Altneu インタビュー2
vol. 2 2018-10-30 0
part 2・酒井はなさんのこれまでについて、カンパニーや劇場所属とフリーランスのダンサーの違い、自分の身体との対話やケアのお話など
聞き手:平間文朗、上原杏奈
平間ーはなさんに質問ですが、新国立劇場では劇場の中核として活躍し、今までに数々の賞を受賞され、日本を代表するバレエダンサーの一人と呼ばれる中、コンテンポラリーダンスや、最近では合唱舞踊劇「カルミナ・ブラーナ」への出演など、今尚、新たな挑戦を続ける原動力はどこにあるのでしょうか?
酒井ー私の場合って物凄く縁に恵まれているところがあって、原動力とあえて言うなら、頂いた一つ一つのお仕事に対して、やってみようかなという好奇心だけなんです。あっ、今度はこういう作品でこういう人と踊るんだという巡り合わせが、結果的に挑戦することになっていくのだと思います。でもそれ以上に、踊りというものに対する興味がやはり尽きないということで、それも、ジャンルに囚われることがなくて...いろいろな踊りの語り方を体験できるって素敵じゃないですか。自分にこんな風に動くことができる細胞があったんだとか、色んな発見が沢山あって、もう只々それが幸せだからやってきたという感じですね。
ー酒井はなという、ただ一人のダンサーとして立っていかなければならない。
平間ーNoismやザ・フォーサイス・カンパニー、新国立劇場と、お二人ともカンパニーに所属していた時代と、フリーランスで活動する現在とでは、どんな違いがありますか?
島地ー(カンパニー時代は)カンパニーが守ってくれてました。今(フリー)は自分のことを自分で管理しなきゃいけない、マネージメントも自分でしなきゃいけない。ある意味自由で、今までに出会えなかった人と出会えて、そこでまた自分のボキャブラリーが増えて行くことは、今までとの大きな違い。でもその分、ケアだったりとかクラスを受けるとか、身体と向き合う時間を設けるのが難しくなってしまったというのはあります。
酒井ー言ってしまえばカンパニーだと(スケジュールが)張り出されてたり、やる事が決まっている分、それが終われば帰り、そこで仕事とプライベートを区別できる。(フリーは)そうはいかないから大変だけれども、思いがけないお仕事や素敵な出会いがあったりということがあります。私は、28才くらいの時に契約ダンサーから登録になったんです。そこからは、新国立劇場の酒井はなではなくて、酒井はなという、ただ一人のダンサーとして立っていかなければならない。なので、すごく今まで守られてたんだなという事に気づきました。でもフリーになってからも本当に色んな作品、様々な振付家に出会えたし、新国立劇場でも登録ダンサーとして主役をやらせて貰っていたので、振り返れば素晴らしい環境で踊れてきたと思います。
上原ー舞台上でも気持ちが変わったということはありますか?
酒井ーやっぱり皆を引っ張っていかなければ、という責任をとても感じてましたし、それは今でも全く変わらないです。どんな作品でも作品への向き合い方は同じだし、一つ一つ大事に踊ろうということを、より強く思うようになりました。もう二度とその作品を踊らないかもしれないですしね。年齢もあると思います。その人と一緒に二度と踊らないかもしれないということを毎回思いながら踊って来たと思う。でもそれは新国時代もそうだったかもしれない。
平間ー金森穣さんの作品を踊ったこともあるとお聞きしたのですが。
酒井ーはい、あります。金森さんが新国立劇場でも振付をしたので、その時に出演させて頂きました。篠山紀信先生に撮って頂いたDVDがあって、その時に篠山先生が、バレエでは無い踊りを誰かとやってみたいと思いません?もし誰かとやりたいというのがあれば、それを撮りましょうと言って下さって、それで金森さんとやらせてもらいたいとお願いしました。
ーだから私はすごく彼の影響を受けているので、クラシックがベースにあるけれども...発想をもっともっと自由にできるんじゃないか!という風に思っています。
平間ー能楽師の津村禮次郎さんとはどんな出会いがあったんでしょうか。
酒井ー津村先生とは10年くらいのお付き合いです。最初はスタジオアーキタンツの代表の福田さんとセルリアンタワー能楽堂の館長さんと津村先生が、三人で何か(後のセルリアンタワー能楽堂の伝統と創造シリーズ)を始めようということになり、その時にお誘いを受けたんです。それで是非是非ということで。
上原ーバレリーナの酒井はなさんと能楽師の津村先生だと、全くジャンルが異なると思うのですが、最初の頃、大変ではなかったですか?
酒井ー何でしょう、不思議な波長と言いましょうか。津村先生と踊ることは実は全く違和感はないんです。最初は振付けをしてくれたのが森優貴さんだったんだけど、三人で作品を作っていって、能の所作を一緒に学んだり、それをバレエの型と照らし合わせてみたり等、みんなでアイデアを持ち寄る楽しい創作方法で、沢山学ぶことができました。
上原ー本当に色んなジャンルに出演されて、色んなものを取り入れてこられたんですね。
酒井ーそうですねぇ。パドブレってあるじゃないですか、お能にも所作があって、あぁ、先生パドブレ一緒だ!って言っていて、それはバレエでもそうなんだけれど、有限の人間界とあの世との境目、あの世にいる人の動きなんです。だから地にいないで、高くいる。幽霊の時とか、神だったり、神の域の役柄の時にする所作で、やっぱり踊りって共通することがあるんだなって思います。
島地ー型があるという意味では、能とバレエは共通してますよね。
酒井ーそう、バレエと同じなんですね。型があるということはそのポジションとか手の位置とか、全部決まっていて。
島地ーあと役柄があるというのも。
酒井ーあぁ、確かに。だからすごくバレエと相通ずるものがあります。
島地ーやっぱり役があることをしているというのは、能のシテ方もそうだし、古典バレエで主役で踊るのもそうだけど、演じていたり、何か役を入れている身体って強いですよね。そこに立った時に輪郭が違うなと感じる。今まで何度もみてきたけど、津村さんとはなさんは、その居方が特にシャープだと感じる。
酒井ー役のスイッチが入りやすいんですねきっと。こういう人物になる場合はこう、みたいなことが多分自然と身に付いているのかも。でも逆に役柄がない時が大変なんです。自分自身で良い場合、本当に等身大で良い場合と、役柄がある時では、全く身体が違う。演じ方が違う。島地くんと一緒にやるにあたっては、また違う身体言語と言いましょうか、抽象的だけどきっと何かは演じている。だから私はすごく彼の影響を受けているので、クラシックがベースにあるけれども...発想をもっともっと自由にできるんじゃないか!という風に思っています。
ーそれは、ただカジュアルな人がいるということではなくて、やはりパフォーマーとしての、彼なりのベールがあるといつも思う。
平間ーバレエでも等身大の自分のままで踊るものはあるのでしょうか?
酒井ーあぁ、抽象的な...バランシンのものとか
島地ーそれでも音楽があるからね。
酒井ーそうですね。だから...やっぱりダンサーは、何か表現の一つとして、どこか演じている部分もあるかもしれない。ストーリーがなくても。音楽を表現するにあたって、やはりその音楽に同期するベールの様なものを被らなければならないかもしれない。
島地ーバレエもそうだけど、能もそういった意味で音楽があるね。
平間ー抽象的なコンテンポラリーダンスでは、等身大の自分というものを出すということはあるのでしょうか?
酒井ーあぁ、逆に彼(島地さん)はそこに視点はないと思う。
島地ー等身大の俺を出す!っていうことはないかな。(一同笑)でも何かにはなってると思う。
酒井ー私たちは、ジュリエットになるとか、または椿姫のマルグリットになっているとか、そういうのとは何か違う、化粧や...自分自身だったり、お客様に見られていたり、パフォーマンスとしてお見せしているという様な意識のベールを被っている。それは、ただカジュアルな人がいるということではなくて、やはりパフォーマーとしての、彼なりのベールがあるといつも思う。
島地ーベールだったり、スイッチだったりね。
平間ーフォーサイス・カンパニーでは、振付作品を踊る場合はどうだったのでしょうか?
島地ー同じかなぁ。そもそも、矛盾を含んでいて、自分のまま、ヤスで良いんだよと言われていたけれど、それはその人のギリギリまで引き上げた状態がいいってことで、必ずしも素そのままで良いということではないと思います。そもそも、「そのまま」というのもどういうことなの?だし、ギリギリの状態だったり、エネルギーに満ちてる状態を求められていました。
平間ー生まれたままの状態ではなく
島地ー生まれたままの状態でいれたら良いけどね。生まれて、泣いて、めちゃくちゃエネルギーあるから(一同笑)
ー自分で自分自身を磨き、チューニングし、より良い音を奏でられる自分の身体でなければいけない。
平間ーはなさんは近頃、洗足学園音楽大学の客員教授にも就任され、ますます指導する機会が多くなっている事と思いますが、人を導くときにどんなことを大事にされていますか?
酒井ーそうですね、その対象の年齢によって色々違うんですが、ポジションであったり、ラインであったりとか、バレエはやっぱり型というものを大事にする様に出来ているから、そこをキチンとクリアにすることが基本にありつつも、どうやってその所作で音楽と一緒に踊るのかということを伝えたいと思っています。ピアニストがその時そこで奏でてくれるアンシェヌマンに対して、ある意味クラスは毎回即興なので、それをどう自分で捉えて、音楽的にそのステップを表現するのかということを大切にしてほしいとダンサー達に伝えています、それが舞踊性に繋がって行くと思っています。それから、ステップとステップの間の動きだったり、間の取り方だったりというところに重点を置く様にみんなに伝えています。
上原ーそれは、はなさんもステージ上で気にされていることなんですか?
酒井ーそう、踊る上においてのステップとステップの間はやっぱりその踊り手の個性になるので、例えばアラベスクといったらアラベスクですが、そのアラベスクをするまでにどうこの人は体重を移動させ、腕を動かし、足を上げていくのか、そういうことが個性になる。そういうところをとても大事にしています。そのステップとステップの間が上手な人程、良いダンサーだと思うし、どんなに足がギュンギュン上がっても、そこまでにたどり着く何かがおろそかになっていたりしたら、全く魅力が無くなってしまう、私にとってはそう感じます。ダンサーはやはり自分の身体が作品になるので、自分で彫刻している訳じゃないですか。自分で自分自身を磨き、チューニングし、より良い音を奏でられる自分の身体でなければいけない。それをしっかりされているダンサーを見ると、私は...すごく素敵だなと思ってしまう。
ー食事はやっぱり大事ですね。食から頂くエネルギーはしっかり取る様にしていて、あとバランスにとても気をつけてます。
上原ーはなさんもそういった、メンテナンスをされてきたからこそ、今も踊り続けていられるんでしょうか?
酒井ーそうですねぇ。やっぱりメンテナンスをしてもなかなか大変なんですよ。ここまで踊れてきてるということには感謝して、引き続きメンテナンスして、リハビリして、稽古して、ということが続くんです。
上原ー研修生から、そのメンテナンスに関して質問がありまして、体型維持や、健康のために心がけていることはありますか?という質問なんですが。
酒井ー食事はやっぱり大事ですね。食から頂くエネルギーはしっかり取る様にしていて、あとバランスにとても気をつけてます。これだけしか食べないということではなくて、やっぱり色んなものを摂取する様にしたり、やはり身体に良いとされるものを選び、健康な生活を心掛けてます。
上原ーお料理などはどうでしょうか?時間のない中かと思うのですが。
酒井ーそうですね。でも簡単に、うちで作れる時は、作ってますよ。結構野菜を炒めたり、千切りにしたりして、下ごしらえして作り置きしてますね。それをオムレツに入れたり、パスタに混ぜたり、スープに入れたり、マリネとか、サラダの付け合わせにしたりとか。
上原ーやっぱりお野菜メインの。
酒井ー野菜をしっかり取るようにしてます。
平間ーお肉は食べるんですか?
酒井ーお肉も食べますよ。好き嫌いなく食べています。
上原ーちなみに大きなけがなどはされたことはありますか?
酒井ー若い時に大きな捻挫が一個あって、16才くらいの時に。あとは今も治療中の箇所もあります。これは職業病ですね。リハビリをして、悪化しない様に大事にしているところです。やっぱりどうしても、酷使してしまうので、メンテナンスは欠かせないですね。ですから、研修生の皆さんも少しでも違和感とか痛いなとかそういうことは、自分の体が発してる信号なので我慢せずにお医者さんに行くとか、しっかりマッサージしてもらうとか、自分に合うケアをできる限りしたほうが良いと思います。
島地ー痛めてからだと遅いからね。
酒井ー事前にね。身体を大事にしてあげることはやはり、稽古後に冷やすとか、そういう意識があるのとないのとでは絶対に違うから、身体との対話をしっかりできると良いですね。
2018年9月5日
編集 平間
次回は、Altneu インタビュー最終part、Altneu(アルトノイ)のこれまでとこれからについて、「変」なことについてのお話、本プロジェクトについてなど聞いていきます。
次回の更新は、11月13日(火)予定