「一生懸命やる意味は?」から始まった師弟関係|仙頭武則×長谷川汐海
vol. 7 2025-12-25 0
全8回にわたりお届けする『鯛のあら』制作舞台裏特別企画。
第4弾となる今回は、映画プロデューサーで名古屋学芸大学教授の仙頭武則さんと、その教え子であり『鯛のあら』の監督を務めた長谷川汐海さんによる対談インタビューを一部公開いたします。
「答えを求めるな、出すのは君たちだ」——伝説のプロデューサー仙頭武則と、負けず嫌いな教え子・長谷川汐海の関係性とは
『EURECA ユリイカ』『M/OTHER』など、カンヌ国際映画祭で延べ9作品の招待実績を持ち、数多くの若い才能を世界へ送り出してきた伝説的プロデューサー・仙頭武則。彼は、大学の教え子である長谷川汐海監督をどう見ていたのか。
二人の物語は、大学時代の、ある夏の日に長谷川監督が放ったある発言と、それに対して仙頭さんが見せた本気から始まった。
1. 「一生懸命やって何の意味があるんですか?」から始まった関係
Q. 大学生時代の長谷川監督はどういう印象でしたか? ゼミに入ってからっていうところだと思うのですが。
仙頭: 彼女(長谷川監督)が大学3年生当初は、目立つような学生ではなかった。変わったなと感じたのは、オープンキャンパスで短編のゾンビ映画を撮影するイベントの時。
長谷川:ゼミ生全員がゾンビメイクをして参加したやつですね。
仙頭: そう。高校生に撮影風景を見てもらうのが目的だったんだけど、なんでも本気でやってしまう性質でね。撮影なんて言ったらなおさらでしょ!そしたら彼女が、「これ、オープンキャンバスのイベントなのに、なんでこんなにちゃんとやろうとするんですか?」って聞いてきて。
長谷川: ……正直、そんなこと言いましたか、私(笑)。全然覚えてないんです。
仙頭: 覚えてない? 怒ったなぁ、オレ。「目的がなんであろうが「撮影」なんだから『この程度でいい』 なんてないよ! 全力でやるんだよ!音楽家が、ギャラが安いからって演奏を適当にするのか?できない でしょ、そんなこと!」って。
長谷川: たぶん当時は他のことで上手くいってなくて、イライラしてたんだと思います。「もういい、直接聞いちゃえ」みたいな。
仙頭: あの時の君の顔はよく覚えてるんだよ。口を開けてポカーンとしてた(笑)。
長谷川: どこか負けず嫌いなところがあって。悔しいというか「このまま『分かってない奴』だと思われたくない」っていうのがあったんだと思います。そこからですね、仙頭さんにいろいろとなんでも聞きに行くようになったのは。
仙頭: あれ以降、距離が近くなった気がした。成長する学生はそんなきっかけが大体あるんですよ。
2. 答えは教えない、資質を「言語化」させる——プロデューサーは究極のカウンセラーであれ
Q. 大学時代の長谷川さんの監督としての脚本・演出の内容については、仙頭さんはどういう風に見られてたんですか?
仙頭: 僕は学生に「とにかくこれを見ろ」って膨大な映画リストを渡すんだけど、ある日、彼女が「私は鈴木清順(※1)が好きです」と言ってきた。その瞬間に「あ、そういう志向か」と。
長谷川: 鈴木清順監督の、あの様式美というか、独特の世界観が好きなんです。
仙頭: 僕はプロデューサーだから、一方向への強引な指導はしない。各自の志向をまず理解し、例えばデヴィッド・リンチが好きな学生にはリンチはこうやっているそうだ、と。彼女には清順さんの言葉等を引用して思考できるように導く。一人ひとりの志向に合わせつつそれぞれの資質を成長させることが僕の仕事でもあり、指導なんです。
長谷川: ゼミでのやり取りは、自分が「こうしたい」と思った時に、仙頭さんに「それは間違ってない」 と言ってもらうことで自信を持たせてもらう……そんな確認作業だった気がします。
仙頭: 僕は常々映画の創作には「正解は無限大、しかし明らかな間違いは存在する」と言い「だからオレに答えを求めるな。答えを出すのは君たちなんだ」と言ってたよね。彼女を面白いと思ったのは、 僕が間違いだけではなく、すこしだけ答えをいうと、その次には僕の答えを踏まえて展開させたアイデアを持ってくる。その通りにはしない。「なるほど、そう来たか」と思わせてくれる。思考できる学生は伸びるんですよ。
長谷川: 言われた通りにやるだけなら、自分が作る意味がないですから。少しでも仙頭さんに「面白い」と思わせたい一心でした。
仙頭: 結局、ゼミもプロデュースも一緒。やる気のある人間とは徹底的に向き合う。夜中に電話してきて泣き出す学生もいれば、僕の研究室に泣きながら飛び込んでくる学生もいた。「カウンセラーか?オレは」って思いながら。
長谷川: 本当にカウンセラーだったのかもしれないですね(笑)。
仙頭: そうやって時間をかけて徹底的に相手をしてあげていると、迷走や停止していた学生が、最後はちゃんと映画を完成させてしまう。時間をかけて、本人もひょっとすると気がついていない心の底にある「何をしたいのか」ということを見つけてあげるんです。 彼女の卒業制作『repeat in the room』が完成した時、「オリジナリティ溢れる映画がようやく現れた、 プロの資質あり」と確信した。媚びる必要はない、好きなものを作って、観てもらうところまで責任を持ってやる、それが映画づくり。観てもらうことで映画は完成するんです。彼女も2年以上色んな場所を映画を上映するために飛び回り「観てもらう」努力を続けていた。その姿勢は立派でした。
(※1)鈴木清順(1923-2017):大正・昭和期の映画監督。独特の色彩感覚や奇抜な演出で「清順美学」と呼ばれ、国内外のクリエイターに多大な影響を与えた。
以上、仙頭さんと長谷川さんによる対談インタビューでした。
コレクター限定記事では、対談インタビューの全編を公開中
- 「なんとなく」を許さない、仙頭武則の編集・指導の哲学
- 師弟を超え、家族のように続く二人の関係性
- 長谷川汐海とSAMANSA、映画のこれからへの期待
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