バリアフリー上映実現への道(4)
vol. 20 2022-01-08 0
第四回目は「音声ガイド収録」の模様とナレーターの島本須美さんのお話をお届けします。
「視覚障害、聴覚障害の方にも映画館でダンスを体感して欲しい」という熱い思いを、クラウドファンディングで皆様からのご支援を賜りながら始動しました。
その模様を数回に分けレポートしていきます。
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前回の「モニター検討会」で修正した原稿を犬童監督が再度チェックし、収録1週間前には島本さんへナレーション原稿と本編DVDを送付しました。
収録当日、朝9時半にスタジオ入りした島本須美さん。すぐに最終チェックの打合せを行います。ご自宅でナレーションを3回もテストして(!)下さったという島本さん。
「この箇所は少し早口になってしまうので、こうしたら良いのでは?」
というように、実際に読んでみて疑問に感じた点や改善点、そして単語のイントネーションの確認をディスクライバーの堀内さんと行います。
10時には、収録を開始。犬童監督も収録に立ち会いました。
スタジオで収録準備中の島本須美さん
はじめて音声ガイドナレーターを行なっているとは思えないほどスムーズに収録は進んでいきます。台本と映像を観ながら確認していた犬童監督も、途中から目を閉じて島本さんのナレーションに聞き入っていました。
途中、昼休憩を挟みながら行ったナレーション録音も15時には終了し、プロフェッショナルな人たちの実力をただただ見せつけられました。
収録中の様子(画面右奥 扉の向こう側に島本さん、中央にディスクライバーの堀内さん)
音声ガイド台本をチェックする犬童一心監督
収録後、島本さんにお話を伺いました。
■「名付けようのない踊り」をご覧になってどのように感じられましたか?
泯さんは、すごく存在感があって、人間が深いというか。ちょっと計り知れないものを持っていらっしゃるようなイメージだったので、それが全部映画の中に入っているような気がしました。泯さんは踊られる時はすごく集中していらっしゃるんですけれども、集中を解いた時に、ニコッと笑われるシーンがあったのですが、その時にすごく暖かいものを感じました。そこがとても好きでした。
■本作の音声ガイドナレーターの依頼があった時にどのように感じられましたか?
まず、音声ガイドをやらせていただくということが意外でした。実は色々な映画で、音声ガイドがあるということを初めて知りました。そこに参加させて頂けることに、嬉しく思いました。そして、素敵な田中泯さんのドキュメンタリーということに興味を持ち、ましてや、「踊り」が音声ガイドでどういう風になるのか、興味深くて是非参加させていただきたいと思いました。
映画を実際に観させて頂いて、踊りがとても素敵だし、映画も深く考えさせられるものだったので、どのように私がこの映画に携わっていけばいいのかしらと考えました。泯さんは宇宙というか、地球全てを表現していらっしゃるように見えました。地球上にあるもので私が存在できるものとしたら「風」であるのがいいのかしらと思って、風のように音声ガイドを聞いていらっしゃる方の耳元にそよげばと、イメージの中で思って臨みました。
結果どうなったか…監督どうでしたか?
監督:泯さんが土で、島本さんが風、という感じがとてもしました。
島本:監督からOKが出ました。(笑)
■全編通してナレーションを読まれて、「風」のようにというのがキーワードだと思うのですが、具体的にどのようなことに気をつけて読まれたのでしょうか。
思ったよりも、速く読まなければならない箇所が沢山ありました。それが、あまり早口で、「あれ、風吹いた?」みたいになってはいけないな、と思って速い箇所も言葉がわかるように気を使っていました。ゆっくり読めるところは雰囲気を出し過ぎてしまうので、そこは少しナチュラルな感じにもっていかないと、など色々と作戦を練りながら臨みました。
■音声ガイドは初めてのご経験だったということで、普段やられている声優のお仕事と大きな違いがあれば教えてください。
大きな違いはほとんど無くて、ただ、アニメのような声は出さないほうが良いと思っていましたので、ナチュラルな感じで読めればと思いました。
■あまり感情を込めずに読まれていたとの事ですが、島本さんのナレーションを聞いていると「色」を感じる事が出来ました。映像とは別のイメージを浮かべて読まれたのでしょうか。
「色」は全く意識してないのですが、無色透明なのが一番良いなと思いながら挑みました。普段、やり過ぎる傾向があるのですが、ドラマチックに踊っていらっしゃるところなどは気持ちをすごく入れたくなってしまって、もしかしたらそういったところに多少色が付いているかもしれません。日常を表現する時には逆に力が抜けているような感じ、自然の色が見える感じになっていれば良いなぁ、と思っています。
■「色」というのは、例えば自然の描写をしている時にふわぁと緑色が浮かんできたり、そういった色でした。
それは意識しています。桜の色とか、オレンジ色の海の色とか、そういうのが伝わると良いです。
■はい、「オレンジ色」と言葉で説明された以上の色が想像できました。
私も映像をもちろん観てナレーションをしていますが、それを言う時に、直に見ているような気持ちになりました。ロケ先に私も行っていたような。桜の木も、すごく大きいなぁというイメージで読みました。私も一緒に、世界中を旅させていただきました。
監督:今日島本さんのナレーションを聞いていましたが、「山梨」次は「広島」、「ポルトガル」など実際に映像を言葉で説明されると、色々な場所に行っているというのをいつも以上に実感しました。ガイドが付いているので分かりやすいです。テロップよりも、途中、移動しているという感じが実感できました。
島本:長い時間かけて撮影されていたから、言葉一つで、すごくワープしてしまうんだと思います。
■島本さんの音声ガイドを聞かれる皆さんにメッセージをお願いします。
音声ガイドは、目の不自由な方、視覚障害の方のためのものではあるのですが、2度3度と見て下さるのであれば、一度は私の音声ガイドを聞きながら、観ていただけたら嬉しいです。是非、劇場まで足をお運びください。
リターンの一つ、ポスターTシャツを島本さんへプレゼントしました
皆様のご支援から始まりました「名付けようのない踊り」バリアフリー制作。残すはUDCast(アプリ)の初号試写のみとなりました。このプロジェクト終了後になりますが、最終レポートをさせて頂く予定です。
協力:パラブラ株式会社/株式会社アウラ
取材・記事:犬童みのり