鯨の目2
vol. 36 2019-08-26 0
前回の鯨の目についての記事続き。
獲る側の人間だけではなく、獲られる側の気持ちも撮る。それが獲られる側への敬意ではないか、と考えた。
では、どうすれば鯨の気持ちを撮れるか。行き着いた結論は目を撮るという行為だった。哺乳類である鯨なら目に感情が宿るのではないか、
ではどうしたら手負いの鯨の目を撮ることができるのか。 様々なアイデアが浮かんだがどれもうまくいきそうにない。 4年がかりの鯨漁撮影に成功してから、さらに待つこと3年、ついにその時がやってきた。 目の前を泳ぐ鯨を見て私が出した結論はあまりにシンプルで危険な方法だった。
鯨の目を撮るためには生きているうちに鯨の背中に取り付き、その目を撮るしかない。何しろ死んだら目を瞑るのだ。ギリギリまで待ち、生き絶える寸前に飛び込のだ。しかし、危険過ぎる賭けでもある。船の上にいて鯨に噛まれた漁師もいる。海の中で噛まれたら一巻の終わりだ。
私は鯨が弱ったところを見計らい海中に飛び込んだ。海中は血の海で、30センチ先も見えない。血のマスククリアをしながら背中に刺さった銛の銛綱を掴んだ。 するとなぜか血の海がさーと引いた。一瞬戸惑ったが、すぐにその意味がわかった。鯨が最後の力を振り絞り、再び海中に潜り始めたのだ。
私は焦った。綱が絡まると危険なのでボンベも背負ってない。上を見上げると海面がどんどん上昇していく。鯨の背中に乗ったまま、海中に連れ去られるというのはあの白鯨のエイハブ船長の最後そのものではないか
手を離して浮上するしかない、そう思い始めたとき、鯨は浮上を始めた。生暖かい鯨の背中、憤怒に燃える鯨の目、辺りを覆う血の海、ニコノス5の露出と距離目盛を合わせシャッターを切った。酸欠で失神しそうな中、鯨の心が撮れた!と思った
この記録は写真集「海人」となり、文字本「鯨人」となった。海人のフォトストーリーはLifeなど世界中の雑誌で掲載され大きな話題になった。
あれから20年、ドキュメンタリー映画「くじらびと」では、海中だけではなく、新しいアプローチで鯨の気持ちを撮影している。海の中には、船上からでは想像もできなかった物語が展開されていたのだ。
ここでは詳細を書かないが、映画館でぜひ見て、考えて欲しい。
※第3回目のファンディングもいよいよ終盤にさしかかりました。
https://motion-gallery.net/projects/whalehunter3