鈴木惣一朗さんの連載コラム、『小樽の風景音楽』について。
vol. 9 2026-03-01 0
複合文化施設、裏小樽モンパルナスについて広く、深く知っていただくためのアップデート。今回は今年1月から裏小樽モンパルナスのウェブサイトでスタートした、音楽家、鈴木惣一朗さん(aka WORLD STANDARD)による音楽コラム、『小樽の風景音楽』にまつわるお話です。
鈴木さんは1983年、アヴァン・ポップ・バンド、ワールド・スタンダードを結成し、85年、細野晴臣さんプロデュースで細野さんのレーベル、ノン・スタンダードからデビュー。以来40年にわたり、ワールド・スタンダードとして15枚のアルバムをリリースしているほか、あがた森魚さん、髙田漣さん、ハナレグミ、湯川潮音さんなどのプロデュースを手掛け、また文筆家としても『モンド・ミュージック』三部作、細野さんとの共著『分福茶釜』『細野晴臣 録音術』などを著し、音楽の最前線で活躍されています。
私たちは昨年夏、小樽出身の音楽評論家、長谷川博一さんの七回忌にあわせ「追憶の長谷川博一」という回顧展を開催しました。長谷川さんはライターとして『Mr. OUTSIDE わたしがロックをえがく時』『きれいな歌に会いに行く』『バックストリートブルース 宇崎竜童 音魂往生記』など、シンガーソングライター、ミュージシャンの本質に迫る著作を発表、編集者としても多数の書籍制作に関わりました。最後の本は雑誌「レコードコレクターズ」に2016年から19年にかけて連載していた、細野晴臣さんが1976年に発表した名作『泰安洋行』が生まれた背景を紐解く『追憶の泰安洋行』。80年代半ば、レコード制作プロダクションでA&Rとして鈴木さんのワールド・スタンダードを担当していた長谷川さんは、連載「追憶の泰安洋行」執筆のため、「一番弟子」として細野さんと数々の共同作業を行ってきた鈴木さんと30年ぶりに再会、細野さんをめぐるインタビューを行いました。二人はまた一緒に仕事をやろうと話し合っていたそうですが、長谷川さんはその直後に病のため58歳の若さで帰らぬ人となってしまいました。
回顧展の一環として、長谷川さんが生前企画していた故郷での音楽フェスティバル、「Little Oaru」を開催するにあたり、『追憶の泰安洋行』にこのような逸話を寄稿していた鈴木さんに、長谷川さんとの思い出をぜひ小樽で語っていただけないかとご相談したところ、快諾いただき、トークゲストとしてご登壇いただきました。「Little Otaru」ではほかに、長谷川さんの叔母にあたる日本舞踊藤間流扇玉会会主、藤間扇玉先生がトークゲストで、1990年のメジャーデビュー当時から長谷川さんが絶賛していたバンド、HEATWAVEの山口洋さんがライブゲストで参加、長谷川さんを追憶するフェスティバルを盛り上げてくれました。
鈴木さんが小樽に来たのは初めてでしたが、長谷川さんに「呼ばれた」二日間の滞在で受けた印象を「大きな坂道をくだりながら、小樽は『人間の営みを夢のようにしてしまう奇跡の街だな』と感じました」と綴っています。
回顧展から4か月が過ぎた2025年11月、鈴木さんから一通のメールが届きました。
「2026年から、毎月、一曲で『小樽の音楽』選ぶのどうでしょうか?紹介場所はHPでも、タウン誌でも、何でもいいのですが。どうですか。ちょっと本気で考えてみて。
タイトル、例えば。。
『小樽の風景音楽』という感じで、長谷川くんの縁から、先日、訪れた小樽の風景を思い出しながら、ぼくが毎月、冬→春、夏→秋、そして冬と12曲選ぶのはどうでしょうか?」
鈴木さんからご提案いただいたこんなメールから今年1月に裏小樽モンパルナスのウェブサイトで始まったのが『小樽の風景音楽』です。私たちがお世話になっている札幌のカメラマン、須田守政さんに小樽の四季を切り取った12枚の写真をご提供いただき、その風景写真にあった音楽を鈴木さんがセレクト。楽曲はspotifyとapple musicのリンクから試聴できるようになっています。その曲にまつわる素敵な文章とともに、見る人、聴く人、読む人の心の中にある風景を揺らすような音楽コラムになっています。
この連載と連動する形で、私たちが月一回コーナーを担当しているFMおたるの「ロード・トゥ・裏小樽モンパルナス」で鈴木さんがセレクトした曲をオンエア。また写真を中心とした小樽の季刊タウン誌「Ture*Dure」でもこのコラムを年4回連載していただくことになっており、一回目が現在発売されている37号2026 springで4ページにわたり掲載されています。長谷川さんとの縁で始まった『小樽の風景音楽』はネットとラジオと雑誌を結び、2026年12月まで続く、小樽でも珍しいメディアミックスに結実しました。
FMおたる「T-Product」ロード・トゥ・裏小樽モンパルナス
しかし、話はまだまだ終わらない予感が…。昨年12月、「Little Otaru」にご出演いただいたHEATWAVEのニューアルバム『Mr. OUTSIDE』(このアルバムはタイトルからわかるように長谷川さんへの思いが込められた作品です)リリース記念ライブが東京渋谷で行われ、そのライブを見た翌日に鈴木さんにもお会いすることが出来ました。いろいろとお話をする中で、今度は私たちから鈴木さんに、『小樽の風景音楽』に続く逆提案を行ったのですが、それに対して鈴木さんはウェブサイトに次のように書いてくれています。
「2025年も終わろうとしています、そんな時期に。寒空の下、北海道・小樽より平山秀朋くんがやってきた。彼とは、今年の夏の『長谷川博一くん・追悼イベント』以来だったが、プロジェクトは形を変え、2026年〜27年、共に〈ある試み〉をすることとなった。
ぼくはかつて、宮沢賢治さんのトリビュートアルバムのプロデュースで花巻を訪れたことがあるが、そのときは素敵なアルバムが生まれた。まだ、どういうことが出来るかは未知数だけれど、自分の音楽活動の夕暮れに、小樽という街にこだわってみようと思う。
ぼくのこころは確かに動き、音楽も動き出した。楽しみがまたひとつ出来た。良い年をお迎えください。」
ワールド・スタンダードの最新アルバム『KOMOREVIA』(HEATWAVEのアルバムと発売日が同じ!)に『記憶の円環』という曲があります。偶然の符合ですが、山口さんも「円環」という言葉をよく使います。鈴木さんも山口さんも40年以上のキャリアがありながら、そして長谷川さんという共通の友人がいながら、出会ったのは昨年夏の小樽が初めてでした。作っている音楽は違うとはいえ、二人とも同じような音楽を、同じような深い愛情と敬意をもって聴いてきたことがわかり、すっかり意気投合していました。
長谷川博一という今は亡き存在が、生きている人と同じように、いやそれ以上に、生きている私たちを結び付けてくれる。死者と生者の間で繰り広げられる対話、これを円環と呼ぶのではないかと思います。
このような「流れ」から生まれた『小樽の風景音楽』。3月のコラムを公開しています。その奥にあるものを感じて、心が「木漏れ日」のように揺らめくのなら、それはそれは本当に嬉しいことです。
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