されます。ここは南アルプス唯一の山岳診療所。この診療所で命を取り留めた登山者もいるそうです。
「こんな山の上で、情報も物資も何もないような環境ですから、人と人との関わりは下界よりもずっと深くなる。そんなところでの診療活動が、結果として良い医師や看護師を育ててゆくんじゃないか」
北岳に診療所を開いた理由について昭和大学の故小林太刀夫さんは、そう語ったといいます。
登山に事故はつきものです。どんなに注意をしていても事故を起こす可能性は誰にでもあります。そんなときに山小屋の果たす役割は、計り知れません。
「一般の登山者がうかがい知ることができない山小屋の裏側。さまざまな苦労や血のにじむような努力。悩み、喜び、そして山で仕事をし、山で生きていくことの意義。本書を通じて少しでもそれを読者の方々に理解していただけることが、筆者としての真摯な願いである」
著者の樋口さんは本書のなかでそう綴っています。
本書に登場する5軒の山小屋は、今シーズン営業しないことが決まりました。それだけでなく、南アルプス市では、北岳に登る登山道の利用の禁止も決定しました。
今年登れない分、本書を読んで山小屋の役割を考えてみてはいかがでしょうか。
編集担当 神谷浩之
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『北岳山小屋物語』樋口明雄
南アルプス・北岳周辺にある5軒の山小屋の、小屋開け・遭難救助・日常生活ーー。宿泊したり、通過したりするだけではわからない、山小屋の裏側で起こる人間ドラマをつづったノンフィクション。
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2819156060.html
《著者紹介》
ひぐち・あきお/1960年生まれ。作家。2008年『約束の地』(光文社)で、第27回日本冒険小説協会大賞および第12回大藪春彦賞を受賞。13年『ミッドナイト・ラン!』で第2回エキナカ書店大賞を受賞。山岳小説の著作に『狼は瞑らない』など多数。「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズに『天空の犬』、『ハルカの空』、『ブロッケンの悪魔』、『炎の岳』、『白い標的』、『レスキュードッグ・ストーリーズ』、『クリムゾンの疾走』、『逃亡山脈』がある。
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書籍に登場する山小屋を訪ねたことがある方も、いつか行きたいと思われている方にもおすすめの一冊です。
また、山小屋関連の本を紹介していきます。
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