合宿稽古を始めるにあたって(奥田)
vol. 19 2023-10-05 0
皆様
おはようございます、三人之会主宰の奥田です。
三人之会第二回公演、いよいよ合宿稽古の開始です。ここまで、本読みを通して全体の大まかなプランや考え方を俳優たちと共有してきましたが、ここからはスタッフを交えて、具体的な表現技法を探っていきます。
技法的な観点(戯曲の設定)から言うと、高行健『逃亡』にはいくつかの課題があります。
・1幕は深夜、明かりのついていない空間で進行しているため、戯曲の設定としては真っ暗であること
・登場人物たちは服を脱ぎ、ほとんど裸体に近い状態になること
・1幕の途中から水が溢れ出し、2幕では建物が完全に水浸しになっていること
こうして列挙してみると、高行健はあえて演劇では到底表現しようのない設定を選んでいるようにも思えます。裸体・本水の使用・照明の欠如は、いずれもリアリズム演劇の思想とは真っ向から衝突する要素です。ガス灯の発達により細かい照明変化が可能になったことによって近代演劇が発展してきたことを考えれば、照明を必要としない舞台空間というのは本末転倒の観がありますし、電源類がショートしやすい水も同じ理由で使用を躊躇われます。裸体の表現も、人間の社会的活動を描くことを目標としたリアリズム演劇の視点から考えれば滅多に遭遇する設定ではありません。
あるいは、大劇場という観点からみても上に挙げた三要素は表現しにくいものであると言えるかもしれません。逆に言えば、今回我々三人之会が上演しようとしている小劇場であれば、技法として採用するための物理的なハードルは下がってきます。戯曲が執筆された80年代は、日本ではバブル期と重なったこともあり小劇場は隆盛期に入りますが、中国ではその歴史は始まったばかりでした。
上にあげた三要素は、日本の小劇場ではそこまで見慣れないものではないはずですが、(本水を使った小劇場をみる機会はありませんでしたが、局部を見せる舞台、俳優の顔が認識できないレベルまで照明を制限する舞台には出会ったことがあります)中国では非常に鮮烈な衝撃を与える戯曲であると言えます。
中国では政治的な理由から『逃亡』を上演することはできませんが、表現技法の観点から言えば、大いにチャレンジのしがいがあります。
私が『逃亡』を上演したい感情的な理由に関しては、ここまでのアップデートと、10月3日のラジオフチューズ「寝ても覚めてもぼくらはゲイ」をお聞きいただければと思いますが、ロジカルな部分で言えば、技術的な練度を必要としていることが、『逃亡』の大きな理由でもあります。
今回、クラウドファンディングを実施しているのは、本水というハードル真っ向から挑むためです。俳優の立場からいっても、本水に触れる舞台に出演する機会は滅多にありません。ほとんど未知の状態から始めるため、稽古の段階から装置を仕込み、「実験」を繰り返します。少しでも時間をを増やすため、今回は合宿稽古を採用し、移動の時間を減らしています。東京の劇団で合宿稽古を行う人たちはほとんどいないと思いますが、少しでも1日に使える稽古時間を増やすためには、稽古場と宿泊所が至近距離であることは割と合理的な最適解であるといえます。
さて、クラウドファンディングの目的は、上記に挙げた三課題のうち主に本水の使用に挑むためであると述べました。では残りの問題、特にぶたいにおける裸体の表現に関して、私たちはどう考えればいいのでしょうか。
これはまたの機会に。
三人之会 奥田