テープ起こし5 ノーマル・ハートミニ講演会(4/14開催)
vol. 31 2019-05-03 0
4/14(日)に、東京は清澄白河のしごとバーで、開催された北丸雄二氏のミニ講演会の最終章になります。
ライブ感を重視して、テープ起こしした、そのままを掲載!
北丸:ゲイコミュニティのなかでも、こんなことじゃいけない、もっと立ち上がろう、カムアウトしようという流れができる。でも、あの当時はまだ、そういうことは当然だと思われていなかったから、ラリー・クレイマーは自分が作った団体から、除名されるわけ。
しごとバー:自分が作ったのに?
北丸:そう。おまえ、やりすぎだって。
しごとバー:熱くなり過ぎちゃって? 周囲と温度差があったんですか?
北丸:いや、みんな熱かったんだけど、方法論として、ラリー・クレイマーのやり方が受け入れられなかったんです。当時のアメリカのゲイは、ほとんどが隠れゲイだから、なおさら。騒いだら、またゲイのことが悪くとらえられてしまうと。
たとえば1977年、日本でも似たようなことがあったんです。当時、「全国青い芝の会」という障害者団体、脳性小児麻痺の人たちの会があった。車椅子に乗った、小児麻痺の人たちが、バスに乗せてほしいと訴えたんです。当時は、車椅子の人は公共交通が使えなかった。もちろん、バスにも車椅子が乗れなかった。
それで、「青い芝の会」はどうしたかというと、実力行使に出たんですよ。いわゆる、川崎バス事件――川崎のバスターミナルで、「俺たちを乗せろ!」って、支援者の人たちと押しかけたわけ。そうしたらバス会社の人たちがみんなで、その人たちを押し戻した。そのときの動画が残ってるんですが、「分をわきまえろ」って言われてるんです。「何様だと思ってるんだ」って。
しごとバー:へっ?
北丸:いまなら、みんな「へ?」って言うでしょ? でも、当時はみんな「へ」なんて言わない。「迷惑だ」って。一般の人は、「車椅子の人が、バス乗れるわけねーじゃん」と思っていた。だいたい、「町出てくるな、人の迷惑考えろ」って。
同じことが、HIVエイズにも言われたわけです。「人の迷惑を考えろ、おまえらが出てくることで、社会が震え上がる」と。当時、エイズがどうやってうつるのかすらわからなかった。触れただけでも危ないと思われていた……。
ところがそのとき、時代を変えるような、エポックメイキングな事件が起きる。1985年に、俳優のロック・ハドソンがエイズで死んだんです。
エイズはそれまでは、いわゆるゲイの癌だったわけです。ゲイってのはセックスの化け物だから、自業自得で勝手に死んでいなくなるなら、いなくなったほうがいいじゃないかという話になっていたわけ。ところがそこに、元青春大スターのロック・ハドソンがエイズだってことが報道された。
ロック・ハドソンって、日本でいえば、石原裕次郎、加山雄三みたいな人です。ハンサムで、甘いマスクで、しかも青い目だよ。ブルーアイってのは、白人の、いわゆるアイドルの象徴です。背も高いし、胸板は厚いし、相手の女優はエリザベス・テーラーとかさ。
当時、エイズの有名な研究所として、パリのパステル研究所というところがあった。そこに、彼が搬送される写真がゴシップ誌に出るわけ。もうすでにげっそりしている。その報道のあと、確か一週間後に、即死ぬわけ。
そのときに、アメリカ社会は仰天した。「え、ロック・ハドソンが、エイズ? エイズ=ゲイ。じゃあ、ロック・ハドソンはゲイなの?」彼はアメリカの息子だったわけだ。そんな人がゲイなの? じゃあ、ゲイってなんなの?――とならざるをえなかった。
僕たちが思っているゲイって……みんなけたたましい、派手派手しい人たちだと思ってたけど、ひょっとしたらそうではなくて、隠している“普通の人”たちがたくさんいるんじゃないかって気づくわけ。そこから、アメリカのメディアはガラリと変わっていく。
もうひとつ。ライアン・ホワイトという12歳の少年の存在がある。ロック・ハドソンが死んだ1985年10月のその翌月、インディアナ州ココモに住む、ライアン・ホワイトという12歳の少年が血友病で、HIVにかかったことが報道された。
じつはHIV自体には症状はないんです。他のウイルスに感染することで抗体がきかないから、それがみんな花開いてしまうんですよね。そのために体調が悪くなって、いったん学校を休み、診断を受けて、HIVだってことがわかり、彼はカムアウトするわけですよ。
そして学校に戻りたいと。ところがそのとき署名運動が行われて、全校生徒360人中160数人が、彼が学校に戻ることを反対した。地域の先生たちも50人が、ライアン・ホワイトの復学に反対したんです。
ライアン・ホワイトは裁判に訴えて、その翌年の2月の一日だけ復学が認められた。その日、ほとんどの人が学校に来なかった……。
おかしいと思うでしょう? でも実際、その状況に陥ると、誰しも、自分の近くには来て欲しくないと思う。遠くでやってほしいと。
たとえば、インディアナ州の遠く、ニューヨーク州の人たちは、「それは人道的ではない!」と言って、インディアナ州を責めるわけです。対して、インディアナ州の人たちは、「なんで、オレたちを責めるんだ」と、ものすごい反発が起こることで、問題が露呈していった。
そうやって、85年、86年という年が過ぎていくわけです。それはもう、本当に、すごい戦いだったんですよ。そのうちに全米が、エイズに対する偏見と差別に対して、総攻撃を、猛反撃を受けて、90年代、2000年代の戦いにつながり、そして最終的に同性婚につながっていくんです。
そんな時代に、自分が作った団体を追い出された、『ノーマル・ハート』の著者ラリー・クレイマーは、直接行動しようとして、もう一つ団体作りました。それが、世界的に有名なエイズ団体アクトアップです。エイズの会合なんかにいっても、「そんなんじゃ生ぬるい」といって、彼は血のつまったコンドームをびしっとぶつけるわけ。その血は、豚の血なんですけれど――びっくりするでしょ? でも、そこまで過激じゃないと、おまえら目を見開かねえだろうって。さっきの川崎の事件と同じだよね。
もちろん、そんな人が近くにいたら大変。大変だけど、同じことが起こったら、きっとまた同じようになる。
だから僕らは、二階の視点を持つことが必要なんじゃないかな。一階では血だらけになっている。でも二階にいる視点では、こういうことが歴史には必要なんだという冷静な視点を持つことによって、相対化される。そういうふうにして歴史はどうしようもなく動いていく。
仲間がどんどん死んでいくなかで、過激に行動した――アクトアップのことはいまでも、語り継がれていく。
(58:07まで)
こののちに、北丸氏が戯曲『ノーマル・ハート』の一部を朗読されて、終了――