ヤマケイ社員による「山小屋の思い出vol.8」を紹介します!
vol. 25 2020-07-06 0
七倉岳から見た船窪小屋
小社社員はさまざまなかたちで山小屋でお世話になっています。そんな社員による、山小屋での思い出話をご紹介します。
第8回目は、入社13年目、デジタル事業本部 田中潤二がお届けします!どうぞお付き合いください。
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人生でいちばん美味しかった、コカ・コーラと、コーヒーの話
学生時代、登山サークルの活動で多くの山に行き、山小屋には何度も立ち寄ってきましたが、学生は常にテント泊だったため、山小屋には泊まったことがずっとないまま生きてきました。しかも、売店の利用すらほぼしたことがなかったのです。
というのも、私の所属していたサークルには「山に入る際に準備した装備・食料で登山を完結させるべし!」という非常に変な文化があったからです。そのため、山小屋に立ち寄っても、テント料金を支払うのみで、ずっと生きてきたわけです。売店を覗くとビールが、炭酸飲料が、スナック菓子が並んでいるものの、まるで修行僧のようにその誘惑に目を背けていました。
もちろん、コッソリ利用する機会は何度もありました。それでも利用をしなかったのは、先輩が怖かったからというわけでもなく、自分を律するためとかいう気持ちがあったわけでもありません。なんとなくパーティの仲間が我慢している中で、自分だけが我慢しないというのが引っ掛かっていたのでしょう。
そんな学生時代に、2度だけ山小屋を利用した経験があります。
船窪小屋すぐ近くのピーク、天狗の庭より。高瀬ダム越しに槍ヶ岳方面を望む
その1回目が、北アルプス・船窪小屋でした。テント料金を支払いに来た私は、初めて、そして唯一誘惑に負けました。船窪小屋はテント場と小屋が若干離れているので、バレることはないだろうという気持ちもあったのでしょう。そのとき購入して飲んだコカ・コーラは、過去にも未来にもいちばん美味しいコーラでした。
余談ですが、飲み終えたあと、その空き缶をどうするか逡巡していると、その様子を察したのか、山小屋の方が「いいよ、置いていって」と引き取ってくれたのは非常にありがたかったです。ゴミを持ち帰るは、登山者の「原則」ですから、山小屋でこっそり買ったはいいものの「テント場に持ち帰ったらバレるな‥‥」と、飲み終わってから気づいたわけです。
七倉岳で迎える夜明け。船窪小屋が管理するテント場は七倉岳の西斜面中腹にあり、静かな雰囲気が楽しめる
そしてもう1回は、北アルプス・双六小屋でコーヒーを飲んだ経験です。この日、三俣蓮華岳から双六小屋に移動していましたが、あいにくの雨天でした。雨に打たれ、気持ちも上がらないまま歩いていて、ようやく小屋が視界に入ってくると――ここで信じられないような暴風雨に見舞われたのでした。
双六小屋は小屋が見えてからもけっこう距離があります。森林限界なので避難する場所もなく、みるみるうちに登山道は沢になり、滝になり、その中を懸命に進み、なんとか山小屋に避難しました。全身ずぶ濡れ、泥だらけで完全に迷惑な客でしたが、小屋の方が「たいへんだったね」と、快く迎えてくれたのはほんとうにありがたかったです。
弓折岳側から見た双六小屋。背後にそびえるのは鷲羽岳
このまま雨宿り利用だけというわけにはいかないだろう、ということで、みんなで規則を破ってコーヒーを注文しました。雨に濡れて冷えた体に温かいコーヒーが体に染み渡り、生き返る気持ちでした。
こちらも余談ですが、このときにコーヒーを買うのにたいへんな議論となりました。頭の硬い「規則は守るべき」という意見に対し、「人として何か注文するのが礼儀」という意見がぶつかり、多くの雨宿り登山者の中で激論を繰り広げたわけです。周囲の人々は、引いていましたね~。結果、共同装備として購入するという結論とし、折り合いをつけました。しかし、すごいなと思ったのが、「規則は守るべき」派。コーヒーは頼んだけど、最後まで口をつけなかったのです。いろんな意味で、尊敬しましたね。
今は、もちろんバッチリ売店を利用して、炭酸飲料も、コーヒーも、ビールも美味しく頂いています。そして、心地よい場所で、心地よい気分を味わっています。
余談ですが、初めて山小屋に泊まったのは、この想い出の頃から20年も後のことになります。テント泊も良いですが、やはりずっとリラックスできますね。会社でも「ベテラン」となった自分にとっては、もうテント泊はきつくなってきましたし‥‥。
デジタル事業本部 田中潤二
山と溪谷社ではヤマケイオンラインを主に担当。
技術からマーケティング、コンテンツまでやる、何でも屋。
約10年間、担当している、メールマガジンは、ライフワークとなっている。
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また、山小屋の思い出を紹介していきます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
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