バリアフリー上映実現への道(2)
vol. 13 2021-12-20 0
第二回目は「音声ガイドモニター検討会の模様」をお届けします。
「視覚障害、聴覚障害の方にも映画館でダンスを体感して欲しい」という熱い思いを、クラウドファンディングで皆様からのご支援を賜りながら始動しました。
その模様を数回に分けレポートしていきます。
<<モニター検討会とは?>>
今回の音声ガイドは、株式会社パラブラさんに制作をしていただきます。パラブラさんは、音声ガイドを制作する過程で「モニター検討会」を必ず実施しています。視覚障害の方の生(ナマ)の声をお聞きするためで、とても重要な会となります。
まず、ディスクライバー(音声ガイドの原稿を執筆する人)の堀内さんが音声ガイド(映像の情報を言葉で説明したもの)の原稿を映像に合わせて読みあげます。それを音声ガイドモニター(視覚障害の方)に観ていただき、分かりづらかった箇所などの感想を述べてもらいます。
モニターには、加藤さん(先天性全盲)と杢代(もくだい)さん(中途視覚障害)にご協力をいただきました。
今回は犬童監督が参加し、音声ガイドに相違ないかチェックしながら、作品が伝わりやすくなるようモニターの方とディスカッションし、修正していく作業を行いました。
左)ディスクライバー堀内さん 右手前から)モニターの杢代さん・加藤さん
犬童監督...犬童 / 加藤さん...加藤 / 杢代さん...杢代 / 堀内さん...D堀内(Dはディスクライバーの意)/ 監修・松田さん...P松田(Pはパラブラの意)と表記します
■はじめに
ディスクライバーが進行について説明し、映画の最低限の情報を伝えます。
D堀内 「音声ガイドが説明過多、説明不足にならず映像のイメージを阻害することのないように、気になる箇所を細かくチェックしていきますので、20分毎に区切って上映します。観終わったら、ディスカッションしていきます。この映画は、ドキュメンタリー映画です。田中泯というダンサーの踊りを追いかけています。田中泯さんの踊りは音楽に合わせて踊っていません。」
■〜オープニングから20分の映像を観て‥‥
D堀内 「田中泯さんが即興で踊っていることは想像できましたか?」
加藤 「田中泯さんがいる場所、その空間把握に戸惑いがあるものの、想像できます」
杢代 「何がどこまでわかっているのかどうか‥‥でも、なんとなく想像できます」
お二人とも、映像と音声ガイドの距離感に戸惑いつつ、まだ映画の世界観を探っているような印象です‥‥
犬童 「ナレーションのテンポを泯さんの踊りに合わせてゆっくり読んだらどうだろうか?『間』をとってみたら‥‥」
加藤 「想像を膨らませるには、同じテンポの方が良いです。」
杢代 「今までの音声ガイドは、同じテンポが多かったので、どうでしょう?」
P松田 「視覚の中途障害の方は、ナレーションが入っていないと、その間、何がおきているのか気になると思います。先天的な人のように音を聞くのに慣れている人は、『間』があると、現場の生(ナマ)の音なども聞き取るそうです。」
『間』にある音を楽しむということもあるのではないかということで、気になる箇所の映像を上映して、今度は『間』を作って音声ガイドを読んで、観てもらいます。
加藤・杢代 「この方が、想像しやすいかもしれません‥‥」
加藤さんはミュージシャン、短編映画の監督もしています。生まれながらに視覚のない世界にいる加藤さんは、どんな映像を想像しているのでしょうか?
杢代さんは朗読サークルに所属しています。見慣れない映画に感動や発見はあるのでしょうか?
犬童 「皆さんが想像しやすいように『間』をとって音声ガイドを読んでいくのが良いのではないか、映像にピッタリ合わせなくても良いので。」
D堀内 「責任重大だーっ。」
皆さんが納得できて、改めて映画の世界に入り込めるように、こうしてディスカッションを繰り返しながら進行していきます。
ディスカッションの様子:後方右手が犬童監督
■さらに、20分映像を観て‥‥
実写とアニメーションがカットバックする(編集で、映像が行き来する)シーンで、モニターのお二人は混乱したようです。視覚情報の伝達の速さ、映像を言葉で伝えることの難しさが垣間見えました。もう一度、場面転換の一言を加え、言葉を変え、『間』をとって上映し観ていただくとお二人の混乱したイメージが払拭でき映像が動き出したようでした。
監督が一緒に検討の場にいることで、モニターさんの質問にその場で答えが導けて、制作サイドにも納得のいく内容になっていきます。
■〜半分ほど見終わって‥‥
初めの頃のイメージの戸惑いがなくなり、
D堀内 「田中泯さんのダンスのイメージ、映画のイメージができてきましたか?」
加藤 「オイルプールのシーンなどのゆったりした動きは想像しながら観れました」
杢代 「音声ガイドがない場面でも、田中泯さんの肉体表現としての踊りがイメージできました」
しかし、やはりカットバックするシーンには混乱が生じるようで、修正していくための一言、言葉の変更‥‥ディスカッションは続きます。視覚障害の方の映画鑑賞は、音声ガイドの補助によってイメージ、想像の積み重ねで楽しんでいくのです。
裏山でタバコを蒸す田中泯に、山村浩二のシネカリ(映画フィルムを針などで引っ掻いて絵を描く方法)のアニメーションが絡むシーンの様子は、音声ガイドが説明過多にならず、田中泯のナレーションで想像していくことを楽しんで観ることができていたようです。
■〜ラスト
見終わっての感想
加藤 「田中泯さんのダンスに感動しました。監督がいてくれるのは大きいと実感しました。」
杢代 「視覚障害者と今回の映画は、親和性がないのではないかと思っていましたが、ダンスを通して田中泯さんの生き様まで想像できました。なぜダンスに傾倒していったのか、もっと知りたくなりました。監督とディスカッションできて楽しかったです。」
D堀内 「この音声ガイドは、どうしたらいいのかすごく考えましたが、モニター会でディスカッションして監督から明確な答えをもらえたので、心強かったです。言葉と『間』で、視覚障害者の方に寄り添ったガイドにしていきたいです。今後映画は、<音声ガイド付き>というのが普通になればいいと思います。」
次回は、聴覚障害の方のためのバリアフリー日本語字幕の回をお届けする予定です。
バリアフリー版制作協力・モニター検討会運営パラブラ株式会社 https://palabra-i.co.jp/
取材・記事 佐藤啓(共同プロデューサー/クラウドファンディングスタッフ)