100年後も孫らに見せたい(福島民報)
vol. 16 2020-05-05 0
100年後も孫らに見せたい
〜浪江・津島の帰還困難区域 ドローンで撮影〜 福島民報(2020.5.3)
解体された家屋の跡地には、満開の桜だけが残った(撮影:野田雅也)
東京電力福島第一原発事故で帰還困難区域に指定されている浪江町の津島地区を、小型無人機ドローンで撮影、記録するプロジェクトが進行中だ。「百年たった後も、孫らに古里の姿を見せたい」。家族との思い出が詰まった自宅の取り壊しが始まり、消えゆく集落の記憶を残そうと避難先で暮らす住民らが立ち上げた。
四月下旬、ピンクに色づいた桜の上空で、カメラ付きドローンが旋回する。住民の姿はなく、飛行音と小鳥のさえずりだけが周囲に響いた。「最後のシーンは桜と決めていた」。フォトジャーナリストの野田雅也さん(45)は住民の依頼を受け、約五百戸の住宅を一軒ずつ撮影。一年近く埼玉県から通い続けた。
山あいに住宅が点在する津島地区は、原発事故で全域が帰還困難区域となった。住民が再び暮らせるよう、国は地区の一部を「特定復興再生拠点区域」に指定し、除染や傷んだ家屋の解体を進めている。
撮影に同行した三瓶春江さん(60)も「喜んで取り壊す人なんかいない。でも今の現状で残しても、子どもや孫が困ってしまう」と、自宅解体を決心した一人だ。四世代十人が食卓を囲んでいた居間の畳は腐り、大きな穴が開いていた。
「皆が仲良く暮らしていた証しが消えてしまう」。解体を前にした昨年夏、危機感を持った住民十二人で団体を立ち上げ、野田さんに記録役を託した。約二百万円に上る制作費はひとまず有志で立て替えたが、クラウドファンディングで八日まで募集中だ。映像を収めたDVDは六月ごろに完成する見通しで、一般向け販売も予定する。
三瓶さんは多くの人に映像を見てほしいと願っている。「これだけの家々が失われる状況は、あなたの古里でも起こり得る。原発を自身の問題として考えるきっかけとなってほしい」